沢山の名前をもつ大木の噺
大木がまだ若い頃の話
近くには小さな村があり
何時も村人達の笑顔が絶えませんでした
村の外れには、お店を営む兄妹が居ましたがなにぶん村外れなだけあって客足は疎らで貧乏でした
ある日兄の清太郎が森の奥で椿の木を見つけました
その木には白い華が沢山咲いていましたので清太郎は身体の弱い妹の為に一枝だけ手折っていきました
椿を家に持ち帰り早速妹の夏代に見せてやりました
「夏代、綺麗な花を見つけたよ」
「とても綺麗な花、この花はなんと言うのかしら?」
何の花かと聞かれた清太郎は名前なんて知りませんので、村の大人達に訊いて周りました
清太郎に訊かれた大人達は花の名前なんて知らないので
「その花はヒラヒラって言ってな、ヒラヒラお空に飛んで行っちまうんだ」
「ああ、その花か。それはプンプンつってな、時間が経つにつれ臭いがプンプンしてくるんだ」
などと、適当な名前を言ってやりました
名前を聞いた清太郎は大人達が適当なことを言っているのに気づきならば自分も、と妹の為に頭を捻って一生懸命考えました
家に着いた清太郎は妹に花の名前を教えて上げました
「いいかい?夏代この花の名はね、ドンドンって言うんだよ」
「ドンドン?変な名前ね」
「ドンドンってのはこの花を見ていると、どんどん元気になるんだ」
「元気に...?」
「そう。だから夏代も花を見ていれば病弱も治るんだよ!」
「なら私ずっと見るわ!ドンドンを見て元気になればあにぃと、いっぱい遊べるからね!」
「うん!」
このドンドンと言う花、あっという間に村中に広まって、兄妹の家に沢山村人達が来て店も大儲けしたそうな
一つ目の噺を終えた老木に華は少し怒った風にして言った
「私達はフワフワでもプンプンでもましてやドンドンでもないわ!椿と言う立派な名前があるのに...!」
「しょうがないさ。村人達は花の名を知っていなかったのだから。」
「...でも!」
「そう怒らずに、ほらまだ噺はあるのだから」
「...!次はどんな噺かしら?早く話して頂戴!」
「ああ、わかった。では話そう、そうこれは大木に初めて友ができた噺だ。」
老木は二つ目の噺を少し嬉しそうにして語った