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第九話 運が良けりゃどうにかなる

 セシリアにドヤ顔で水鉄砲を披露した翌日。

 俺はいつものように村の皆にばれないように、サハス村に隣接するテーグ山まで来ていた。


 テーグ山の麓、サハスの村からそう離れていない場所で、体育座りをしつつ地面を人差し指で掘る。


 別にさ、妹に負けたっていいと思っている。

 あっちはホンマもんの天才だってのは、生まれて直ぐには分かっていた。

 生まれた時に、教会の人に素晴らしい資質がどうのと、べた褒めされていたのを聞いていたしね。


 でも、セシリアってばまだ4歳である。

 でもって、お兄ちゃんである俺は7歳だ。

 つまりは、人生で言うなら2倍近くは生きている。

 前世をカウントするならもっと余裕で生きている。


 どう考えても、まだ俺のほうが何とか先達者の余裕を保てるはずだった。

 そう、はずだったのだ。


「早かったな~……」


 遠い目をして、思わず言ってしまう。

 せめてセシリアが10歳になるまでは面目を保つ予定だった。

 それ以降、ゴミを見る目で見られるのかもしれないが、何としてもそこまでは兄としての威厳を保つ予定だったのだ。

 それがどうだ、わずか4年だ。

 生まれて4年しか経っていない幼女に引導を渡された。


 ……お兄ちゃん、初級魔法でドヤってしまったよ。


「はうあーーー!!!!」


 思わず、地面をゴロゴロとメトロノームのように転がってしまう。

 恥ずかしい、超、恥ずかしい。

 俺、最上級魔法を使える相手に初級魔法使っちゃったよ。


「ひあーーー!!!!」


 今度は激しく地面をドンドコ叩く。

 それこそ、この世界の裏側へと届けと言わんばかりに叩きまくる。


≪……うるさいですね~。元から追い抜かれるのはわかっていた事でしょうが≫


「うるせー! まだ、『兄さんすごいっ!』が聞けるはずだったんだよ!」


 別に構わないさ、何を言われようとも。

 承認欲求? いや、違う。『兄さんすごいっ!』症候群だと俺は主張したい。

 別に単なる承認欲求ではない。俺はセシリアに、親愛なる妹に、『兄さんすごいっ!』と言ってもらいたかった。ただ、それだけだ。

 可愛い妹の『すごいっ!』を10年聞いて、それを糧に残りの余生を過ごす気だったってのに。


≪……余生が長すぎるでしょう。どんだけ現役時代短いんですか≫


「いいんだよ、どうせ才能無いんだから」


 おまえが言ったんじゃないか、村人はどう足掻いたって村人だって。

 なら、運命に従って、のらりくらりと畑耕して生きていくしかない。

 後は、地球知識を活かして何かやるか、か。

 つっても、何が出来るのか想像もできないのだけど。


≪待ってください。何を諦めているんですか。前にも言ったでしょう。あなたにも才能はあると≫


「……わかったから、それはもういいから」


 どうせガチャだと言うのだろう?

 もういいから。何か良い物が出たとしても使えないスキルとか、それ何の意味があるのよ。

 使ったとしても、また銃のオブジェクトが出来るだけである。

 銃マニアなら喜ぶのかもしれないが俺は違うし、第一、そんなものより将来に希望が持てる何かが欲しい。

 このサハスの村を飛び出して、どこかに行けるだけの才能が欲しい。

 せっかく異世界に来たというのに、特別な才能無いんで村で一生畑耕して過ごしましたとか、それ日本で田舎生活しているのと大して変わりないもんよ。


≪やれやれ、本当に仕様が無いですね。まだ全部試した訳でもないのにうじうじと。あなた方ニンゲンは、色々と試して文明を発展させたのではないのですか?≫


 と、言われても俺はただの一般人なわけで、そんなフロンティアなスピリッツないから。

 しかしだ、全部試してないか。確かに据え置き火器だけは試していない。

 つっても、またガチャなわけだけどな。


「はぁ、もう一回ぐらい騙されてみるか」


 このままじゃ村人街道一直線なのも事実。

 これが成功すりゃ、後もう少しだけ『兄さんすごいっ!』の期間が延びるかもしれない。

 そんでもってこの村から出て異世界を探検したいっていう小さな夢も叶うかもしれない。


 望みは低いけどな。

 だって、ガチャだし。引くの俺だし。


≪よし、決まりですね! では、サッサとレベル上げてサクッとスキルへとつぎ込みましょう!≫


「何、そのめっちゃ嬉しそうな声」


 ……思えばレーストこいつルースト(業者)側か。

 俺、大丈夫だよな? 騙されてないよね?


 こういう場合どこに相談すればいいのだろうか。

 神様業界に国民生活セ○ターとかあるとは思えないし。


≪ん? まさか、もしかしてルースト様を疑ってますか? 相手は神様ですよ!?≫


 だって、ルースト様ってばポンコツじゃん?

 スキルレベルがないスキルに、スキルレベルの条件を付けちゃうぐらいポンコツじゃん?

 一応、回避策はあるとはいえ、こんなのゲームだったらクソゲー扱いされんぞ。


≪“クソゲー”ですか、あなたが居た前の匣の言葉ですね。――ふむ、理解しました。では、お聞きしましょう。人生とはゲームで例えると良ゲーですかクソゲーですか?≫


 また、唐突に。人生ね~、この世界の事かそれとも地球の事だろうか。

 まぁ、どちらにしても人生という点ではあまり変わらないか。

 自由度は抜群に高いものの生まれと初期ステータスで大概道筋は決まってて、多様性はあるように見えてイベントという括りで見ると大抵は固定だ。

 そして、何より運の要素で全てがひっくり返る。

 どんだけ努力をしようがしなかろうが、この運と言う要素一つで全てがひっくり返る。


 それを踏まえてゲームとして評価してはどうか。

 ゲームとして当てはめると、苦労してラスボスまで行ったのに運という要素のために死んでキャラクターロスト、そしてやり直しは出来ない。

 まぁ、個人的な評価で言わせて貰えりゃ、そりゃ“クソゲー”だ。


≪よろしい。人生とは“クソゲー”です。つまりは、ルースト様はこう仰りたいのです――≫


 レーストがたっぷりと間を空け、神託を授けるように神妙に言う。


≪『今更クソゲー仕様に文句言ってないで、ちゃっちゃとポイント稼いでつぎ込め。運が良けりゃどうにかなる』、と≫


 身も蓋もねーな。


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