敬意と侮蔑
一言あらすじ
潰されました?
二階から見ていた天気は巨大な岩に小さな亀裂が入ったことに気づいた。二階にいた殆どの生徒は少しの亀裂など気づかなかった。しかし、何かが砕けていく音に段々と異常に気づき始める。そしてその音が大きくなるに連れて亀裂が大きくなり岩が砕けた。
岩を落とした男子生徒は自分の目を疑った。彼の視線の先にあるのは自分の最大の魔法『ロックブラスト』だ。それにリーダーと花が押し潰された、いや、押し潰したはずだ。それがどういうことだ。彼の目の前では段々と浮いていく岩がある。しかも何かを砕いていく音を発しながら、確実に浮いていっている。
「あり得ない!!」
彼は見てしまったのだ。それは決してあってはならない光景だった。自分の最大の魔法で、それも直撃で『無傷』で立っているなど。
「ば、化け物!」
「それは酷くないか。お前も俺と同じ化け物だろう」
花は不適に笑って立っていた。その傍らに巨大な木を生やして。
「いやー、危なかった。 もう少しで負けだったなー」
危なかったと言う割りに全然そんなようすを見せずに花は彼に向かって歩き出す。
「どうやって、どうやって避けたんだ!?お前はリーダーごと潰したはずだ。答えろ!!」
彼の目には花は最早人として見られていない。強大な力を持った化け物なのだ。声が震えて腰が退けていても何もおかしくない。
「あのさぁ、お前馬鹿なの?何でわざわざ説明しなくちゃならねぇんだよ。これは決闘だぜ」
「く、来るな!!うわぁぁぁ!!」
尤もなことを言われて動揺しているところに花が近づいてくるため彼はついに逃げ出した。仕方がないだろう。自分では勝てないと気づいたのだ。花は追う気がなかったが逃げた彼は気づくべきだった。自分と花以外の存在に。
瞬間、彼はこけた。何もないところでだ。そして、必死に体を動かそうとしているのか体が少しずつぴくぴくしながら動いている。
そんな彼に近づき思いきり足で彼の顔面を踏みつけたのは流佳だった。
「使えない愚図はさっさと消えなさい」
流佳はある程度蹴って意識を奪った後、彼を体育館の端まで蹴りとばした。二階で見ていた生徒は唖然としている。流佳が自分の仲間を戦闘不能にしたのだ。目の前の光景に殆どの生徒はついていけていない。しかし、当の本人である流佳は気にせず、いやもうそんなことを忘れたように花へと視線を移した。花も流佳から視線を外さない。
「いいのか?本性隠してたんだろ」
「いいのよ。使えない愚図が何人かいるよりも使える下僕を数人傍に置いた方が良いってことに気づいたから。もう、芝居はおしまい」
やれやれといった感じで話す流佳に花は疑問を隠せなかった。
(こいつらは確かに弱いが全部お前のためだったんじゃないのか?それこそ自分を犠牲にして)
花の脳裏に映るのは自分ごと魔法を撃てと言ったリーダーの姿だった。
「あら、どうしたの?顔が恐いわよ。まさか愚図どもを馬鹿にされたのを怒ってるの?」
花はそこでようやく自分の表情の変化に気づいた。確かに怒っていたんだろう。柄にもないと思いながらもやはり流佳を許すつもりはない。これ以上話すつもりはない。花は流佳に向かって駆けて拳を降り下ろす。
「え?」
それは誰の声だったか。もしかしたら花本人の声だったのかもしれない。花の拳が空を切った。いや、正確には違った。花の拳が『何もない空間』に降り下ろされたのだ。それは流佳の数歩手前の位置だ。花は動揺していたがそれでも流佳が何をしてきても対処できる自信はあった。
しかし、花は何もすることができず腹に蹴りをいれられた。
「ぐっ!?」
「この程度?」
流佳は蹴りを入れた脚を戻して花の髪の毛を掴んだ。そのまま花の頭を下ろして膝で蹴りあげた。最早呻き声すら許さず上がった頭に回しげりを撃って花の体は沈んだ。
「どうしたの?まさかこれで終わりなの?ちょっと本気を出しただけよ?男なら根性見せなさい…よっ!!」
倒れた花の頭を思いきり蹴ろうとしたが花が何とか起き上がって距離をとった。しかし、花は立つことはできたものの肩で息をして苦しそうに顔を歪めている。
「やればできるじゃない」
「何様だ、ボケ」
「減らず口を叩く余裕はあるのね。でも強がって内で異能力使えば?このままなぶり殺されるの嫌でしょ?」
「…」
花は答えなかったが実際その通りだ。突破口がまったくない。このままだとどうやっても勝てない。流佳の異能力は大体分かった気がするが確信はできていない。負けないためにももう出し惜しみはできない。花はそう判断して、懐へと手を入れる。
流佳は花が懐から出したものを見て寒気を感じてしまった。花が取り出したのは黒い鉄の塊。
「何、ソレ」
「これは銃。異能力や魔法を使えない奴等が考えた対抗手段だ」
花は言うが早いか流佳に向かって弾丸を撃ち出した。流佳の異能力が花の思った通りなら恐らく――流佳に向かっていた弾丸は全てかすらない程度の場所を通過していった。流佳は当然と言わんばかりに余裕の表情を見せて花の顔を見る。そして、先程銃を見たときよりも遥かに強い寒気を感じてしまった。
頼みの綱の銃まで効かなかったとすればもう絶望しかないはず、そう思い覗いた花の顔は笑っていた。それは唯の笑顔だ。しかし、流佳は生まれて生きてきた中で最も恐ろしいものだと感じるには充分な恐怖が花の笑顔にはあった。
「なるほどね。お前の異能力は、感覚操作だな」