蹂躙
「お久しぶりです・・・・・・先生」
幅たちがこれから乗るはずであろうバスから、二人の男が出てきた。上の行にあるセリフの主は先頭にいる男の後ろで立っていたメガネをかけている青年である。
「やあ、あなたが健二君の教鞭をとっていた倫理の先生ですか? うちの部下がお世話になっておりました。林さんの口ぶりや態度から、私のことを存じていらっしゃいますね? 大変光栄です」と、メガネをかけていた男に背を向けるもう一人目の美青年が紳士的な態度で語っていた。
「健二!!っ お前隣にいる奴が誰だかわかっておるのか!? なぜそんな極悪人といっしょにいる!? さっさとこっちに来い!! 聞きたいことが山ほどある!」と、オールバックの髪形を怒髪天にでも変えるのではないかと思わせるくらいに憤慨している先生。
何事かと生徒組が先生の背後に走り寄った。
ただ幅とユリの目つきが、得体のしれない彼らを見た瞬間、古くから知る仇を眺めるかのように敵意をむき出しにしていた。
黒のスーツを着ている金髪の若者は、彼らの敵意にのみをシカトし、幅のいつも出している浅ましい笑みとは対照的とも思える上品な微笑みで「このたびはあなたたち学校全勢力と、宣戦布告しに参っただけです。宣戦布告だけですよ? しばらくの間はあなたたちをお亡くなりにさせる気はないので、他の生徒先生たちに今のうち遺書を書いた方がいいと伝えといてください」と、語っていた。
「何・・・・・・あいつ?」と、金髪の男の異常な言葉に気おされている弁水。
「では、近々あなたたちを殲滅しに参りますので、その時はよろしくお願いいたしますね。失礼します」と、その金髪の男は手を振り、はにかんだ笑顔で、自分と、健二と呼ばれている眼鏡の男の足元に、魔法陣を出現させた。
「待て、逃がすか! 虎狼!! 喰らえっ音魔法『錫杖腕』!!」と、先生は虎狼と呼んだ金髪の男に自分の手をかざし、金色の魔法陣をその手から出した。
「喝っ!!」と、虎狼は先生が出そうとした魔法の音をかき消した・・・というよりも誤魔化すかのように一喝した。
その後、健二の手から魔法陣が出現し、先生の足元からコンクリの地面を突き破ったうねうね動く木が、老いた体をきつく縛りあげた。
弁水「先生!?」
ルナル「貴様らああああぁああぁぁああっ!!」
音魔法を一喝して難をしのいだ虎狼と健二に、先生に暴力をふるったことに対しての闘志を燃やしたルナル達が攻撃を仕掛ける。
弁水は、先生に絡まっている木をちぎろうとしている時に、彼女の耳にどこからか、バトルアニメでよくありそうな激しくも癖になるバトルシーンのBGMが聞こえてきた。いや気のせいだ・・・。
ルナルの手が青く輝きだし、そこから白く濁った霧状の物が虎狼に向かって、突進してくる。
どよんだ白いそれは、草木や地面、そして空気中の水分を一瞬で氷結させ、銀色の世界を創り出そうとしている。
虎狼は少し微笑んで、その霧状の物に向かって、水属性の魔法で応戦した。コンクリートを軽々と破壊するほどの威力だ。
しかしどんなに威力があろうと水と氷・・・相性は最悪だ。彼の手から放出し続ける水が、霧に触れた部分のみ氷漬けになり、放射速度が劇的に落ちた。ルナルの顔に当たる直前で止まりだしたのだ。
その後だった・・・虎狼が『水』を片手でわしづかみにしたかと思えば、大きく踏み込み、棒状になった水にはりついてる氷の塊を、ルナルの肩に思いっきり叩きつけた。
地面に体を預け、うずくまっているルナルを気にしている鈴蜂が虎狼に攻撃を仕掛ける。
虎狼は鈴蜂が創った上空の魔法陣をのんきに眺めて、思考に耽っていた。
急に鈴蜂の動作が止まった。弁水たちが呆気カランにとらわれている。
彼女は本当に何を思ったのか、虎狼に自分の竹刀を差し出した。
虎狼「いい子だね、ありがとう・・・そしてお疲れ様・・・」
鈴蜂は防御も回避する素振りすら見せずに、虎狼に渡した自分の竹刀の餌食となった。
弁水が青ざめている中、神通力で魔法を使える状態になった黒烏は、雷をまとった状態で虎狼に近づく。
虎狼は素手で、自分の死角からくる黒烏の顔を殴り飛ばした。
雷をまとった黒烏は、自分の背中と大木が衝突し、気絶した。その大木は彼に触れてる数秒で、黒焦げの・・・炭の塊になった。
「愚策だったね・・・・・・」と、焦げた自分の拳をフゥーフゥー息を吹きかけ冷まそうとする虎狼。
半泣きになってビビっている現見は「残念だったね、虎狼さんとやら、彼の雷に当たったものは、100パーセントで、ひどい全身マヒ状態になるよ?」と、相手に洗脳魔法で応戦する。
彼の言った通り虎狼の手先足先の感覚が鈍くなり、体全体の震えが止まらなくなった。
しかしその凄まじい振動エネルギーを、虎狼は自分の手のひらから出した魔光弾すべてに注ぎ込む。
彼の震えは止まっていた。だが、彼が出したであろう魔光弾のそれは、シャレにならないくらい震えていた。
木々と茂みに身をひそめるユリは、虎狼と健二に向かって、大量の毒針を投げ飛ばした。
健二は自分の足元に曲がりくねった木を生やし、防御。虎狼も自分の持っている(正しくは空中に浮遊している)魔光弾で弾き飛ばした。
現見「なんで僕の洗脳魔法が効かないんだよ???」
ユリ「化け物どもめ・・・・・・」
マヒ状態で、うまく魔法も使えないはずの虎狼が出した魔光弾を、怯えている現見にぶつけた。
現見は失神とはならずとも、まともに再起は出来そうもない。
虎狼「洗脳魔法っというよりも、暗示魔法ってほうがしっくりこない?」
幅「言えてる~」
「お前どっちの味方だよ!? 後で、ぶっ殺しますから」と、しゃがんだ状態で、木々の間を移動したユリは、さっきいたのと違う茂みの陰から攻撃を仕掛けながらもそんなことを考えていた。
攻撃に移った瞬間、ユリの感覚に異変が起こる・・・目まいと吐き気がしてきたのだ。
ユリ「っ!?・・・」と、なんでだと、原因を探ろうと辺りを見回した。
原因はすぐに見つかった。自分の右ひじに、さっき彼女自身が投げたであろう毒針が刺さっていたのだ。その至近距離に、くねくね動く手の形をした植物が地面から生えてある。
自分で調合した毒を除こうと、魔法陣を出したユリは「さすが『ウェアーブレイン』・・・・・・さっき私が投げ飛ばした毒針の一つを、私たちに気付かれない位置・・・・・・木の陰からこっそりその草で抜き取り、地面を通じて、私のひじに当てにきてたのね」と、説明臭い言葉の羅列を考えながら、メガネの青年をかわいい瞳で睨み付けた後、動けなくなった。
もはや彼らと闘う相手は、残った幅と弁水のみになった。
弁水は「幅さ・・・君どうしよう・・・あいつら滅茶苦茶強いよ~」と、涙目で慌てふためいていた。
幅「どうしよって・・・あいつらやられてる方が悪いじゃん!」
弁水「はぁっ!?」
幅「健二たちの攻撃は全部正当防衛じゃねえか! あいつらが今日宣戦布告しに来ただけなのになんでこっちが今攻撃しなきゃならねえわけ? なあ虎狼さんとやらよう・・・合ってるだろう?」
虎狼「その通り! 茶髪の女の子に胴討ちで戦闘不能にしたのは過剰防衛でした。それに関してはやり過ぎたと反省しております」
「わかったから、さっさと帰れやチート共・・・俺たちに殺意だすなよ? 今!」と、シッシッとハエを追い払うかのように手で払いのける動作をしながら語った幅。
幅「ああっあとな・・・」
虎狼「はいっ?」
幅「仮にだが、お前が殺意出した状態で他の人を攻撃してみろ?俺はお前を火だるまにするからな・・・絶対!」
虎狼「ええ、その時が楽しみでたまりません。私もあなただけは・・・ 幅 因幡だけは・・・この手で絶対に葬ります」
幅「だぁ~かぁ~らぁ~今殺意だすなよほんとっ。困っから!」
「はいはい」と、虎狼は答えながら、持っていた鈴蜂の竹刀を放り投げた。
虎狼と健二は、行きはバスで来たくせに、魔法{テレポート}で帰って往った。
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