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第25話 ススキ 〜心が通じる〜

 病室を出て、辺りを見渡す。百合は姿は見当たらない。どうやらもう帰った様だ。

 数時間は経ったはずだから当然か。


 一人で廊下を歩いていると、見た事のある顔が見えた。

 あれは、相沢さんだ。


「相沢さん? こんな所でどうしたの?」

「あ、柊木……君……」


 相沢という名前を聞いて気になった事があるのを思い出した。


「相沢さんって院長の……」


 そう言うと、相沢さんは何かをしくじった様な顔をして、逃げ出した。


「ちょっと待ってよ!」


 相沢さんの手を掴み、動きを止める。


「……娘です」

「やっぱりね。そうだと思った」


 苗字が同じだからではない。院長と雰囲気が似ているんだ。

 この低姿勢で真面目そうで、そんな感じがそっくりだ。


「ちょっと話さない? 君に聞きたい事があるんだ」

「え……い、いいです……けど」


 少し嫌そうに見えるが断れない性格なのか、教えてくれるらしい。

 俺は忘れられない事がある。

 あの時、見せたあの表情が脳裏にこびりついて離れない。


「ここじゃ何だし、場所移そっか」

「あ、良いとこ知ってます」


 相沢さんの言う良いとこって場所へ、俺はついて行くと。


 着いた場所は病院の屋上。気付いたら夜になっていた。

 病院が大きいお陰で、小さな家の灯火が星の様に広がって見える。

 こうやって見ると、当たり前なんだけど一人一人生きているんだと感じる。自分はこの世界で生きているんだと思える。

 俺はこの絶景に感動して、心の中が洗われる感じがした。


「此処、私のお気に入りの場所……です」

「うん、気に入ったよ。ありがとう」


 俺も勝手に此処をお気に入りの場所に決めた。

 二人で手すりにもたれる。

 彼女を見ると、それは大人びていて、不思議な何かを感じた。

 そんな中、不意にあの表情が見えた。何か悩みがあって、それを誰にも話せない。苦しんでいる顔だ。


「なぁ……何でそんな顔をするんだ?」

「……え?」


 その表情を俺はよく知っている。


「相沢さん、何か悩みがあるんじゃないのか?」

「貴方には……関係……ない」

「またそうやって逃げるのか?」


 そう言うと、相沢さんは目を見開いて、今まで見せなかった感情を露わにした。


「貴方に何が分かるの!」

「分かるんだよ!! 救えなかった、忘れられない顔だから……」


 相沢さんは空を見上げ、一つ溜め息を吐くと、思いの丈を打ち明けてくれた。


「私、父に医者になれって言われてて……でも、本当は……その……」

「違う夢があるんだ」

「は、はい! 絵描きになりたいんです。その時見たものを残せるって、素晴らしいと思うんです!」


 その時の相沢さんは、クールなイメージとは違って明るく元気な子だった。


「そっちの方が良いよ」


 相沢さんは面食らった顔で、戸惑っている。

 俺は自分の言った言葉の恥ずかしさに気付き、話を変えてうやむやにした。


「お父さんに想いを伝えた方が良い」

「でも……!」

「今しか、伝えられない事もあるんだよ……」


 これで相沢さんが変わってくれたら、俺は嬉しい。

 人は誰だって何かを想いを持っていて、何かに悩んでいて、何か背負っているんだ。

 俺はもう夜遅いと思って「また学校で」と言って帰る事にした。


「あ、あの……」


 何か言いたげな相沢さん。俺は振り向く。


「私、勉強ばかりで……その、友達がいなくて……だから!」

「何言ってるんだ。俺達、友達だろ?」


 そう言うと、相沢さんは夜空より綺麗な笑顔を見せた。


「ありがとう、蓮」

「おう! じゃあまた、瑛里華」


 瑛里華は俺に似ているのかもしれない。それに花子と同じ顔をした。だから気になった。

 俺は彼女を助けたいと思ったのも、一つの我が儘なのかもしれないな。


 また綺麗な満月が顔を出している。

 大丈夫、今の俺にはちゃんと見えている。

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