番外編 アルキスの魔法使い
時間が無かったので今回は番外編です。
私の名前はマホ。どこにでもいる普通の魔法使いだ。今年からアルキス高等魔法学園に通い始めたピカピカのティーン・マジシャン。今日も元気に空飛ぶホウキに乗って登校してきたのだけれど、教室に着くや否や、いきなり校長先生に呼び出しをくらってしまった。
「なんだろう、嫌だなあ…。ホウキ乗ったまま教室の窓から突っ込んだのがまずかったのかな…でもしかたないよね、遅刻しそうだったし。ぶつかった先生も軽傷で済んだし…」
なんて考えながら廊下を勢いよく飛んでいると、いつの間にか校長室の前に着いていた。後ろから危ないだのバカだの罵声が飛んできているが気にしない。
バタンッ
と音を立てて景気よく校長室のドアを開けると、おかしいな、誰もいないよ? そこには無駄に豪華な机と椅子がどーんとあって、それによくわかんない魔法書やらモンスターのはく製がごちゃっと置いてある。センス悪いなあ。邪魔なはく製をけっとばして道をつくった私は机の方に行き、これ幸いと立派な椅子にふんぞり返ってみた。
「あー、いいわー。まるで王様にでもなった気分。あ~、今日からこのマホ様がこの高(等魔法学)校の支配者なのであ~る! いつも赤点よこす生意気な担任のルースデンは即刻クビ。給食のプリンは三倍にすること。午後はずっとお昼寝の時間。それからえっと…、あ、ついでに校長もクビね」
そう言い終わると同時にどっかと机に足を投げ出してみる。一度やってみたかったんだ。あ~、なんて気分がいいんだろ。と、目の前で空きっぱなしだったドアがきぃ~…と勝手に閉じたではないか。一瞬、魔動ドア(魔力で勝手に閉まるやつ)か?と思ったけどそんなことはなくて、ドアの裏には高い鼻がつぶれて鼻血を流している校長のガラッホ先生がいたのだった。ヤバッ!?
「あ、あわわ…、あ、あなたは…!」
「たった今きみにクビにされたガラッホだが、どうしたのかね? わが校の支配者になったマホくん」
ガッタ~ン!
と勢いよくお尻で椅子を弾き飛ばしてぴーんと立ちあがった私は、慌てて校長先生をめりこんでいた壁から引っ張り出すと、ハンカチを取り出して彼の鼻血をきれいにふき取った。
「あはは、おはようございます、先生。朝から鼻血なんか流して元気ですね。どうしたんですか? …あっ、もしかしてさっき私がふんぞり返ってたときスカートの中、見えたんじゃ…!?」
「いいや、見てないがね」
「あ、それは残念でしたね」
「…ああ、まったくだ。きみは実に残念な生徒だよ」
「え、残念って、そんなに私のパンツ見たかったんですか…? やだ…キモいよ…」
「…きみは私をイラつかせるのが上手いな。感心してしまうよ」
「褒めたってもう見せませんから。それよりこれ、どうぞ」
「ん? ハンカチ? くれるのかい?」
「はい、血がついてもう使えませんから。その代わりお金返してよ。八百ミスリル」
「…。まあいいだろう、ほら。受け取りたまえ」
「ちょっと、五百ミスリルしかないじゃないですか!? なんでケチるの? 信じらんない!」
「…これと同じものが学校の購買で五百ミスリルで売っていたんだがね」
「私よくわかんない! せっかく魔法の学校に入ったのになんで経済の話なんかするの? もういいよ、五百ミスリルで。大サービスなんだから、感謝してよね!」
「ふむ、出血大サービス、かな」
「はい?」
「あ、いや、何でもない」
そう言って咳払いすると、校長先生は背広の上に纏ったマントをぱんぱんはたいて机の方に向かった。私はその背中に向けて質問してみた。
「校長先生、いったい何のご用ですか?」
「マホくん、きみを呼んだのは大事な用があるからだ。実は…おっと、椅子が倒れてしまっているな…おや、起こしてくれるのかい、ありがとう」
「お礼なんていいですよ」
私はよっこら椅子を起こすと、机の向かい側にせっせと運んで行儀よくちょこんと座った。
「さ、先生。話を続けてください」
「私の椅子がなくなってしまったのだが?」
「仕方ないですよ、この部屋、一つしか椅子がないんだもん。それより早く話してよ。もたもたしないでよね」
「きみはいったいどういう育ち方をしたんだね?」
「あ、聞きたい? あのね、私はここアルキス地方でお父さんとお母さんの子供として生まれたの。お父さんは建築家でお母さんは私とおんなじ魔法使い。それとお姉ちゃんは…」
「いや、いい。もうわかったから。それより私の話を聞いてくれ。そこに座ったままでいいから」
「ひどい、話を途中で邪魔するなんて。だからハゲるんだわ」
「…もしかしてわざとやっているのかな?」
どうしたんだろう? 校長先生は顔を赤くしてぷるぷるしはじめた。
「あはは! ハゲが真っ赤になってゆでたタコさんみたい!」
「きみというやつは…!」
「先生かわいい! 私、ハゲって大好き。だってお父さんみたいなんだもん。カッコいいよね」
「え…そ、そうかね?」
「?」
急に嬉しそうになった校長先生はゴホンと咳ばらいをしながら急に腕組みをして、斜めに構えたカッコいいポーズで頭をつるりと撫でながら話を切り出した。
「マホくん、きみを呼んだのは他でもない。きみにやってもらいたいことがあるのだ」
「はい、なんですか?」
「魔王アスモデウスを倒してきてほしい」
「はい、…って、ええ~!? ま、魔王を!? 私が!?」




