うまいカア
カラスって怖い、汚い、困る、賢い、そして,美味しい?
うまいカア
カラスがごみをあさって困る。街の住民はごみの日の後始末に辟易していた。ネットをかけてあさらないようにしても、カラスは賢いのでそれを器用に外してごみをあさる。
「あんなごみ、食ってうまいのかよ」
町内の掃除当番にあたるたび、住民は文句を言い、しぶしぶ箒と塵取りをもってごみ置き場を片付ける。
「カラスを野放しにしているのは行政が悪いからだ」
役所には陳情が山ほど送りつけられ、そのたびに小細工のような対処をするのだが、もちろん効果もない。
とうとう大都市の地方自治体連合が、苦情に押されて、大々的にカラス撲滅作戦に乗り出した。
成功報酬10億円、着手金は五十万円、効果があれば報奨金ということでその効果の程度によって、最高10億円が支払われる。ただし、具体的な計画やアイディアを企画書として提出すること。
多くの個人、グループ、団体、研究機関がそれに応募した。いろいろなアイディアが寄せられたが、多くは既存のものだったために却下された。
それでも、新型の網や、罠、カラスに吼える犬の訓練とか、いくつかの企画には着手金が付いたが、結果はほとんど捕獲できなかった。
ある生物学者とその友人たちが、企画書を出した。
あまりに荒唐無稽だということで相手にもされなかった。それでも学者と友人たちはそれを実行した。
カラス撲滅作戦は何年も続いた。罠が試験的に仕掛けられても、そこにかかるカラスはいない。毒のえさを食べたのは、飼い犬だった。しかし、撲滅作戦が開始されてから5年がたつ頃、カラスが減ってきた。十年目になると、カラスはほとんど見かけなくなった。
学者グループは、カラスの遺伝子操作をした。カラスの肉がおいしくなる遺伝子を組み替えたのだ。その肉は極上のターキー、烏骨鶏ほどの滋味があり、一度食べたら虜になるようなグルメにとって垂涎の味だった。
遺伝子組み換えのカラスは野に放たれ、そこで普通のカラスと交配した。交配しても、その肉のおいしさは遺伝した。そのカラスは普通のカラスよりも性的フェロモンが強く、多くの異性をひきつけることができる。だからあっという間においしい遺伝子を持った個体が増えていった。数年もするとほとんどのカラスがおいしい遺伝子を受け継ぐことになった。
ネットでカラスのレシピが載り、ある店でカラス料理が出されると、面白がって訪れた客が虜になった。あっという間にカラスが美味だと広まった。人は争ってカラスを捕獲し、食卓に乗せた。ゴミ出しの後は、みなこっそり物陰に潜み、投網やかごをもってカラスを追い回した。それはもう必死で。
あまりのおいしさに乱獲され、カラスは街から姿を消した。
学者たちはカラス撲滅作戦本部に、報奨金の申請をしたが、却下された。別に学者たちがカラスを捕獲したわけではないと。カラスを捕まえたのは、一般市民だから。
ただ学者たちは困らない。郊外に大きなカラスの養殖場を作って、うまいカラスを売り出したのだ。
カラスの肉、「うまいカア」は爆発的に売れ、各所に養殖場ができた。もちろん学者たちは大いにパテント料を取ったのは言うまでもない。
今日も街はきれいで、多くの善良な人の夕食のテーブルには丸々と太った「うまいカア」の料理が並んでいる。