第1話「森での出会い」
謎の穴の中に落とされたあと、目が覚めたらそこは森の中だった。辺りを見渡しても何もなかった。すると突然、後ろから何かの唸り声がした。
「なんだよ、よく分からないところに落とされた次は唸り声かよ…」
声がした方を見たまま突っ立っていると、狼のような大きなものが現れた。しかしそれは、俺の知っている狼とは違っていた。赤い目で爪がとても鋭く尻尾はとても長かった。
「な、なんだよ!」
俺は怖くなり、その場に倒れ込んでしまった。狼のような何かはゆっくりと俺の方に近づいてくる。
「や、やめろ!あっち行け!」
そんなことを言って何処かに行ってくれるなんて思っていなかった。なのに…
「人間のくせによく吠えるな。そんなに恐ろしいなら逃げれば良いだろう」
「え、え、えぇ!しゃ、喋った…」
「そんなに驚くことないだろう?まさか、この俺のことも知らずにここに入っていたとでもいうのか?」
「お、お前のことなんて知らねぇよ!」
「なんと…!それは悪いことをしたな。てっきり勝負でもしに来たのかと思ってな」
狼のようなやつは何故か普通に話すことができるやつだった。俺は、こいつが言っている意味をこの時はまだ知るよしもなかった。
「こんな場所じゃ他のものが来てしまう。ひとまず俺の家に来なさい。」
「え、お、俺に言ってるのか…?」
「お前以外に何がいるというんだ」
こうして俺はこいつの家に行くことになり、森の中を歩き始めた。
「おい人間、名前はなんだ」
「名前?」
俺の死ぬ前の名前は【 野澤 涼 】[のざわ りょう]だった。
(せっかく異世界に転生してきたんだし、かっこいい名前にしてやろう)
そう考えていると…
「なんだ、名前はないのか?ならこの俺がつけてやるぞ?」
「え…?」
「そうだな、"アクア・グリファンス"なんてどうだ?」
「アクア・グリファンス…… 、俺の名前…」
「どうだ?気に入ったか?」
「あぁ、この名前、大切にするよ。ありがとな…えっと、名前は……?」
「まだ名乗ってなかったな。俺は"ガルファン"だ。この森で1番強いんだぞ?」
「え、そうなのか?」
「強いからこそ挑戦してくるやつが来るのさ。ほら、そう言ってる間に家に着いたぞ」
そう言われて前を見ると、そこには小屋のような小さな建物があった。どうやらここがガルファンの家らしい。小屋の前には木の実があり、その周りにはとても小さい生き物が何体もいた。
「そこらにいる小さいのは"ファング"だ。見た目は可愛いが、噛み付かれると痛いぞ」
「気をつけるよ」
「そういえばアクア、お前何処から来たんだ?」
(穴に落とされて気がついたらここにいたなんて、信じてもらえないよなぁ。でも、話してみるか)
「ガルファン、信じてもらえないかもしれないけど、俺は転生して気がついたらここにいたんだ」
「その話を信じろというのか?」
「あぁ、嘘みたいに思えるかもしれないけど本当なんだよ」
「そうか、詳しく聞かせろ」
俺はガルファンに起こったことを全て話した。交通事故で死んだことや、天使に会って謎の穴に落とされたこと、そして俺はその天使に転生先がこの世界の魔法使いと言われたこと、全てを隠さずに話した。
「そうか、確かに信じがたい事だが嘘ではないのだろうな」
「ここまできて嘘をつく意味なんてないよ」
「天使とやらに、魔法使いと言われたといっていたな?」
「それがどうかしたのか?」
「もしそれが本当なら、お前は魔法学園に入学しなければならない」
「学園?なんでだよ」
「この国の決まりなんだ。魔法使いは魔法学園に入学して、色々と学ばなければならないっていうな」
「じゃあ俺は、その魔法学園とやらに入らなきゃいけないのか…!」
「あぁ、しかも入学には条件があるんだ」
「条件?」
「ちょっと待ってろ、たしか入学用の紙が家の中にあったはずだ」
なんでそんなものをガルファンが持っているのか不思議ではあったが、そんなことはもうどうでもよかった。
「あったぞ、見てみろ」
ガルファンが持ってきた紙にはこう書かれていた。
《魔法学園入学条件》
1 .使い魔がいること。
2.ギルドに加入していないこと。
3.魔物討伐経験があること。
この3つが書かれていた。
「この条件が満たされていないと入学は難しい。お前がギルドに入っていないのはすでに分かっているが、あとの2つはどうしたものか…」
「魔物討伐って事は魔物を倒せばいいってことだろ?」
「まぁ、そうだな。そこら辺にいるファングでも倒しておけばいいだろ」
「どうやったら倒せるんだ?」
「そこら辺にある木の棒で叩いておけば倒れるだろ」
辺りを見渡すと近くに長い木の棒があった。俺はそれを手に取り、ファングを一度だけ叩いた。すると一発で倒せた。
「意外と弱いんだな。もう少し強いと思ってたよ。」
「そんなこと言ってるとファングに噛まれるぞ?」
ガルファンは少しからかうようにそう言った。
「残りは使い魔だが、どうしたものかな…」
「なぁ、ガルファン」
「なんだ?」
「お前が俺の使い魔になるってのはどうだ?」
「俺が?お前の使い魔?」
「あぁ、そうだよ」
「面白いことを言うな。別に構わないが、なんで俺なんだ?強いからか?」
「とくに理由はないよ。俺はただガルファンがよかったんだ」
「そうか、やっぱ面白いやつだな。お前の使い魔になってやるよ」
「本当か…!ありがとう、ガルファン」
こうして俺は魔法学園入学条件を満たした。