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第十五話 神の啓示

 別にその姿が見えていた訳では無いのに、何となく分かってしまう。

 咆哮の癖? 雰囲気? 分からないが、この目の前にいるドラゴンが俺の生まれた村を滅ぼしたと、俺の中の何かが告げていた。


≪お、懐かしい。あの時のドラゴンですね~≫


 レーストだった。

 お前分かるのかよ。


≪もちろんですよ。その気になれば周囲1000kmぐらいは一瞬で見渡せますよ?≫


 ……それを俺のために使ってくれるということは、もちろん無いんだよね?


≪無いですね~≫


 神が与えた以外の力を、無闇に人間が使うなとはレーストの談。

 それに、レーストにとってはぶっちゃけ俺が死のうが生きようがどうでもいい話なのだろう。


≪……そこは成るべく生きて欲しいでは、ありますけどね≫


 言葉半分に受け取っておくよ。


≪それがよろしいかと≫


 さて、そろそろ準備は整った。

 ここに来る前から準備をしていて、ちょうどここに来るタイミングで顕現するよう調整した。


 今の俺が同時召喚できるタレットは2体。

 当初は1体が限界だったが、“複数召喚”のスキルをレベル2に上げた段階で2体召喚できるようになっていた。


 俺の持てる最大火力をここでぶつける。

 [イオタ・略式機関砲]に[イオタ・壱式火炎放射機]。

 こいつらで殺せないなら俺に勝機は無い。


≪――[イオタ・略式機関砲]、ポイントアルファへ召喚。[イオタ・壱式火炎放射機]、ポイントベータへ召喚≫


 丁度、十字砲火を喰らわせられる様に、ポイントアルファを俺の目の前に指定しドラゴンの正面を攻撃、ポイントベータをドラゴンの真横に指定し横からの攻撃を行う。


 俺に気づいたドラゴンが咆哮を上げた。

 だが遅い。もう遅い。

 こちらの召喚は既に終わっている。


「撃てーーーー!!!!」


 俺の号令と共に、[イオタ・略式機関砲]が唸りをあげた。

 射角はおよそ20度。地響きが起こるような重い重低音を上げながら、次々とドラゴンの胴体へと集中砲火でブチ当てていく。

 そして、遅れて数秒後、[イオタ・壱式火炎放射機]がドラゴンを丸焼きにした。


 ――はずだった。




「おいおい、マジかよ!? 地形すら変わる攻撃だぞ!?」


 視線先で、穴だらけになっているはずのドラゴンが依然として5体満足で存在していた。

 嘘だろ。俺の持てる最大の攻撃がまったく効いてないっていうのかよ……ッ!


≪いや、効いてはいますね。ただ、あのドラゴンの結界と硬い鱗を貫くまでに至らないってところでしょうか≫


 結界? あのドラゴンの鱗に張りついている薄い青色の膜みたいな奴か。

 鱗が光ってんのかと思ったがあれが結界って奴か。


「ちっ」


 いよいよ、やばくなって来た。

 俺の攻撃も効かないとなると、これは本格的に逃げるしかない。


 くそッ、俺のタレットが抑えている内に俺も逃げ――


「――おい、マジかよッ! 何やってんだあいつはッ!」


 ふと目に入った視線の先、そこにはセシリアが怪我している人を治しているのが見えた。







「何やってんだセシリア!」


「に、兄さん? 兄さんこそ、何でまだ居るんですか!?」


 怪我人を手当てしていたセシリアが驚いたようにこちらを振り向いた。


「今、逃げる途中なんだよ。ほら、一緒に行くぞ!」


 急ぎ、セシリアの手を取って、村の外へと足を向ける。


「駄目です! 怪我人がいるので私は残ります! 兄さんだけ逃げてください!」


 セシリアが連れ出そうとする俺の手を振りほどいた後、俺の目を真っ直ぐ見てそう宣言した。

 思わず呆気に取られる。セシリアが、ここまで俺に反抗したのを見たことがなかったのだ。

 たじろぎつつ、一瞬、目をセシリアから逸らして気を取り直し、すぐにセシリアの目を真っ直ぐ見返した。


「アホか! 何で俺だけ逃げないといけないんだよ! ほら、わがまま言うな逃げるぞ!」


 もう一度、セシリアの手を取ろうとする。


「だ、駄目です! 怪我人を放って置けませんッ!」


 と、セシリアがまた掴もうとする俺の手から身体を捩って逃げた。

 何言ってんだこいつと、ふと、周りを見ると、見たような顔が5、6人呻き声を上げて横たわっている。

 地面には血が滲み出ていて、素人目にも恐らく今治療をしないと間に合わないように思えた。


「くっ」


 逡巡する。どいつもこいつも村の奴らだ。

 こいつはこういう奴だといえるくらいには、皆知っている。


 ……でも、それでも、何が大事かといえばセシリアの方が俺にとっては大事だった。

 冷血な奴だと言われるのかもしれない。人でなしだと罵られるかもしれない。

 それでも俺は、家族に、セシリアに生きて欲しかった。


 ここに居れば俺の生まれた村と一緒で皆一緒に死んじまう。

 抑えているとはいえ、鱗を貫けない以上、いつかは限界が来るだろう。

 きっとそれは、ドラゴンがタレットを壊しに向かえば、簡単に訪れる未来だった。


「兄さん。兄さんだけでも、逃げてください。必ず後から私も向かいますから」


 セシリアが俺の右手を両手で握り、困った子に言い聞かせるように大人びた笑顔を浮かべた。


「ッ――!?」


 一瞬、セシリアを見て誰だこいつってなってしまった。

 いつも、ニコニコと兄さん兄さんと俺の後ろを付いてくるセシリアじゃない。


≪ほぅ、神の啓示、ですか。その娘の中に神の意思を感じますね≫


 何だそれ、セシリアは操られてるってことか?


≪いえ、決断したのはその娘の意思には違いありませんが、それに対して何らかの助言という名の意思の誘導を行ったってところでしょうか≫


 そういうのを操られてるって言うんじゃないかよ!


≪違いますよ。あくまで決断したのはその娘の方ですから≫


 あー、そうかよ。


「セシリア! わかった、なら俺もここに残る!」


「なっ!? に、兄さん!?」


 セシリアが大きな目をさらに大きく開けて驚く。


「お前が死んだら俺も死ぬ。これでいいだろ」


「なっ、何を言ってるんですか兄さん! わがままを言わないでください!」


「普段と逆だな。いんや、俺はここから動かないよ」


「だ、駄目です! 兄さんは生きてなきゃ駄目なんです!」


「あーそうかい! 俺もおまえが生きてなきゃ駄目だと思ってるよ!」


 セシリアと拳一つ分の距離で睨み合う。


≪あー、言い忘れていました≫


 と、レーストが俺達の会話に割り込むように言ってきた。


≪私も神の啓示ぐらいは使えるんですよ?≫


 こんな時に、何を言ってるんだおまえは。


≪では告げましょう≫


 だから、何を――瞬間、ドラゴンの居る方角から二つの爆発音。

 何が爆発したのかは直ぐに分かった。俺とて召喚士のはしくれ。

 爆発したのは[イオタ・略式機関砲]と[イオタ・壱式火炎放射機]だ。


≪あなたが戦わなければ、――その娘は死にます≫


 ドラゴンの咆哮が聞こえた。


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