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ダンジョンノート  作者: ふ~こ
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番外編 アルキスの魔法使いⅦ

「ふう~、暑い暑い。もう汗ぐっしょりだよ。最近発見された古代魔王アスモデウスの神殿の調査を前にしてこれから始まる発掘開始記念かなんだかの晩さん会。その前に王立調査団のデカいテントの中でひと風呂浴びてスッキリしよっと。そう思ってルンルン気分だったこの私、美少女魔法使いマホちゃんは、お風呂に先客がいるのを発見したの。ちょっと、このお風呂、一人用の五右衛門風呂だからこれじゃ入れないよ! 私が一番風呂だって聞いてたのになによ! あーもう我慢できない! こうなったら無理やり入ってやるんだから!」


 とか叫びつつ、私はお風呂の中で目を閉じてまったりとしたアホ面をさらすそのピンク髪の女の子の前に強引に体をねじ込んだ! 


 ざば~!


 あふれ出るお湯! あ~! この贅沢なお湯の使い方、たまんないわー。家でやるとお母さんに怒られるけどね。よっしゃ、狭いけど、お互い膝の間に膝を入れるような感じでなんとか入れたよ。でも狭い。こいつ追い出してやる。


「ねえちょっと君、起きなさいよ!」

「くか~」


 全然聞いてない。しかたない私は彼女のほっぺたをつまんで、左右にぐいっと引っ張った。おおお!? 柔らかい! まるでおもちみたいに伸びるよ! やだ、面白! と、そのとき、だらしなく開いた彼女の口からよだれがつつっと垂れ始めた。って、やばいよ! 


「お風呂が汚染されちゃう!」


 とっさの機転をきかせて、手のひらを合わせてよだれを受け止める私。セーフ! ふう。


「ちょっと、起きて! はやく! よだれが垂れてるんだけど!?」

「すぴ~」


 ムッカー! なにこの幸せ寝顔! こいつ全然起きる気ないよ! そうしてる間にも私のかわいそうな手のひらの中にたまっていくだらしないよだれ。刻一刻と決壊のときが迫る。どうしよう、やばいよ! どうしよう!? このとき、私の高性能な脳のお味噌は三つの選択肢をチンとはじき出した。


1.たまったよだれを風呂の外に捨ててからまた受け止める

2.あきらめる

3.吸いとる


 う~ん、どれがいいんだろうか。よし、脳内でシュミレーションしてみよう!


・ケース1

「よだれがもう満杯だよ! ようし、私はたまったよだれを風呂の外に捨ててからまた受け止める

ぞ!」


 おもむろに手を風呂の外にやり、よだれをびしゃっと床にぶちまける。わあ、ばっちい。さてと、また受け止めないと…。


「ああっ!?」


 なんてことなの! この子の口から垂れ続けるよだれがとぽとぽと風呂の中に入ってるよ!? 間に合わなかった…。お風呂は汚染されてしまった。


 GAME OVER


 だよね~。そうなるよねー。



・ケース2

「よだれがもう満杯だよ! ようし、私はあきらめるぞ!」


 だば~。


「ああっ!?」


 GAME OVER


 …てかなにこの選択肢無意味だよ。あきらめんなよ!



・ケース3

「よだれがもう満杯だよ! ようし、私は吸いとるぞ!」


 私は今にも手のひらから溢れんばかりの彼女のよだれにそっと口を近づけた。一瞬のためらいののち。ずずっ…ぴちゃぴちゃ…。私の口の中に、彼女の唾液が広がっていく。


「あっ、何これ、甘い、甘いよ…!? それに舌の上がすごくじんじんする。すごく熱い…」


 驚きはっとした私は思ず顔を上げると、目の前に幸せそうな彼女の寝顔があった。っていうかこの子、最初見た時から思ってたけど、すっごく可愛いよね…。女の私から見てもとってもラブリーに見える。思わず抱きしめたくなっちゃうくらい。濡れた繊細な髪の毛が首筋に貼りついてとってもセクシー。ああもう、ラブリーなのにセクシーってどうなの!? …あ、まだよだれが垂れ続けてる…。このまま手のひらで受け続けてもきりがないなあ。…なら、いっそのこと…。私は彼女の柔らかい上気した桃色の頬を両手でそっと捕まえる。


「ちょっとだけなら、いいよね…」


と、その唇に向けてゆっくり、ゆっくりと自分の心をじらすようにして口を寄せていく。そして。やがて訪れるその甘美な一瞬は、永遠となった。まるで時が止まったかのように…。


 GAME OVER


 …私はなにを考えているんだ…どうした私! これじゃ人としてゲームオーバーだよ!



 ホントどうしたんだろ、私。言っとくけど私、断じてノーマルだよ! イケメンが好き! イケメンが大好きな普通のかわいい女の子なの! なのにこのピンクの子ったら、近づいたらなんかすごい甘い匂いがするの! 脳みそのなかに広がって頭がおかしくなるっていうか、何なのコレ、わけわかんないよ! あーもう、なんかイライラする! こんちくしょう、この野郎!


 ゴン!


「んにゃ!?」

「へへへ、どうだ、ヘッドバッドしてやったぜ…!」


 へっ、ざまあないぜ。目をぱちくりしてきょとんとしてるよ。あ、こっち見た。


「あー、えっと? こんにちは」

「え? あ、こんにちは。ってかもう夜だよ」

「あ、ごめんなさい、こんばんは」

「うん、こんばんは」


 ちゃんと挨拶できる子なんだ。ちょっと意外。


「あー、えっと、いいお湯、ですね?」

「んー? まあね、ちょうどいい湯加減だよね」

「あ、あの、知っていたら教えてほしいんですけど…」

「いいよ。私けっこうなんでも知ってるし」

「わたし、どうしてお風呂に入ってるんでしょうか?」

「汗を流すためでしょ。リラックスするし。身体をきれいにするっていう。それ以外に君、お風呂入る理由あるの?」

「あ、そうですよね、ごめんなさい、変な質問して。ええと、わたし、今、気が付いたらお風呂に入ってて。ちょっと前まで不思議な場所で何か恐ろしいモノと戦ってたような、そんな気がするんですけど…」


 戦ってた? こんなトロそうな女の子が?


「あ、マジフォンのゲームアプリのことかな? 君、ゲーム好きなんだ」

「え? ああ、嫌いじゃないです、たぶん」

「なんかさっきからふわふわしてるね。不思議ちゃんかな?」

「ごめんなさい、なんだかいろんなことが分からなくて」

「あ、もしかして記憶喪失ってやつ!?」


 すごい、初めて見たよ! まるでなにかの物語みたい。


「いえ、そこまでわからなくはないけど…」

「そうなんだ。じゃあ君、名前は? 私はマホ。魔法使いやってまーす♪」

「マホさん、ですか。わたしはアスモデウス。魔王やってます」

「へー、魔王を…って、ええー!?」


 うっそ、マジ!? なんで魔王がこんなところに!?


















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