番外編 アルキスの魔法使いⅥ
「おっ風呂、おっふろ♪」
私は騎士団の紋章が描かれた大きなテントに向かうと、入口の布を押し分けて中に入った。するとででんと真ん中に大きな鍋のようなものがあり、その中には並々とお湯がはられていた。これがエマさんが言ってた五右衛門風呂というものなんだろう。そしてそのすぐ横で、鍋のような風呂釜に両手をかざしているのは調査団の騎士、ロマさんだ。
「やあマホさん、いらっしゃい」
「あ、ロマさん。何してるんですか?」
「魔法でお湯を沸かしてるんだよ。水の中に直接、火の魔法を発生すると良い湯加減になるのさ」
「ふうん。そんな魔法の使い方もあるんですね。にしてもロマさんって騎士なのに魔法使えるの?」
「え、ああ、うん、ちょっとね。うちの部隊は人手が少ないから自分でいろいろできないとダメなんだよ」
「大変ですね。部隊って何人くらいいるの?」
「僕と、エマ隊長の二人だけさ。前はもっとたくさんいたんだけど、みんな死んじゃったんだ」
「あ、ごめんなさい…。変なこと聞いちゃった」
「いや、いいんだ。危険な仕事だからね。仕方ないのさ。それより早くお風呂に入るといい」
「あ、は~い♪」
私は胸の前に金具で留めてあるマントのホックを外して下に置くと、窮屈な制服のタイをほどいて、ボタンをはずしていく。暑苦しいそれをマントの上に放り投げ、今度はシャツの裾に手をかけて、脱ぎにかかる。おへそが出たところで、なぜかまだテントにいたロマさんと目が合った。
「…あの~」
「あ、僕のことは気にしないで。魔法で湯加減を調整するのって難しくってさ、こうしてつきっきりじゃないとすぐに冷めちゃうんだ。ここ、魔王が封印されてる近くだろ? その影響かな、魔法で出した熱がすぐにどこかへと吸収されて冷めてしまうんだ。さ、僕にかまわず続きをどうぞ」
「はあ? 気になるに決まってるでしょ!」
「大丈夫。僕はもう大人で、君はまだ子ども。子どもの裸なんか見たってなんとも思わないさ」
「ホントに?」
「ああ、もちろん!」
無駄に爽やかな表情を向けてくるロマさん。まあ、そういうことなら別に平気、なのかな? 私は早く汗を流したい一心で、また服を脱ぎ始めた。シャツを丸めてマントに放り投げ、ブラのホックを外そうとして、またロマさんと目が合った。
「…あの~」
「あ、大丈夫。ちょっと見てるだけだから」
「…なんで見てるんですか!」
「いや別に? 深い意味なんかないよ。近頃の学生はスタイルがいいなあって思って」
「うわ…」
「え、そんなドン引きしなくても…」
「出てってよ! お湯は私が魔法で沸かすから!」
頭に血が上った私はロマさんの胸にトンと手のひらを当てた。次の瞬間、指向性魔力爆発によって彼の体はテントの入口から外に吹っ飛んでいった。
「うわあああーーーお湯は42℃が最適だからねーーー足元の方から加熱するのがコツさーーー…」
どんがらがっしゃ~ん!
実に説明的で律儀な悲鳴だった。実はいい人なのかな? ま、それはいいとして。
「それじゃ、待望のお風呂に~いざ入らん!」
よろこび勇んでお風呂の中へ。さあ入ろうとした私の目の前。
「え?」
そこには、風呂釜のなかで眼を閉じたままもたれかかっている、ピンク色の髪の女の子の姿があったんだ。




