入学
1~7話のサブタイトルを変えました。
『ジリリリリ』
部屋の中に目覚まし時計の音が響き渡る。もぞもぞと布団から這い出て目覚ましを止めるとそのまま夢の中へと戻っていった。しかし、それは部屋の扉をおもいっきり開けた妹に邪魔されてしまった。
「にぃ、早く起きないと入学式に遅れちゃうよ」
「…後……三十分…」
「長いわ!!」
朝イチで盛大に突っ込みをいれられてそのまま布団を奪い去られてしまった。仕方なく起きてリビングへと向かう。
朝食はすでに作られており妹の蕾とともに食べ始める。蕾の作る料理は家族であることを抜きにしてもとても美味い。
「にぃは本当にあの学校で良かったの?」
蕾は突然食べる手を止めて真剣な表情で問いかけてきた。しかし、兄の花はそんなことを聞くな、と言わんばかりに無視をする。
「にぃはあたしのために異魔学園を選んだんだよね」
異能力魔法学園、通称異魔学園。異魔学園はその名前の通り異能力や魔法を使う人間だけが通うことができる学園だ。卒業後の進路もその類いのものを安心して選ぶことができて有名校の一つでもある。何より異能力は先天性のもので魔法と違い努力で獲得できないので重宝される存在であるため、異魔学園では異能力者の生徒は授業料免除などの特権を与えられる。また、学園内に依頼されてくる仕事をこなせば依頼金が入ってくる。ある意味、夢の学園である。
「別にお前のせいじゃないよ。異能力者が檻の中に入れられるってだけの話だ」
確かに異能力や魔法は強大な力だ。しかし使えない者からすれば危険なものとしかみえない。だから異能力者達は影では化け物と呼ばれている。それは当然異魔学園に入ると正式に化け物呼ばわりされることが確定するのである。
「タダで学園に通ってその上給料まで手に入る。最高じゃねえか」
特権は異能力者を表舞台に引きずり出すための餌でしかない。それがわかっててもやはり特権が必要になり、入学するケースは多い。花もその一人だ。
「でも、私のためなんでしょ。にぃは私の生活費のために化け物呼ばわりされる覚悟で異魔学園に行くんでしよ。私がいなければにぃは……」
「お前がいなかったら俺は父さんと母さんが死んだときに自殺してる。だから蕾、何も気にするな。蕾はずっといなくならないでくれたらそれでいいんだ」
四年前、事故で死んだ両親の目の前で立ち尽くしていた花にしがみつき泣いていた幼い蕾。当時小学六年生である蕾は動かない両親を前に泣くことしかできなかった。守らないといけない、妹は、蕾は何があっても守らないといけない。蕾がいたからこそ花は使命感でなんとか持ちこたえることができた。もし蕾がいなければ中学一年生だった自分は正気を保つことができなかっただろう。
「だから、蕾は元気でいてくれ。それが俺にとっての一番の幸せだ」
蕾は兄の言葉に涙を流して唯一言。
「にぃ、ごめんなさい。………にぃ、時間!」
スッと指差された時計を見てみると八時五分前をさしている。歩いていくと一時間はかかる通学路。つまり……
「このままじゃ遅刻じゃねえか!!」
花はさっさと準備をして八時に家を飛び出していった。蕾はこれからほとんど帰ってこれなくなる兄の無事を願い静かに微笑んで「行ってらっしゃい」と声をかけて自身もゆっくりと通学の準備を始めた。
花が学園に到着したのは八時二十五分。ギリギリでなんとか間に合った。
花は入学前にもらった資料の中から自分のクラスを探して歩いている。花の教室は二階の『1ー3』でそこにはもうほとんどの生徒がいた。花が入ったときに周りの目は花に視線を向けるがすでに花にそんなことに気を使う気力はない。
それもそうだろう。本来一時間はかかる通学路を二十五分で走りきったのだ。自分の机に突っ伏したとしても仕方がないだろう。
しかし、花が休む時間はすぐに終わった。
「皆さん席に着いて下さい。僕がこれから三年間の担任になる荒川です。すぐに入学式が始まるので体育館に行ってください」
荒川の指示で生徒達は体育館に向かった。
それから入学式は無事終わり今は教室で簡単な自己紹介をしている。やはり花はここでも寝ているが。
「……んんぅ……何?」
暫くすると横から服を引っ張られて目を覚ました。引っ張った相手は隣に座っている女子生徒でその顔は笑っている。
「進道君。君は寝ていたから最後に回したよ。自己紹介をしてくれ。能力も含めてね」
いつのまにやら自分の番も通り過ぎていたらしいことに気づいて溜め息をつきながら立った。
「進道 花です。能力は『植物成長』よろしくお願いします」
こうして花の望んでいない学園生活が始まった。