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勇者の生還①

 聖剣の一振りであっさり消滅した魔王ベリアム。あまりの呆気なさにニセモノかとも思ったが、レベルアップの音が煩いほど続いている事実を考えると、どうやら本物だったらしい。恐らく、聖剣との相性が異常に悪かったのだろう。もしかすると、暗黒土偶と同様に、シャルルがピンポイントで急所を突いたのかも知れない。


 その後、最深部の奥に魔王の隠し部屋を発見したシャルルは、その中にあった金銀宝石類、数えるのも嫌になるほどの大量の金貨、そして伝説レジェンドっぽい武具、そして稀少魔法具等レアアイテムを没収し、アイテムボックスに投げ込んだ。

 その中に、古代魔法全集なる怪しげな本を発見。読もうとしたものの、シャルルにはその文字が読めなかった。象形文字のような字体から推測するならば、恐らく古代文字なのだろう。


「おっ!!」

 秘密の部屋。その更に奥のスペースに、シャルルはカモフラージュの結界に隠蔽された魔方陣を発見した。その横の壁には、御丁寧に「ダンジョン入口直行」と書かれている。

 このままここに住み着くこともできないし、今から50階層を引き返す気にもならない。意を決しシャルルはその魔方陣の上に立った。


 一瞬にして目の前が真っ白になり、意識が遠くなる。慣れない挙動に気持ち悪くなり、吐き気を催すがどうにか耐える。ようやく落ち着いた足場に安堵したシャルルは、ラストダンジョンの入口に立っていた。

「ス、スゴイな・・・今度、転移魔法が作れないか試してみよう」


 とりあえず、生きていることだし、シャルルは王都に帰らなければならない。

 しかし、シャルルとしては、置き去りにした他のメンバーと顔を合わせたくない。奇跡的に倒せはしたものの、普通であれば暗黒土偶に殺されていたのだ。何より、逃げるための道具として、あの場所に置き去りにされた事を許せはしない。


 シャルルは歯を食い縛る。

 それでも、帰らない訳にはいかない。下級貴族とはいえ、シャルルは準男爵家の人間だ。それに、魔王が最後に口にした言葉を、国王に伝えなければならない。


 シャルルは何度も深呼吸をして、どうにか気持を落ち着かせる。冷静になったところで、ふと自分を省みた。

「そういえば、僕のステータスは一体どうなっているんだろうか。レベルが125までは確認したけど・・・」


 懐に手を入れ、ステータスボードを取り出す。

 取り出す・・・取り出せない!?

 全身を隅々まで探し、アイテムボックスの中も確認してみたものの、どこにもステータスボードが見当たらない。

 どこかで落としたのだろうか?

 魔王と対決した後、レベルアップの音がしていた事を考慮すると、あの時までは間違いなくあった。という事は、あの最深部の隠し部屋で落としたとしか思えない。

 取りに帰り・・・たくない。

 まあ、良いか。王都に帰れば、再発行も可能だ。


 シャルルは否応なしに、王都に帰らなければならなくなった。



 王都に帰るには、それなりに時間が必要だった。

 馬などの乗り物はないし、当然のことながら王都にいるワイバーンが迎えに来るなどという事もない。身体強化の魔法を使用して全力疾走しても、2、3日で到着する距離でもない。

 長距離を転移する魔法を作ろうとしてみたが、それもできなかった。現存する魔法は、作れないらしい。確かに、同じ内容の魔法が複数できると、色々と問題がありそうだ。そもそも、そんな必要もない。とりあえず、転移魔法はこの世界に存在しているようだ。

 シャルルはヒマを見付けて、調べることにした。


 強化魔法の使い方にも慣れ、普通の馬よりも速く走れるようになったシャルルは、ラストダンジョン攻略から10日余りで王都に戻ることができた。


 高さ10メートル以上ある防壁に囲まれた城塞都市、ユーグロード王国の都パノマ。その防壁が視認できるようになると同時に、砂利混じりの土だった路面が石畳へと変わる。大国であるユーグロードといえど、街の外から石畳を敷いている都市はパノマだけである。正確な人口は分からないが、20万人以上が住むという巨大都市だ。


 行き交う商人や旅人が多くなり、王都内へと続く門の前に着いた時には、500人以上が列を成していた。他国の間者や工作員などが潜入すこともあるため、検問を実施しているのだ。


 行列に並んで2時間後、ようやくシャルルの順番が回ってきた。

「パノマには、いったい何しに来たんだ?」

 門番らしき兵隊が、高圧的に訊ねてくる。悪態をつかれるのはいつもの事なので、大した不快感も覚えず返答する。

「街に僕の自宅があるので、帰宅するだけなんですけど」

「王都民なのか?」

 訝しげに、門番が僕の格好を上から下まで確認する。

 現在の服装は、革の鎧に道中で買い求めた銅の剣。そして、ボロボロになったズボンと、擦り切れた布の靴だ。


 これは、もしかすると、怪しまれているのかも知れない。

 「帰宅」がまずかったのか?

 それとも、別に理由があるのか?

 ステータスボードを紛失している今、自分を証明するものがない。


「よし、行って良いぞ」

「あ、あれ?」

 肩透かしを食らい、よろめきながら門番の様子窺うと、手にしていた鉄製の盾で都市内の方に押し出す。

「お前が何か問題を起こすとも思えないし、そんな力もないだろう。

 まあ、あれだ。王都には仕事もあるし、まあ、その、頑張れよ!!」


 どうやらシャルルは、王都民ではなく、田舎からの出稼ぎ者に見られたようである。



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