プロローグ
一切の曇りの無い、純粋無垢な瞳の持ち主は、幼い少女。その瞳が映すのは温厚そうな男。
男は花に水をやっている。
赤、青、黄。鮮やかな色彩で、それはもう美しく、花への気持ちが美しさに表されている様であった。
幼い少女はその男の袖を引っ張り、注意を引く。そして、少女はある一輪の花を指した。
「ワスレナグサって言うんだよ」
男が優しく花の名を教えると、少女は可笑しな名前だとクスクスと笑う。笑い終えると何かを思い出したかの様に、足音をどたばたと立てて、忙しそうに何処かへ走って行った。
暫くすると男の元へ戻って来た少女の手には、その小柄な身体には不釣り合いな大きい本が抱えられていた。
本の重みに身体を持っていかれそうになりつつも、机の上に置いてゆっくりと開く。
その開いたページには、美しい花屋を背景に、引けを取らない程の美しい女性の写真が飾ってある。
少女は嬉しそうに写真を黙々と見つめている。
「昔話をしよう」
男は微笑み、聞き心地の良い落ち着いた低い声でそう言った。少女は見覚えのある天使の様な笑顔を魅せる。
約束の場所で男は語る。これは恋の話。
忘れはしない。二輪の高嶺の花を。