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リリスと三国同盟③

 リリスはその美貌を憤怒で歪め、しなやかな左腕を金属製の門に向けた。

 すると、その指先から小型の竜巻が出現し、リリスを中心に雷を伴った暴風へと変化していく。地中に半ば以上埋まる巨大な岩が巻き上げられ、大木が根元から抜けて宙に舞い上がる。


「雷の暴風サンダー・ストーム


 魔法名を口にすると同時に吹き荒れていた暴風が指向性を持ち、豪槍と化して一直線に門へと伸びていく。次の瞬間、激しい破砕音が周囲に響き渡り、重厚な金属製の門が上空高く吹き飛んだ。そして数秒後、中央部分にパリパリと紫電を纏ったままの扉が、轟音と共に防壁上に落下した。

 魔法障壁は、防壁の上空にしか効果範囲が設定されていない。予算の都合もあるが、真正面から金属で加工された防壁が破壊されることは想定していなかったのだ。


 この規格外の威力を発揮した魔法は、雷と風の複合魔法であり、上級に分類されるものだ。それを何の媒体も無く、しかも無詠唱で唱えることができるリリスは、魔族―――サキュバスの女王である。


 その光景を眺めていたリリスは、粉砕した防壁を目にし溜飲を下げた。本来の仕事を済ませるため、崩壊した防壁に向かって歩を進める。


「そこから先、は関係者以外立ち入り禁止ですよ」

 都市の内部に足を踏み入れようとした瞬間、甘ったるく甲高い声がリリスを引き止めた。


 その声の主は、都市の内側から真っ直ぐにリリスの元に近付いて来る。

 魔法により巻き上げられた土煙が晴れていくと同時に、その姿が鮮明になってきた。それは、身長が5メートル以上ある巨人の姿をしていた。


 その巨人の頭部が、リリスに向けて忠告を発する。

「我々は戦争に興味がありません。どこの国が勝とうが、どこの国が滅びようが、全く関心がありません。でも、侵略行為への報復は、相手が土下座して許しを乞うまで止めませんよ?」


 リリスの視線の先、そこには巨人の頭部に乗り込んだ少女の姿があった。巨人はマギナテクノ魔道国が保有する防衛用の魔道兵士ゴーレムだったのだ。


 少女の勧告を受け取ったリリスは、その挑発的な言動によって、空から引き摺り落ろされた屈辱を再燃させる。

「大人しく頭を下げれば、従属させてあげようと思っていたのに・・・もう、止めた。オマエ達のような愚鈍な研究者は、無知を自覚すると同時に灰になってしまえば良いわ!!」


 リリスが右手を空に突き上げる。とする、瞬時に黒雲が頭上を覆い、ゴロゴロと遠雷が響き始める。


 金色に輝くゴーレムの頭部には、猫耳が付いた帽子を深々と被った少女が座っていた。長く伸びた青い髪をサイドで無造作にまとめ、目深に被った帽子から紫紺の瞳をギラつかせている。


 少女の名はリルイ・ノキア、現在14歳。若干10歳にして、魔道技術の最先端を疾走するマギナテクノ魔道国の技師長にまで上り詰めた歴史的な天才。魔力量が常人の数十倍という驚異的な数値であるにも関わらず、魔法の才能は皆無であり一切使用することができない。しかし、「傀儡使い」というユニークスキルw持っており、通常では1体しか使用できない魔道兵士を、最大5体まで同時稼働することができる。


 リリスの指が乾いた音を鳴らした瞬間、上空に魔力が集中し始める。


「―――サンダー


 妖艶に囁いた魔法名により稲光と同時に雷鳴が轟き、閃光によって世界が真っ白に染め尽くされる。無詠唱とは思えない威力の雷が、ゴレーム共々リルイを貫いた。その余波により、周囲の地表が帯電してパチパチと音を立てている。


 リリスの一撃により、あっさりと決着したかに思われた。しかし、視界が回復するよりも早く、電磁波を踏み付けながら疾駆する者がいた。それも5体。それは雷を地面へと受け流し、即座に反撃に転じたリルイの魔道兵士であった。


「サンダーごときで、我々を倒せるとでも思ったのですか?」


 ミスリル製のゴーレムは人間とほぼ同じサイズであり、破壊力を重視したものではなく、敏速性と高い通魔性を活かした対魔法師用の防衛部隊である。魔道師用に開発されたとはいえ、魔物で例えればAランク相当の攻撃力を発揮できる。


 人間の数倍に匹敵する瞬発力と腕力により、リリスを追撃する魔道兵士。しかし、リリスの身体には、かすり傷ひとつ与えることができない。


「ミスリルのゴーレム・・・道理で、私の魔法が効かなかったはずね。ふうん、ゴーレムの身体を避雷針にして、魔力を発散させているのね」


 リリスの言葉に耳も貸さず、リルイは淡々とゴーレムを動かして攻撃を続ける。5体を連携させてリリスを追い詰め、力任せに叩き伏せる。単純ではあるが、それが一番確実な魔法師討伐の作戦である。


「さあ、そろそろ、終わりにしましょうか?」


 リルイがそう呟いた時には、リリスは防壁を背にして魔道兵士に取り囲まれていた。一瞬、勝負が着いたかに思われた。しかし、追い詰められているはずのリリスが余裕の笑みを浮かべる。


「人間って、本当に愚かね・・・ピット・ホール」


 突如、リリスを中心とし、直径30メートル以上の巨大な穴が開く。トラップ魔法のひとつである落とし穴だ。強大な魔力によって作られた穴は垂直に落ち込み、暗闇に染まった空間の底は全く確認できない。

 直後、リリスの周囲に展開していた5体の魔道兵士は、その穴に飲み込まれた。


「鉄屑は所詮ゴミでしかないわね。少し大きいけれど、ゴミはゴミ箱に捨てないといけないわね」

 リリスは穴に落ちることはなく、翼によって空中に浮かんでいる。防壁の真上でなければ、魔法の強制解除は起きない。


「・・・・・・アが」


 その光景を目撃したリルイは、小刻みに震えながら帽子に手を掛ける。そして、猫耳が付いている帽子を脱ぎ捨てた。


「この、クソババアが!!

 可愛い子供達を、穴に落としやがって。許さんど、コラアッ!!」

 金色のゴーレムの頭上で立ち上がり、片足をダンッと踏み出してリリスを鋭く睨み付けた。


 頭脳だけでは、マギナテクノ魔道国の頂点は獲れない。生来、リルイは凶悪な性格だ。散々周囲に噛み付いた挙げ句、全ての大人を踏み台にして今の地位に就いたのだ。暴れると手に負えないため、普段は沈静効果のある魔道具、猫耳帽子を着用させられている。しかし、猫耳帽子を脱ぎ捨た瞬間、その枷から解き放たれるのである。


「あらあら、そんな乱暴な言葉遣いをしていると、消し炭にするわよ・・・クソガキが―――雷撃ライトニング!!」


 空中に浮かんだままリリスが手を翳す。すると、その手が周囲に稲妻を発しながら紫電に包まれた。リリスがその手を振り下ろすと同時に、金色の魔道兵士諸共リルイが赤白色の電撃に撃ち抜かれた。


 雷の上級魔法を直撃させたリリスは、余裕を取り戻して妖艶な笑みを浮かべる。しかし、その余裕の笑みは、長く続かなかった。金色の魔道兵士が、その腕を伝導体にして雷撃の直撃を防いでいたのだ。ミスリル程度の強度であれば、雷撃の威力によって砕け散っていたはずだ。


「オリハルコン・・・」

「見りゃあ分かんだろうが!!

 金色のミスリルなんかあるか、バーカ。

 けどなあ、ちょっとビリっときたぞ。もう、ぜってえ許さねえぞ、クソババア!!」


 悪態をつくリルイに、リリスの怒りも頂点に達した。


「もう良いわ、この都市ごと消えて無くなりなさい!!」


 対峙する両者。

 双方が必殺の攻撃を繰り出そうと魔力を高めていく。周囲の空気が歪み、小石が宙に舞い上げられる。ミシミシと空間が軋み、互いの必殺技が放たれた―――――


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