第二章2 『チカラ』
「あんたが鳴海だな。悪いがその罪、償ってもらう」
俺は金髪のツンツン頭の男にそう告げる。
「なんか言いました? 頭大丈夫ですかぁ? ギャハハ」
鳴海が気色悪い笑い声をあげると、釣られるように取り巻きも笑い出す。
こいつらの笑い声には吐き気を覚える。歳は十七か十八ぐらいで数は五。公園にはこいつら以外誰もいない。普段からこいつらの溜まり場になっているせいで子供たちも近寄りがたいものとなっているのだろう。
「臭いな、お前」
わざと勘に触ることを言う。話を聞かないやつにはこの手が一番だ。
「あ? なんだって?」
バカ笑いは止み、威圧的な視線を向けてくる。
「お前らが何人もの女性を誘拐し、暴行を働いていることは知っている。少しは罪悪感があるのかと思いきや、そんな人間らしい感情は欠片も残っちゃいねえ。つまり人間失格ってわけだ」
「お前も混ざりてえのか? 無理無理。だからよ……死んでろクソガキ」
鳴海の拳が俺の腹へと吸い込まれる。俺の肺から空気が押し出されるのを感じる。
「おいてめーら、こいつの爪一枚ずつ剥がしてやれよ。死ぬより辛い思いさせてやれ」
死ぬより辛い……か……。
「俺はな、これから地獄に行くやつらに思い出として一発殴らせてやるんだよ。それよりもお前、死ぬより辛いって言ったか? なら聞く。お前らは死んだことがあるのか? これから俺が本当の恐怖ってのを見せてやるよ……」
俺の両腕を掴んでいた男が震えるのが分かる。
「おい、鳴海。見えるか? なんだよ……これ……なんなんだよ!」
「耳元で大きな声出すなよ……耳障りだ」
顔をしかめながら悪態をつく。
ゼロ距離で俺に触れているこの男には見えているのだろう。俺の体を覆う金色に輝く光が。
「いでよ……『断魂のファルス』」
俺の右手に光が集まり、徐々に象っていく。それは一本の剣となり、手の内に収まった。
「へっ……そ、そんなのまやかしに決まってんだろ! お前ら、やっちまえ!」
鳴海の取り巻きが束になって襲いかかる。
こっちは武器を持っているが、相手は一人ひとりがバットやカッターといった物騒な物を持っている。数の暴力とはこのことだ。
「この世に未練を残すなよ? 消えろ」
俺はファルスを握った腕を振るう。
刃はチンピラ共には届いていない。しかし、ファルスの軌道を追うように現れた金の光がチンピラ共の手を、足を、体を、顔を覆う。
「なんだこれ! てめぇ! なにしやが……」
そこで声は途切れた。光に多い尽くされた者はしばらくもがいていたが、やがて金色の霞となって消えていった。
「男なら男らしく向かってこいよ。その金髪は見かけ倒しか?」
「ちくしょう……やってやるよ……やってやるって言ってんだよ!」
こうして彼も消えていった。
屑に時間を裂くだけ無駄なので省く。
彼らの存在はこの世から抹消された。彼らがいたことすら誰も覚えていないだろう。そして思い出すこともない。歴史には彼らがいなかったと認識され、いたという記録すら残らない。彼らの魂は煉獄に送られ、罰を与えられながら浄化される。ある一定の基準を満たしたそのとき、再び生き物として生まれ変わることが可能になるのだ。
ファルスもまた、霞となって消えていった。俺はベンチに腰かけて空を見る。
また今日もリストを一つ片付けた。このまま順調にいけば残りのリストは一ヶ月足らずで終わることだろう。
俺は物足りなさを感じていた。それはこの使命に対することではなく、もっと重要なことであり、禁忌にも等しいことに対してだった。