第26話(番外編)オシロイバナ 〜臆病〜
柊木 蓮。
変わった人だ。何で私なんかに気を遣うんだろう。
父の言う通りに勉強して、大学を出て、医者になって、それで良いと思っていた。それが父の願いだから。
勉強に友達なんていらない。娯楽なんていらない。
だけど、私は絵を描くのが好きだった。それが夢で、でも勝手に諦めている自分がいる。
けど、彼からの一言で目が覚めた。
『今しか伝えられない事もあるんだよ』
それを言った時の蓮は、凄く悲しそうだった。
私には分からないけど、希望をくれた彼に少しでも応えないといけない。そう思った。
院長室の前に立つ。
手が震える。怖い。
もし駄目だと言われたら、聞いてもらえなかったらどうしよう。
不安がどんどん膨れ上がっていく。
こんな勇気を出すのは今まで無かった。
(臆病な私に、一度だけ勇気を下さい……!)
心の中でそう唱えると、私は扉を開けていた。
「瑛里華か。勉強はどうした?」
声が上手く出ない。
言わなきゃ。言うんだ。
此処で私は、変わるんだ。
「お父さん……」
ありがとう。私と似ている君だから、私は救われた。
私は進む。
だから、君も進んで。
「お話があります」




