第三話 本当にこれでレベルアップ出来るんだよな
草むらに隠れてウサギ型のモンスター――通称、山うさぎを待つこと30分。
チラリと俺の背後を見た。
視線の先には体長30cm程の山うさぎの死体が3体ほど。
苦労するかと持ったが罠に掛けて殴れば、今の俺でも倒す事はできた。
しかし、待っていると不安しか溜まらないな。
思わず、レーストに向けて何度目か分からない疑問を口にする。
「……本当にこれでレベルアップ出来るんだよな?」
≪疑り深いですね~。本当ですよ。恐らく後一体でレベルアップです≫
本当かよと思うものの、疑ったところでしょうがないのも事実。ここは信じるしかない。
それに山うさぎはモンスターに分類されているとはいえ、見た目はちょい太めなウサギで普通に食える動物でもある。
であるならば、もし違っていたとしてもタンパク質の補給元になるだけだろう。
そう思い直し、目の前の山うさぎを狩る為の罠を見る。
……これでレベルアップすりゃ、ようやく少しは楽しみが出てくるな。
――早いもので、この世界に転生してから7年が経った。
ドラゴンに襲われ全滅した村の生き残りであるとされ、この山間の村であるサハスの村に連れて来られて過ごす事、早7年。
何か変わったことはあったかと言えば何も無かった。
精々この世界の知識が増えていったことぐらいか。
とは言っても、このサハスの村には図書館は愚か紙媒体すら殆ど無いほどのド貧乏村である。
得られる知識は極々限られていた。
例えば、この世界における村での過ごし方とかそんなのばかり。
日本とどこが違うのかといえば、周囲の山々に行けばモンスターに会えるということぐらいだろうか。
それにしたって、7歳のガキを連れて行ってくれることなんてないし、自分で行くことも厳禁化されていた。
後は魔法か。
最初その存在を聞いた時にすごい興奮したのを覚えている。
この村の大人には魔法を使える人が居ない為、見たのは存在を知って暫くしてからになったのだけどね。
この世界にもファンタジーにありがちな冒険者という存在がおり、その冒険者達が村に立ち寄った際に実際に見せてくれた。
それを見て、やべぇよ異世界、始まったよと、すごい興奮して、はしゃぎまくったのは記憶に新しい。
まぁ、ただその後すごい萎えたのだけどね。
冒険者の中に居た魔法使いのおねーさんが言うには、なんでもこの世界で魔法を使うには、素質が全てなんだとか。
魔法を使える、使えないは、生まれた時点で決まっているらしいね。
後は、魔法で扱える属性についても、生まれつき決まっているんだとか。
なんだろう、元の世界の話で言うと、生物とウイルスの関係に近い扱いといえばいいんだろうか。
生物を端的に説明すると、設計図(DNA)と、それを元に、物作ったり働いたり飯食ったりする人がいる工場みたいなもの。
ウイルスを端的に説明すると、設計図(DNA)“だけ”が道にヒラヒラ落ちてる状態。
要は、設計図をつい読めてしまう生物に、運良く取り込まれない限り、ウィルスってのは何もできない
だから、無関係な生物に取り込まれても、単なる物質のまま一生無視されて終わる可能性がある。
つまりは、適合する生物と設計図(魔法)が合わさって、初めて魔法は生まれるというわけだ。
当然、合う設計図(魔法)によって、扱える属性が違ったり、使える魔法、使えない魔法が発生する。
で、俺にその才能が有るかと言えば無かった。
魔法使いのおねーさんに『うん、君には魔法の才能は無いね』と、一発で言われてしまうぐらいには才能が無かったのだ。
そのおねーさんの笑顔かつあっさりした言葉に心をへし折られ、復活するのに結構な時間が掛かったのだけど、まぁそれはまた別の話。
要はこの世界の既存の魔法に対して、俺はどうやら才能を持ちえていないというだけである。
そう、既存の魔法はね。
じゃあ、新しい魔法が存在するのかといえば存在する。
ていうか持ってる。魔法が使えないと落ち込んでいた俺に、レーストがもったいぶった様に教えてくれた。
この世界に来た際に持ち込んだ概念を取り入れた魔法。
新しい魔法である為、この世界では俺一人しか持って居ない一つの魔法
それが――“銃器”という魔法。
あるいは、スキルと呼び変えても良いのかもしれない。
そして、その為のレベルアップである。
何故レベルアップが必要なのかといえば、スキルを使うにはレベルアップ時に得られるスキルポイントとかいう謎ポイントが必要だからだ。
スキルに対してスキルポイントを割り振ることが出来るが、今現在“銃器”に割り振られているスキルポイントはゼロ。
割り振られているポイントがゼロではスキルは発動しない。
つまりは、発動させる為には、ポイントを割り振らなければならない。
何でもレベルアップするごとに5ポイントのスキルポイントを貰えるのらしいのだけど、俺の今のレベルは1なわけで割り振る為のポイントもゼロだった。
だからこそのレベルアップ。
スキルポイントとやらをとっとと手に入れて、俺の俺だけの魔法をこの手に。
そして、漸くこれで――
≪――掛かりましたよ!≫
ハッとし見れば、俺の仕掛けた罠こと落とし穴に何かが落ちた形跡があった。
「よしっ! んじゃ、やるか!」
言って、落とし穴に落ちたであろう山ウサギを狩る為、草むらから這い出た。