第五話 間に合わなくなっても知りませんよ!
≪いい引きしてますね~、おめでとうございます!≫
「おめでとうじゃねーよ!? どうやって戦うんだよ水鉄砲で!」
そんなもので戦えるのは小学生までだから。
いや、最近の水鉄砲は進化していて大人でも楽しめるらしいけども!
でも楽しんだってしょうがない。
ここで必要なのはモンスターと戦う為の武器である。
決して水遊びをする為の武器などでは無い。
≪いえいえ、初めてで属性武器ですよ? 贅沢を言ってはいけませんよ≫
確かに属性武器と言われたらそうかもしれないが、如何せん水鉄砲である。
いや、待てよ? これは表記こそ水鉄砲というとても誤解を招きやすい表記をしているが、実際のところはウォーターカッター並みのどえらい威力を持った武器なのではなかろうか。
何せ神様から直々に頂いたスキルから生まれたものである。弱いはずが無いだろう。
そう、異世界的に考えて。
「そうだな、わかった。で、どうすりゃこの水鉄砲は使えんのよ?」
≪ほう、これまた素直に聞きましたね。明日は雨でしょうか? ま、どうでもいいこといいですが。それの使い方は単純に心の中で対象のスキルを念じるだけです≫
前半のいつものレースト節を無視して、後半の内容を吟味し集中する。
念じる。念じる、ね。
こんな感じか?
水鉄砲よ、こい!
――瞬間、身体の中から何か抜ける感覚と共に、俺の目の前に水鉄砲が顕現した。
地面に落ちる前に、慌ててそれを手に取る。
そして、裏に表にじっくりと神が与え賜うた神器を観察した。
見た目は明るくカラーの原色かつ半透明で緑色。
そして、スケスケのボディーの中には水が並々と溜まっているのが見えるという、水切れが一発で分かる親切設計。
もし、これが神器であると銘打たれていなければ、俺はこいつにこう値段をつけるだろう。
100円(税抜き)、と。
だが、こいつは神器である。
破滅の神と恐れられているルースト様が与え賜うた火器(※重要)なのである。
それが見た目どおり100円(税抜き)のはずがないではないか。
「はー、ふー、よし!」
深呼吸をして、両手で水鉄砲を構える。
もしかしたら反動で後ろに吹っ飛ぶ、何てこともあるのかもしれない。十分に気をつけなければ。
狙いは10メートルほど離れた木。
近すぎたら当たった衝撃で、これまた大変な事になりかねない。
集中する。
目線の先の木に全ての意識を傾ける。
周りの景色が白く溶けて無くなって行き、最大限の集中に達したと感じた瞬間、
――引き金を俺は引いた。
ぴゅーちょろろろー。
水鉄砲から3メートル程水飛沫が飛んだ。
「やっぱり、ただの水鉄砲じゃねーかよ!!」
思わず水鉄砲を地面に叩きつける。
≪いや、初めから水鉄砲だと言ってるじゃないですか。何を期待していたんですか?≫
「火器だよ火器! これのどこに火器の要素があるんだよ!?」
≪見た目に十分な要素が詰まっていると思いますが、何が不満なんです? ニンゲンの間では見た目は大事なのでしょう?≫
「あー大事ですよ、経験上それは認めましょう。えー、認めましょうともさ! でもね、この場合違うんだよベクトルが!
なんつーの? 金払って用心棒に筋肉ムキムキの奴を要求したら、代わりにひょろひょろの奴が出てきて、もしかしたらと期待してみたものの、案の定弱かったな的なガッカリ感?
つまりは、金返せってことだよ! 俺のポイントを返せってことだよ!」
≪我侭ですね~。不満があるなら簡単ですよ。もう一回スキルを使用すればいいのです!≫
レーストがYOUもう一回ガチャいっときなよ的なノリで言ってくる。
「おまえ、そんなこと言って、次はずれたらどうすんだよ!? もうポイントゼロだぞ!?」
≪そんな消極的でどうするんですか! ポイントが無くなったら稼げばいいんです。稼いでまたつぎ込めばいいんですよ!≫
「なにその重課金者!? ていうか、止めろよ! 次こそは次こそはで、気が付いたらレベル100で使えるスキルがありませんとか、そんな状況になるかもしれないんだぞ!?」
≪いや、どんだけ運が悪い想定なんですか。というか、止めてもいいですが止めてどうするんです?≫
言われて、思わず言葉に詰まる。
結局のところこのガチャを引く行為にしたって、今の停滞した状態から進む為の行為に他ならない。
「うっ……それは……普通にレベルアップするとか?」
≪ただの村人のくせに? 一応言っときますがレベル100だろうと200だろうと所詮村人は村人。村に居る以外に価値がない。それが村人です≫
「どんだけ村人は価値がないんだよ!?」
おまえ、村人が居なけりゃ村は成り立たないんだぞ?
逆説的に言えば村人が居れば村は成り立つわけで、つまりは村人さえ居ればどこにでも村は作れる事になる。
人の集落の単位を村と置くならば、村人が居る事によって人の集落が生まれる。
一人の村人が村を作り、二人目の村人がまた村を作る。
そして、それはやがて街になり国となるだろう。
つまりは、村人とは国の礎であり国家の橋頭堡なのである。すげぇな村人。
≪村人を過大評価しすぎです。村人は村の人。つまりは、村が無ければ説明が出来なくなります。ただの人です。村によって辛うじて自身を証明できる存在。それが村人なのです≫
その後もレーストの村人談は続く。
やれ、強い村人とは。強い村に居る人であって、人そのものが強い訳では無いとか何とか。
「わかった、わかったから。じゃあその村人である俺が強くなる為には他に方法があるのか?」
≪別に村人に拘らなければ他の職業になる方法が無くはないのですが、ただ、あなたの場合基本となる才能がないので、何をやっても中途半端になるでしょうけどね≫
「ちょっと待てよ! 何で才能が無いって決め付けちゃってるんだよ! 俺にだって何かあるかもしれないだろうが!」
≪あれば生まれた時点でスキル一覧に乗ってきます。一応言っときますけど、隠れた才能とかもあそこには出てきますからね? 天才であればあの欄に上級スキルかパッシブスキルが何かあるはずです。無い時点で才能は無いと諦めてください≫
何て潔い世界なんだ。
生まれた時点で自分が恵まれているか恵まれていないかがわかるなんて。
「ま、マジでか?」
≪マジです。ただ、あなたにだって他にはない才能があります。あなただけの才能があります≫
言われて思い当たるのは一つ。
レーストからも事前に言われていたこの世界に俺だけが持つスキル。
「……ガチャか」
≪そう、それこそがあなたの才能であり武器なのです。他にはない、あなただけの武器なのです!≫
「俺だけの武器……そうか俺だけの武器か」
両方の手のひらを見て思わずそう呟く。
≪そうと分かったらさっさとつぎ込むのです! 間に合わなくなっても知りませんよ!≫
「ああわかった! 俺頑張るよ!」
言われて、何かを掴むようにグッと両方の手を握った。