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第十二話 テーグ山には山神様がいる

 テーグ山には山神様がいる。

 今、サハスの村で最もホットな話題だった。


 何でも轟音が鳴り響くと共に山の地形が変わり、その地形が変わった後にはモンスターの死体の山が出来るのだとか。

 テーグ山を荒らしたモンスター達への天罰が下っているらしい。サハスの村のじーちゃん、ばーちゃんが言うにはね。




 長老様の有り難きご高説を聞き終わり、セシリアと一緒に家へと帰る途中、


「にーさん、やまがみさまをおこらせちゃだめですよ?」


 ギューッと繋いだ手を握られたので、横を見るとセシリアが不安そうな顔でそんなことを言ってきた。

 先ほどの長老の話を思い出したのだろう。

 山神様が~だっけか。サハスの村にもう7年住んでいるが、初めて聞いたのだけどね、山神様。

 聞いてて、震え上がる大人たちを横目に、今、適当に作ったんじゃねーのと思わず内心で突っ込んだのは内緒だ。

 だって、その山神様の正体俺だしね。まぁ、ルースト様と言っても良いのかもしれない。

 あれルースト様がやったんだぜ、何て言おうもんなら間違いなくパニックになるな。

 破滅の神が迫っておる~ってなるね、間違いなく。


 にしても、セシリアよ。兄ちゃん、そんなに無鉄砲に神様怒らせるように見えるのかい?

 いや、単純に心配しているだけか。


「大丈夫、大丈夫、兄ちゃん山神様のこと、すんごい尊敬しているから」


 すんごい力とかくれるからマジ尊敬。マジリスペクト。

 ちょっと大味なのが玉に瑕だけど。

 セシリアの頭をポンポンと撫でつつ、そんなことを慇懃無礼に思う。


「んっ、むー、にーさんは神様のことを、もうちょっとうやまうべきです」


 俺の内心の慇懃無礼な態度に気づいたのか、頬を膨らませつつセシリアがそんなことを言ってきた。

 うーむ、賢いねセシリアは。これで4歳児とは思えない。

 いや、4歳児に神様を敬うべきとか注意されてる俺が駄目なのか。

 だってさ、しょうがないじゃないか。俺の敬うべき神様は何ていうか大雑把なんだもの。

 こう、細かく儀礼を尽くして祭事をやるとかそんな感じじゃない。

 むしろ、そんなことしなくていいから、何か面白い事やれって言いそうな、そんな神様だ。


≪だいたい合ってますね、それ≫


 せやろ? んだ、んだ、とレーストと内心で会話を続ける。


「にーさん?」


 会話が途切れたのが気になったのか、セシリアが小首を傾げて俺を呼んだ。

 いかん、いかん、レーストとのルースト様談に夢中になっててセシリアの存在を忘れていた。


「おう、ごめん、ごめん、少し信仰について考えていた」


「しんこーですか。ん? えっと、にーさん、しんこーってなんですか?」


 おー、この感覚久々だ。

 もう知らない言葉はないんじゃないかと兄ちゃんすごい寂しかったが、まだ有ったかセシリアが知らない言葉。

 スポンジの如く吸収していくから、もうそろそろ無いもんだと思っていたよ。


「信仰ってのは、神様を信じて敬うことを表した言葉だよ」


 少しフワッとした意味でセシリアに教える。

 元々、俺自体が無宗教だったってのがあるので、本当は神様を絶対視するとか盲目的な表現も入れたいではあるが、そこは子供に教えるのだから色は付けちゃ駄目だろう。

 まぁ、セシリアは喋り方からして既に俺色に大分染まっているのだけどさ。


 ついでに、この世界に信仰って言葉があるかって言うと確実にある。

 どうやら、ルースト様が俺の記憶をこの世界に持ってきたときに、言葉と文字についてこの世界用に自動的に変換していた。

 だから、俺が喋る事のできる言葉は、この世界に意味を持った言葉として確実に存在する。


「――にーさんは、すごいですっ」


 セシリアが繋いでいた手を離して、俺の前まで来たかと思うと、目をおっきくして胸の前で両の手で握り拳を作りつつ前のめりで俺をそう絶賛した。


「そうか、そうか」


 言って、セシリアの頭を撫でてやる。


「んっ、えへへ~」


 気持ちよさそうに目を細めるセシリアを見つつ思ってしまう。


 毎度のことながら何が凄いのかさっぱり分からん、と。


 以前、いや、別に凄くないですと正直に言ったら、すごいですと即座に被せてきて、そのまますごい、すごくないというやりとりを3時間ぐらいやったことがある。

 最終的に、セシリアが涙目で口をへの字にしてプルプルと震えだしたところで俺が折れて、お兄ちゃんはすごいということになったのだけど、未だによくわからない。

 こう何か教えただけですごいって言ってたら、学校に通ったらどうすんだよ。

 先生が何か言うたびに、手上げて、指名されて、先生凄いですっていうつもりか?

 先生すごく羨ましいな、それ。俺、先生になるわ。


 違う、違う、いや、違わないんだけど、もう、セシリアに凄いと言われるのが中毒的になりつつあるというか生きがいになりつつある、俺みたいなどうしようもない奴はどうでもいいのだけど、このままじゃあセシリアが心配だ。

 他人を褒めるのは美徳ではあるのだけど、何事も過剰であればよくない。

 まぁ、といっても、すごいと言われなくなると俺が中毒症状を起こしそうなので、絶賛放置中ではあるのだけど。

 すまんな、セシリアよ。こんな駄目な兄ちゃんで。


 まぁ、大丈夫か、その内気づくから。兄ちゃん大した事ないって。所詮はメッキの付いた元村人なんだって。

 ……自分で言ってて、傷つくなぁこれ。

 タレットとか虐殺兵器を見せるわけにも行かないし、順当にその内ゴミみたいな目で見られるコースだよな~。


「にーさん? どうかしましたか?」


「いや、何でもないよ。セシリア、駄目な兄ちゃんだけどよろしくな」


 撫でられるがまま、俺をきょとんと見上げる聖女様。


 ……言われた事が理解出来ない。


 つぶらな瞳がそう言っている。


 ジーっとそのまま見つめ合う事およそ1分後、セシリアは下を向いて何やら考えた後、俺に向かって飛び込むようにヒシッと抱きついた。

 慌てて受け止めた俺の腕の中で、


「よろしくです! セシリアのだいすきな、すごいにーさんッ!」


 セシリアは、にぱっと笑顔でそう宣言した。


 やべぇ、この子に反抗期が来たら、俺、泣くかもしれない。


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