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ダンジョンノート  作者: ふ~こ
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番外編 アルキスの魔法使いⅤ

「嫌あああああーーー、落ちるーーー…! …あ、こんにちは。私の名前はマホ。アルキス魔法学園の新米魔法使い候補生。そんな私は今、とても困った状況なの。なんやかやのなりゆきで、魔王アスモデウスの封じられた迷宮でなぜか行われるという謎の晩餐会に参加しようとしていたのだけれど、あとちょっとで着くというところでふとしたアクシデントに遭い、道の横の崖に落っこちてしまったの。その落下の途中で突如強大な魔力が覚醒した私は、空飛ぶホウキを呼んで掴まろうとしたんだけれど、捕まえ損ねてそのまま谷底に真っ逆さま。ただ今、絶賛落下中。なんてのんきに語ってる場合じゃないよ! ほら、地面が近づいてきた、し、死ぬのかな…?」


* * *


「ふああ~」

「こら、あくびなど、たるんでるぞ!」

「す、すいません、エマ隊長。でもあんまり退屈なもんで。例の荷物まだですかね。もう日が暮れちゃいますよー」

「うむぅ、確かに、ずいぶんと遅いな、ヘルベロスの奴め」

「いくら手を組んだとはいえ、しょせんは魔族ですからねー。人間との約束なんてこれっぽっちも守るつもりないんじゃないすか?」

「いや、それはない。奴にとって今回の儀式は大事なものだからな」

「自分らにとっても、ですか?」

「なんだ、納得いかない顔だな、ロマ。仕方あるまい。これもあのお方のご意思だ」

「はいはい、わかってますって。存じておりますとも。王国のため、民のため。この最低の仕事、しっかりやりきって見せますよ。誇り高き王立調査団の騎士としてね」

「…ふん。もういい、さっさと残りの準備にかかれ。まだ祭壇の祭具が整ってないだろう」

「はあ、了解です。じゃ、ちょっくらテントに取りに行って…ん?」

「どうした?」

「いや、なんか聞こえるような…声? 上のほうから…」


「嫌あああああーーー! 落ちるーーー! …あ、こんにちは。私の名前はマホ。アルキス魔法学園の(~中略~)地面が近づいてきた、し、死ぬのかな…?」


「隊長、エマ隊長! あれ!」

「む? なんだ、人…、女の子…? た、大変だ! えらく早口でしゃべりながら落っこちてくるぞ!?」

「あっちはテントの方です! この距離、まだ間に合うかも! 自分が受け止めます、足には自信ありますから!」


* * *


 ああ、かわいそうな私。こんなところでわけもわからずおしまいなんて。とりあえず怖いから目、閉じとこう…。


「あ、これ…」


 暗闇の中の、無重力。周りの空気は大きな塊になって私の体をなぞっていく。こ、これは新感覚、けっこう心地いい…! 完全に身を投げ出して全てを任せるこの感じに、私はすっかりハマってしまった。うん、崖から落ちるのも捨てたもんじゃないね♪ なんてやけくそな謎のポジティブ感に浸っていた私の世界に、耳障りなノイズが聞こえてきたの。最初はかすかに、だけどだんだんとはっきり聞こえてくるそれは、声? 叫ぶような、男の人の声だ…。


「…ぃ、お~い!」


 あーもー、うるさい! せっかく快感に浸ってるってのに、いったい誰!?


「危ないッ!」

「え?」


 すぐ前から声。思わず目を開くと、そこには知らない男の人の顔があったの。それはなぜか逆さまで、と思うがはやいか、彼はものすごい速さで私の目線の上の方にぶっ飛んでいった。一瞬、騎士のような鎧が見え、ぐしゃ。


「あああああ、き、君ッ! くッ、なんてことだ…」

「ロマ、女の子は!?」

「ダメです、エマ隊長、あと一歩、間に合いませんでした…」

「ああ、なんてことだ…頭が地面に突き刺さっている、余程の衝撃だったんだな」

「ええ、可哀想に…。ところでこの子、魔法学校の制服を着てますね…このシックなチェックのスカートは、アルキス織の生地だ…アルキス魔法学園の生徒ですよ」

「お前、よく分かるな」

「はい、自分、制服大好きなんで。ふふ、興味あるっていうか…ねえ」

「うわ。得意げに言うな、気持ち悪い…」

「あ、ドン引きして距離をとらなくても大丈夫ですよ。自分、隊長みたいな年増に興味ないんで」

「こら、私はまだ二十四だぞ!」

「そういうアピールいいっすから。興味ないって言ったでしょ」

「なんだとぉ! …ええい、頭痛くなってきた」

「頭痛いのは隊長じゃなくて頭地面にぶつけたこの子のほうでしょ。可哀想に、ほら、きっと脳みそまでぐちゃぐちゃに…ん? おかしいな、血が全然飛び散ってないぞ」


 ぴく、ぴく。


「え、今、動いた…?」


 ガバッ!


「あーびっくりした! 死ぬかと思ったぁ!」


「うわ、おばけ!?」

「隊長、落ち着いて。生きてますよ、この子!」

「あいたた。う~ん、あなたたち、誰?」


 私はまだ少しくらくらする頭をさすりながら、目の前で唖然としている男女を見た。一人はたぶん、さっき私が一瞬見た男の人。ブラウンの癖っ毛の、どこかやる気のなさそうな感じの顔が立派な騎士鎧からすごく浮いてる。もう一人は男の人の肩ごしに恐る恐る私を見張るようににらみつける気の強そうな女騎士。こっちはショートの赤毛が凛々しくて、まさに騎士様、って感じだ。


「こんにちは、あ、もう薄暗いからこんばんは、かな。私の名前はマホ。マホ=アプリカス。アルキス地方出身で、魔法使いやってます。あなたたちは?」

「え、ああ、僕はロマ。ロマ=リンガだ。ピコラ王国、白の騎士団、エマ小隊所属。見ての通りのナイトだよ。それからこっちの人が、って、エマ隊長、なに僕の後ろに隠れてるんすか!」

「おい、ロマ、お前おかしいと思わんのか!? そいつ空から落ちてきて地面に頭がめり込んだんだぞ! ここに落ちたということは、遥か崖の上の道から落下したはず。あの高さだぞ! なんで平気なんだ!?」

「はあ、確かに上は雲がうっすらかかるくらい高いですけど。ま、打ち所が良かったんじゃないすか?」

「んなわけあるか! 助かるはずない! ということは。さっき死んで幽霊になったとしか考えられん! 油断するな、呪い殺されるぞ!」


 えー!? 待ってよ、私、生きてるよ! なにこのエマとかいう人。いきなり人を幽霊呼ばわりだよ。見た目と口は立派そうなのに、頼りなさそうなロマさんの後ろに隠れながら私のこと指さしてる。ひどいよ! 抗議してやる!


「私、オバケじゃありませんー!」

「見ろ、ウソをついたぞ! この卑劣さ、ただの幽霊じゃない、悪霊だ…!」

「でも隊長、この子、ちゃんと足がありますよ」

「足なんて飾りだ! 罠だ! 幻影魔法ホロゥ・グラムか何かに違いない!」

「そうかなあ、本物に見えるけどなあ」

「お前の目は節穴か! ええい、こうなったらやむを得ん、私が証明してやる!」


 え、このエマ、急に怖い顔してこっち来たよ!? ちょっとやめて、鎧ガチャガチャさせて迫力あるよ、まじで怖いんだけど…。あ、私の前に立った、けっこうでかい、上から睨んでる、やだ、と思ったらいきなりしゃがんで足首掴まれちゃった!?


「わわ、ちょっと何すんの!」

「む、おかしいな、足首は本物か。じゃあふくらはぎは、…本物。太ももは? …うーむ、ふにふにしてるぞ…」

「本物だよ!」


 バシッ


 と、たまらずにエマの手をはねのける私。なにこいつ、おかしいよ! 


「やめてください! 触らないでよ!」

「すまなかった、本当に足があった。君は普通の女の子のようだな」

「いや隊長、それで普通だと決めるのはまだ早いんじゃ…」

「む、そうだな、普通よりちょっと可愛いかもしれんな。ふともももすごく柔らかいし」

「は? 隊長?(なに言ってんだこいつ…)この子が何で落ちても平気だったか何も解決してないじゃないですか。明らかに普通じゃないすよ」

「青いな、ロマ。騎士たる者に二言は無い。一度言ったら有言実行。それが騎士の常識。さっき普通と言ってしまったからにはもう普通と思うしかないのだ!」

「えー…?(ほんと大丈夫かなこいつ…)」


 ぐー…。


「ん、なんの音だ?」

「あのー、お二人さん」

「何だい、お嬢さん」

「私おなかすいちゃいました。この近くで晩さん会やるって聞いたんだけど、知らない?」

「え! どうしてそれを知っている!?」

「ヘルベロスに聞いたんです。あ、ヘルベロスってのはでっかいワンコで、しかもしゃべるんだよ。スゴイでしょ」

「もしや君は…そうか、アルキスの…! ちょ、ちょっとそこで待っててくれ」

「?」


 なんだろう、急に二人してそそくさと離れて行ったよ? テントの傍でこっちをチラ見しながらひそひそしゃべってる。なんか感じ悪いなあ。あ、戻ってきた。エマの方が。


「いやあ、マホさん。君だったんだな、今日の晩餐会の主役メインは。そうとは知らずに先ほどは失礼した。私はピコラ王国、白の騎士団、エマ小隊隊長を務めるエマ=ロンガだ。今日は王立調査団の護衛としてここアスモデウスの迷宮入口まで来ている。よろしく頼む」

「はあ、どうも。ところで、何でこんなへんぴなところで調査団が食事会するんですか? それに私が主役メインって、あ、もしかしてドッキリのお誕生会? でも私の誕生日来月だよ?」

「ああ、そうか。君は何も聞いていないんだな。まあ、ちょっとしたお祝いだ」

「?」

「にしても、今日は長旅で疲れたろう。あっちに即席の五右衛門風呂が用意してある。晩餐会の前に入っておくといい」

「え、お風呂あるんですか! やった、けっこう汗かいちゃったし、食事中に臭っちゃうかもって心配だったの!」

「ふふ、大丈夫、君は臭くなんてないぞ、むしろ健康的な匂いがする」


 そう言ってエマさんは私の肩にぽんと手を置いた。なんだろう、この人、手つきがねっとりしててなんか変な感じ。とか思ってると、後ろの大きなテントの方からロマさんの呼ぶ声がした。


「お~い、お湯が沸きましたー!」

「ああ、ご苦労ー! さ、マホさん、どうぞ」


 大声でロマさんに返事を返したエマさんは、私の両肩を掴んでくるんと回れ後ろさせると、軽快にトン、と押し出した。おっとと、危ないなあ、もう。転びそうになったよ。無神経だよ。でも、ここでお風呂に入れるなんてな~。…実は昨日ゲームに夢中でお風呂入ってないんだよね…そろそろむずかゆくなってきてたところだったんだ。それが大自然の中の露天風呂だよ! やばい、最高、超ラッキー! はやくは~いろっと♪



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