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火色のグラディウス  作者: 玄弓くない
第零章 紅蓮の竜と転生せし者
1/5

1.始まりは異常事態

さて、新作投稿です。

 










 これは、剣と魔法の物語。











   □◆□◆□◆











「ぬわぁぁぁあああああ!!」



 レンは驚愕のあまりに喉の奥から絶叫した。


 晴天の青空に、柔らかそうな浮き雲が緩やかに流れる。頂点に座す太陽がもたらす暖かい日差しは、今日もまた人々を照らしていた。


 ノードゥスの森。


 街に近い場所は比較的安全な地域で、露天商も取り引きする野草などが採集できる“恵まれた”場所の筈だった。


 少なくとも、現在レンの目の前で殺気を漲らすこの化け物が現れることなど、噂で聞いたことすらない。


 鋼のような光沢を放つ白銀のたてがみが揺れるのは微風か、はたまた殺気の度合い故か。岩すらも砕く脚力と、木々を刈り取る刃の爪に、軽く苦笑いが漏れる。


 人を容易に噛み千切る顎と牙の奥から、森全体に響かせる勢いで咆哮が迸った。


 それは鐘楼にして宣言。


 かの者が同族を呼び集め、自らが王の凱旋と気風にて獲物を狩る。────要は、“殺戮パーティー”開催のお知らせだ。



「…………今日が命日になるのかな」



 精神メーターが振り切れそうな勢いの焦燥と緊張で、手が震える。汗ばんで手から剣を落とした瞬間が、自分の最後だと理解していた。


 銀狼王アルゲルプトゥフ


 世界中で生息する魔物の中でも別段珍しくはない。“危険な逸話”と“犠牲者の数”の多さでは、レンも幾度となく耳にしていた。


 しかしながら、このノードゥスの森の端、街から徒歩で一時間程度の近隣で遭遇するような存在ではない。ほぼ毎週ここを訪れているレンが見掛けたことすらない、書物や噂話の出来事だ。







 ────何故こんなところにコイツがいるの?







 レンは自分の記憶を探った。


 世界でも約半数が群れ(プライド)を成す生態タイプ銀狼シルヴオルフがリーダーとする、三十歳越えの雄。群れを危険から守る為か、無闇に人里へ降りることはないとされている。


 実際に遭遇しているところを見ると、古来からの有り難い教えがガセネタだったのか、何か重要な事態が発生しているのか。もしくは、レンの命運が尽きたのか。







 鼻息を荒くしてにじり寄る四足歩行の巨大な魔物は、前足から頭部までの体長が3メートル大はある。見上げるしかない。


 第三者の視点、つまり他人事のように楽観視することができた。発狂して頭のネジが外れたかもしれない。


 レンは今日、正式な依頼を受領し、冒険者の一人としてノードゥスの森に来た。“はぐれの銀狼”が数匹いるから狩って欲しいとのことだったのだ。


 天気良し、気分良し、調子良し。朝から元気一杯の絶好調だったレンが、昨日受付を終えた依頼書を片手に森へ乗り込む。


 装備品の手入れも欠かさなかったからか、それこそ銀狼製の鉄剣は易々と同族を切り捨て、共食いする様を見せ付けた。


 討伐完了、依頼達成の証として数匹の銀狼の死骸から爪や耳といった部位を剥ぐ。


 さて、帰ろう。そう思った矢先に、“背後の大木がへし折れた”。







 出会いは尊し。だが、命こそ尊くべきものだろう。死神と出会うとか冗談。


 常識では基本的に単独で見つかった上、獲物と定められた時点で死亡。生命溢れる匂いのある限り、優秀なお鼻様は死に場所まで付いて来る。


 打ち倒すのは却下。銀狼製の鉄剣とはいえ、群れの長とヒヨッコでは切れ味も年季も違う。防御すれば剣と一緒に速やかに両断されるだろう。


 では如何にして生還するか。


 若干十四歳の少年であるレンは、大人顔負けの冷静さと機転でその方法を模索していた。震えが止まった時から、レンは“いつもの感覚”に戻っている。


 故に、この場では死なない。死神さんは、また今度。



「くらえ、必殺──」



 銀狼王が前足を振り上げる様を見ながらも、暢気に“鼻を摘んだ”。


 鉄剣を地面に差し、腰の道具袋から草玉を取り出す。前足と似たモーションで投げつけたそれは、銀狼王の鼻に衝突。炸裂した。


 止まる前足。


 倒れ伏す気高き銀狼王。


 苦しみのあまりに、レンも膝を着いて悶えた。息したくない、声すら出せない。


 ────くっせえぇぇぇええ! 何じゃこりゃああ! ぐああぁぁぁあああ!!


 草玉の名称は【超臭玉(ストゥールボール)】。


 世界有数のクサい“ブツ”を出す鉄蹄牛ミルスタプの雄から採取した“モノ”。それを完全密封した草玉に封印した道具。冒険者の間では、初心者から熟練者まで頼れる相棒だ。


 銀狼の対策で携帯していたが、まさか親玉に使うことになるとは、予想外にもほどがある。銀狼王と共に地面を横転している状況では、不幸と断ずるしかあるまい。


 しかしそこは人間の種族、真人しんじん。平均的な嗅覚のお陰でいち早く復帰し立ち上がる。鼻は摘んだ。


 驚異的な優れた嗅覚が仇となり、銀狼王は寝ころぶしかない。尤も巨大な為、重量に押し潰される可能性もあるにはある。



ふぁ()ふぁ()らばだ……!」



 敵の戦意を充分に殺してやったので、レンは蛇行しながら早々に立ち去った。


 臭いの発生源から少しでも遠ざかる為に。










   □◆□◆□◆











 長閑な田舎町。その形容はクラースの街に表現するに適合している。


 樹木や野草、道具や魔術の素材の名産でもあるノードゥスの森が近く、冒険者や旅人が必ず立ち寄る程の休憩地。


 舗装された道の端に花々が生い茂り、畑を有する家屋も点在。小川に水車が緩やかに回り、牧場も丘の麓に設けられている。







 そのクラースにも、相も変わらず聳えるのがギルドハウス。


 組合とも別称されるそれらは、多種多様に渡り仕事を紹介する斡旋所でもある。職業別に建てられ、同業者が情報を交換し合う憩いの場。


 この世界が大戦を経て統一され、いつの間にか最大手の冒険者ギルドとして世界中に知れ渡っている【アークライナス】。登録された冒険者は、“全体の四割”と驚異の数値を上げていた。


 クラースの北部。名所の並木道の先、丘の麓に設けられた三階建ての木造家屋。


 それが、冒険者ギルド【アークライナス】のクラース支所である。


 冒険者とは特に決まった職業に就かなかった古い世の冒険家達が、行く先にて種類を問わずに始めた何でも屋が原型。現代では、冒険により得た資材を売り、または斡旋所にて掲示される依頼をこなして生計を立てる者達の総称である。


 傭兵専門のギルドに僅かたりとも劣らない様々な武具を装備し、危険地帯から生還、珍妙な素材を持ち帰る知識。彼らは、この世界の経済を循環させる重要な役割も任せられている。







 常時ならば、依頼を受領する者達が屯するぐらいの空疎なカウンター。


 ギルドハウスとはいえ田舎町なこともあり、受付嬢の方々は十名にも満たない。ただでさえ少ない人員が今、ホールに散って慌ただしく駆け回り業務に勤しむ。


 というのも、理由は明らかだ。



「いや、本当なんだって! おりゃ確かに見たんだよ!! 死ぬかと思って念仏一説唱えたんだぞ!?」


「私も怖くて怖くて怖くて怖くて……! あーん、ママァ怖かったよ ー……!!」


「紛れもなく真実ですとも。この四十年で初めての経験じゃて。……驚いて老眼鏡落っことして来てしまったわい」



 悪臭を放つ異様極まりない十名近くの集団が恐怖やら震えを露わにしながら叫びまくっていた。クラース支所の受付カウンター前の喧騒は大変珍しく、一階のロビーや二階のホールから何事かと大勢が見詰めている。


 剣や槍の武装や、厳つい重量感のある鎧を身に付けた冒険者達。普段は三十人程いれば魔物討伐の祝勝会でもあるか疑うが、今回は違うと悩ましく理解できた。


 溜め息混じりに、レンもその悪臭軍団の仲間入りを果たす。小柄で細身な体格を活かし、人混みに割って入る。


 このガキ、と高かった沸点がブチギレそうになった輩もいたが、レン特注の赤い東方外套が視界に収まり、呆気に取られ黙り込む。


 腰には銀狼(シルヴオルフ)製の鉄剣を差す、赤蜥蜴サレドラの東方外套を被る若い少年。S〜Fまで存在するランクの級がよくわからない。防具は中々、武器は駆け出し。


 幸か不幸か、そんなレンに注目した冒険者は少しばかりいた。



「────で、ですから! 銀狼王アルゲルプトゥフはノードゥスの森には生息していません! 見たかったらグレシア白山まで旅行にでも行ってください! 臭いと死体の処理も自然がしてくれて完璧です!!」


「メンチさん、ただいまです」


「誰が豚肉メンチだゴラァあああッ! ついでに挽き肉(ミンチ)でもねえッ! 私はムンチです──って、レン君?」



 本人が大変嫌いな呼び名に、受付嬢は表情を般若に変貌させて振り向いた。恐ろしい光景を見たと、うるさかった冒険者の数名が凍り付く。


 近年減少しつつある真人の純血種の少女は、その若さでギルドの受付嬢の現場リーダーを任じられていた。レンを一目見るや、お帰りと優しく微笑む。


 般若は一瞬で身を潜めた。



「聞いてよレン君ー! 皆さんが銀狼王を見たんだって言い張るの! そんなの数百年の歴史で一回も無かったんだよぉ!? 集団で幻覚催眠でも起きたんだよ! もしくは擬態系の魔物!」


「…………じゃあ、俺も幻覚に掛かったみたいだから治癒魔術師呼んで。お代は人数分をギルドに払ってもらうとします」


「そうだそうだッ!」


「やっちゃえおチビくん!!」


「そんな、レン君まで──ってか臭ッ! レン君も臭いッ!! そうよ、この臭いなら幻覚なんてぶっ飛ばすわ! ごめんなさいごめんなさい、謝るから皆お願いシャワールームへダッシュしてください臭いが移るヘルプミー!!」



 漸く理解してくれたみたいだが、妙に納得いかない。そんな釈然としない思いを表情に浮かべ、冒険者達は各自冷静さを取り戻していく。


 そして、思い出したように鼻を摘んだ。







「事情聴取は他の人が身振り手振りで力説してくれてるし、まずは報酬の三万プレマを渡したいんだけど……」


「魔力鑑定は料金が高いから却下で。素材鑑定の方ね」



 レンの粛々とした台詞に苦笑いを浮かべたムンチの顔は、レンが背裏から取り出した代物にて引きつる。ドチャリ、ゴトリと肉が潰れる音を立てた密封性のバッグがカウンターの受付嬢を恐怖させた。


 ビクビクして覗き込むムンチは、“確かに目視した”。ギルドの鑑定士を呼ぶまでもなく、銀狼の一部と確認できる。爪やら耳やら腕だった。頭部が丸ごと無いだけレンは優しい。



「財布は今ないからカードに。…………そんなに素材見たくないなら辞めれば?」


「何を言うか! 私にとって受付嬢は天職にして憧れ! いくらレン君でも馬鹿にされたくない!」


「本音を三十字以内で述べよ」


「お給料が良いんです…………!」



 人は金の為に恐怖と戦えるらしい。レンは人間という存在の新たな一面を知識のページに書き込む。手を上に向けて、ヤレヤレと首を振った。


 世界共通通貨プレマは、ギルドメンバーの認定証でもある魔札カードに魔力情報として保存させることで携帯に便利である。レンも無闇に財布は持ち歩かない。


 理由として、財布自体が仕事の障害となり、道端で盗賊に持ち逃げされては泣き寝入りで済まない。懐にカードを一枚、それが世界で最近の流行。


 街の治安管理の一端を仕事で任せられているギルドのクラース支所。今回レンが受領した銀狼討伐の依頼は、ギルドが発注したものであった。


 三万プレマはレンの大事な生活費で、儲けとしては少し足らない。


 しかし、受付嬢のムンチはレンが冒険者になるに辺り、尽力してくれた友達。今日は忙しかったようなので、寛大な態度で接しよう。



「夜にでも料亭行く? 今日は奢るけど」


「むー……。いや、銀狼王の調査が済むまで無理かな? 今日は遅くなりそうだし、また今度お願いね」


「それは無理な願い。奢る分は今夜、俺の胃袋に消えてしまうから」


「うぐぅ……! そ、そんな……」



 崩れ落ちそうなムンチに別れを告げ、手を振りながら立ち去る。待ってくれ、と恨めしい波動を背に感じつつ、クラース支所を後にした。


 ────今日は我が家で焼き肉でもしようか。











   □◆□◆□◆











 統一暦1000年。


 この世界が【エクナミア】と呼称されてからそれほどの星霜を経ている。嘗て大戦で荒れ果てた大地も、焼き尽くした森も、枯れた泉もその姿を取り戻し、そして移り変わっていった。


 原初の人と呼ばれる真人。


 動物達の筋力と野生を秘める獣人。


 強靭な肉体と生命力を宿すドワーフ。


 妖精の血を引くとされていたエルフ。


 格式高い竜から血を分ける竜人。


 侵略と絶滅の果てに、五つに大別された人族が憎み争い、そして己が種族すらも殺し合う最悪の黒歴史。それも、とうの太古に封印されていた。


 結局滅ばなかった人類が互いに手を取り合い、文化や環境を交流し、認めることこそ始まり。平和な世界が訪れて、千年もの時が流れていた。


 血脈も入り混じり、血液型に似たニュアンスで純血種と混血種が誕生するようになったのは、歴史書ですら詳しく残されていない。


 エクナミアには大気と同じくする魔力なる物質が存在し、全ての存在は如何なる量でもそれを内在していた。


 人類はそれらを応用し、技術へと進化させたものが魔術とされ、現代でも変わらずに生活の基盤となっている。







 艶のある漆黒の髪は後部を少し長めにしている。カブトガニの尾みたいとは、“こちら側”での友達の言葉だ。強気な猫目に薄い肌、少女然とした幼い顔付きは母親譲りらしく、仕方ないと最近では諦観気味。


 “少し思い出した”が、緋色の瞳は人間の色素的におかしいものだ。いや、科学的な話を持ち出したところで法則性が違う為意味がない。


 レン・フレイナスは純血種の真人だが、“他の人間”とはどこか違っていた。







 



最初から眠気に負けてたまりますか!

でも、ちょっと目がグラグラです~

(σω-)。о゜

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