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第二話 何でもう来世の話をされているんだよ

「――この子はルースト様に魅入られておる。見よこの刻印を!」


 気が付いたらいきなり見知らぬババァが、俺の体の胸辺りを指差して何やら叫んでいた。

 ……何これ? 一体全体、何がどうなってんの?


「ああぁ、ごめんなさい。お母さんを許して……」


 そして、ババァの横で銀髪で髪の長い女の人がひたすら誰かに、いや、謝っている方向を鑑みるに俺に対して謝り続けている。

 とりあえず、現状を理解しようと、余り動かないと名高い俺の脳という名の思考装置に火を入れた。

 時間にしておよそ30秒。俺の脳がカラカラと回り続けて結論を出す。


 ……ふむ、なるほど、わからん。

 ぜんっぜん、わからん。何がどうしてこうなった。


「即刻じゃ。即刻、穢れ子の処分をッ!」


 置いてけぼり感満載な俺を無視し、ババァが何やら勝手に話を進めていた。

 あ~、ちょっと待って。もう一回整理するからちょっと待てって。


 俺は撃たれて死んでどうなった?

 確か良くわからん所をひたすら彷徨って、気が付いたらルーストとか言う奴に会って、……どうなった?

 別の世界がどうこうで、確か、そうだ、別の世界に来た……で、いいんだよな?


「ッ――。ごめんなさい。ごめんなさいッ! お母さんを赦してッ!」


 唐突に女の人が俺に向かって強い調子で語りだしたので、何を言ってんだこの女の人と思っていたら、


「せめて来世にはその穢れが祓われます様に……――ッ」


 俺の頭をひと撫でし、目にいっぱい涙を浮かべたまま逃げるように去っていった。


 いや、いきなり来世に期待されても困るんですが。

 ていうか、俺の認識ではここが来世な訳ですが。

 ふと、去っていった女の人を目で追っているとあることに気づいた。

 状況は相変わらず飲み込めてないし何だか声も出せないが、一つ気づいた点がある。


 周囲を見渡たし、自分の手を見る。

 自分の手が異様に小さい上に、周りの家具も自分に比べて凄く大きい。

 生まれ変わったことはどうやら間違いないらしい。


「……忌々しき破滅の神の落とし子よ、許せ。来世にはその穢れが祓われんことを……」


 見知らぬババァが俺に顔を近づけてドアップでそう呟いた後、俺の頭に袋か何かを被せた。

 いや、だからここが来世なのよ、俺にとっては。

 何でもう来世の話をされているんだよ、俺は。

 昔、お前は来世に期待なって言われた事はあったけど、流石にもうちょっと成長してからだったぞ。

 頭の中で思わず突っ込んでしまう。


 何だろうか、どうにも色々と頭が追いついてないせいか、現実感がまるで無い。

 ただ漠然と、何かこの状況が拙くない? て、のをヒシヒシと感じている。

 こう嵐の中の畑の様子を見に行く的なやばさを感じる。

 つまりは、これって死ぬパターンではないだろうか?

 どうにも何だかババァの雰囲気が負の方向に鬼気迫っているような気がしてならない。


「――バ、ババ様! ド、ドラゴンがドラゴンがッ!」


 扉が開く音が豪快にしたと思ったら、男の慌てた声がした。

 ドラゴン? というと、あのドラゴン? ファンタジーの?

 それとも龍と書いてドラゴンと読むみたいな煌びやかな名前なのだろうか。


「落ち着かんか! 何じゃドラゴンがどうした」


「ド、ドラゴンがこの里に飛来しました!」


「なんじゃと!?」


 ババァが驚きと同時、カランと金属的な何かを落とした。

 飛来したというからには飛んでる訳で、つまりはファンタジーでクエストなドラゴンさんなのだろうね。

 まぁ、そんな見たことも無い恐怖より現実的な恐怖。

 つまりは、ババァが落とした金属的な何かの方が今はよっぽど怖い。


「ババ様、里の戦士達も全滅しました。もう、ここも拙いです」


「くッ! やはりこの忌み子がすべての厄災かッ!」


 ババァから不穏な空気を感じる。

 殺気と言い換えてもいいのかもしれない。

 おい、これは本格的に拙い予感しかしないぞ。

 もっとも、赤ん坊になっているからか声も出せない上に、身体を動かそうにもあまり動かない時点で詰んでるんだけど。

 やばい、まずい、と思いつつも身体が赤ん坊だからか何なのか、絶望感がまったくわいてこない。

 何ていうか寧ろ眠い。


「ババ様、お早く!」


「わかっておる! こやつだけはこの穢れ子だけは――ッ!」


 ババァが床から何かを、いや、恐らく落とした金属的な何かを手にとって俺に迫ってくるのがわかる。

 俺に抵抗する術はない。

 これは終わったかと、どこか他人事の様な感想を心で思い浮かべている俺に、これはお前に降りかかっている出来事だと教えるかのように、


「ババ様ッ!!」


 男の切羽詰った声がすると同時、遠くで地響き共にゲームか何かで聞いた様な巨大生物の咆哮が聞こえ、間近で建物が倒壊したかのような爆音が鳴り響いた。







 放置プレイ。

 人によってはご褒美だったり拷問だったりする人類が生んだ英知の結晶。

 それを俺は今、スルメを噛むかのごとくジワジワと味わっている。

 いや、興奮するね。


 現状、どうなっているのかと言えば、俺には相変わらず頭に何か被されていた。

 建物が倒壊したらしき音は聞こえたし、物凄い爆風が起こったのも肌で感じたのだけど、見えないせいで周りがどうなったかはわからない。

 今、分かる事といえば、周りから一切人の声がしなくなったことだろうか。

 ババァの声も男の声もしない。

 時折、風の音が聞こえるのと木々のざわめきが聞こえるのがとても気になるのだけど、見えないから確認しようがない。


 思えばこれってすごい図じゃないのか? だって、何か被された赤ん坊がどこぞかに転がっている訳だろう?

 怖いよ。どこの宗教儀式だよ、それ。


≪う~ん、面白くないですね~。もうちょっと慌ててくれないと、私が出る間がないじゃないですか≫


 頭の中に行き成りのそんな声。

 一瞬、頭がおかしくなったかと思ったが考え直す。

 だって、別の世界に来たとかいうファンタジーな状況なんだから、何かよく分からん声だって聞こえるわな。


 で、何? 慌ててない?

 そりゃあれだ。未だにこの状況に追いついていけてないだけだよ。

 この状況を真剣に現実のものとして処理するほど、俺ってば仮想の世界に生きていないらしい。

 もしかすると、自分だけは大丈夫ってな楽観なのか思考停止なのかわからん、現代病の何かかもしれないけども。


 ま、よく分からんが、赤ん坊に転生したと思ったら、見知らぬババァに殺されかけて、何か知らんけどドラゴンが出てきて建物ごとデストローイされたらしい。

 逆に聞きたい。この状況で何を慌てりゃいいのよ?

 酷すぎて慌て様がないじゃない。

 だって、現実感のへったくれもないんだもんよ。


≪ふーん、そんなものですかね≫


 そんなものだよ。で、あんたは何者で?

 ルーストさん……とは、声が異なるような気がするけど。


≪お、違いがわかるとはやりますね~。えーでは、こほん。私の名前はレースト。ルースト様のこの匣における代弁者です。もしくは、あなたの身体にある刻印その物といってもいいのかもしれませんね≫


 刻印? そんな物が俺の身体に刻まれているの?

 そういや、あのババァも言ってたっけか。この刻印が目に入らぬかーってさ。

 ていうと、あれか。もしかして、今俺は刻印という名のタトゥーもどきで周りに己を自己主張(アピり)まくっているのか。

 おい、それじゃあもう温泉入れねーじゃないか。

 身体に何か刻まれている自己主張の激しい方は、入浴をお断りしておりますとか言われちゃうじゃないか。

 やばいな!


≪温泉? ……ふむ、その回答は読めませんでした。なるほど、流石はルースト様が選んだだけあって、いえ、何でもありません≫


 何? 何でそこで言葉を切るのよ。

 身体に刺青つったら温泉に出禁だろうが。悪いのかよ温泉の心配したら。

 これから先、もしかしたら温泉に一生入れないかもしれないんだぞ。

 悲しいよ? それは。


≪あー、はいはい、わかりました。普段は見えないようにしときますから安心してください≫


 おい、ちょっと待て! それ出来るなら、さっきやっとけばよかったじゃないのか?

 その刻印とやらのせいで、さっき俺は見知らぬババァに殺されかけたんですけど!


≪私がこの匣に認識されたのとあなたが起きたのは同時です。だから、どう足掻いてもアレは不可避ですよ。大体文句を言いたいのはこっちです。何始まる前から死に掛けてるんですか。どんだけ運が悪いんですかあなた≫


 うぐ、何か知らんが数倍にして返された。

 一応言っとくけどたぶん俺ってば運はいいよ?

 そう、現代日本で銃を持った男に街中で射殺されるって言う経験を持つぐらいには運がいい。


≪えー、知ってます。この先が楽しみになってくるぐらいに≫


 何だろう顔も見たことが無いが、レーストがにんまりと笑ってる姿が目に浮かぶ。

 ていうか、自虐に乗っかられると反応に困るわ。

 まぁいい、期待すると良いさ、俺の生き様を。


 んで、こんな登場の仕方をするってことは何かあるんだよね?

 この状況を打破する、取って置きって奴がさ。


≪無いですよ? 私はただの代弁者ですから。大体、自分の生死を他者に委ねないでください。あなたあれですか? 私に死ねって言われたら死ぬんですか?≫


 いや、そんなつもりは無いけども。

 じゃあ、どうすればいいんだよ。

 頭に何か被せられてメクラ状態の赤ん坊っていう、この絶望的な状況で俺に何をしろって言うのよ。

 神頼みぐらいしかないぞ後は。あーそうか、ルーストさん、いや、ルースト様へ祈ればいいのか。

 何だか神様っぽいし。


≪んー、止めた方がいいと思いますよ? 意味がないので。ルースト様は基本的に放任主義ですし、救うということが絶望的に苦手な方ですから≫


 伊達に破滅の神と呼ばれていませんとレーストが続けた。

 いや、俺は救われたけど? ルースト様にさ。


≪いえ、救っていませんよ? ただ、拾って放り込んだだけです≫


 何その、清掃? いえ、道端で空き缶拾ったのでゴミ箱に入れただけですみたいな言い方。

 少なくとも俺は救われたと感じているのだから、それは救っているだろうに。


≪ふーん、では、この状況がずっと続いて、このまま死んだとしてもそう思いますか?≫


 思うんじゃない?

 少なくともあの白い世界に居ても未来はなかったんだろうしね。

 それにアメーバじゃなくてもう一度人間になれたんだ。

 感謝以外に何があるのよ。


≪そうですか。なるほど、確信しました。あなたアホですね≫


 ……思うのだけどレーストさんは口が悪いよね。


≪レーストでいいですよ。それにあなたは人のことを言えないでしょうに≫


 いや、そうだけども。

 でも、神の使い的な感じなんだからもっとこうあるだろう。

 まぁ話しやすいからいいけども。


 ……しかし、あれだ。

 あの爆発音がして結構な時間が経ったはずだ。

 これはマジでこのまま死――


「――おーい! サハスの村の者だが生き残りはいるか!」


 レースト、刻印はもうないんだよな?


≪はい、見えないようにしてありますね≫


 よし、どうだ見たかよレースト。


「これは――赤ちゃんッ!?」


 俺の運の良さって奴をさ。

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