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第一章3 『それは罪か? 衝動か?』

 まずは服が欲しい。

 上級天使センパイに選んでもらった、無地の白Tシャツに(ひざ)のところが破けたジーンズ。

 別に俺は気にはならないのだが、なぜか人の視線を感じる。他に似たような格好をした人がいれば気にも止めないだろう。しかしどこか違う気がする。それなら人間に直接聞く方が手っ取り早い。

 そんなわけで俺は今、コニクロに来ている。服が欲しかったらまずコニクロといわれるほどの大手企業らしい。驚くほどたくさんの衣服が置いてある。

 俺からすればどれも同じにしか見えないのだが……。

 だが、自分のセンスを信じて安易に購入してしまえば、また後悔することになるだろう。ここはできるだけ歳の近そうな店員に今時の服を選んでもらうとしよう。

 辺りをキョロキョロ見回す。

 万引きしようとしてるようにも見えるが関係ない。どうせ店員に話しかけるのだから。

「おばちゃんは論外だし、あのおっさん臭い店員も無理。あのお兄さんはワイルドすぎだし……いた!」

 俺は見つけた。

 まだ学生だろうか?明らかに他の店員とは雰囲気が違い、幼さが残っている。異性であるのは少し残念だが、女の子ならセンスもいいはず!

「あのーすみません」

 俺の呼びかけに対し、彼女はたどたどしく振り返る。

「あ、はい、何でしょうか?」

 その瞬間、頭の中に様々な情報が送られてくる。彼女の名前や年齢、住所や通っている学校のこと。

 まさか……彼女もこれから……。

 しかし、彼女の顔を見た俺の理性は吹き飛んでしまいそうだった。

 腰まで伸びた栗色の髪はストレートで細く、サラサラしていた。大きく開かれた目は黒い真珠のようで、光を帯びて輝いてるように見える。整った顔立ちを強調しているのが彼女のスタイルで、無駄な肉の付いてない腕に引き締まった腰、ミニスカートからすらっと伸びた美しい脚。小さすぎず大きすぎない胸。

 それら全てが俺を魅了した。

「あ、いや、その……服が買いたいんだよね」

 変に緊張して調子が狂う。

「あ! 邪魔でしたか。どうぞ」

 勘違いしてるのか、彼女は移動する。

「ちょっ、待って! 俺さ、最近の服とか知らないからさ、歳も近そうだし選んでくれない?」

「いいですよ。ご予算はどれくらいですか?」

「お金はたくさんある……と思うから気にしないで選んでくれていいよ」

「分かりました。ではついてきてください」

 彼女はとても熱心に選んでくれた。接客なのだから当たり前だと思う人もいるかもしれない。だけど、興奮していた俺には全部が(いと)おしく感じた。

「うーん、やっぱりこっちの方がいいかも……」

 二つの服を持ち上げてどちらにしようか悩む。

 俺としてはもう少し彼女を眺めていたい。

「任せるよ」

「さっきからどうしたんですか?ずっと私のことを見てる気がして」

「いや、真剣に悩んでくれてるなーと思ってさ」

「接客なんで当たり前です」

「名前は……渚美月(なぎさみづき)ちゃんっていうんだ。高校生?」

「勤務中なので。それと気安く呼ばないでください。お会計はあちらになります」

 これで知り合い程度にはなったはずだ。悪い印象を与えたのかもしれないが……。

 裏地にチェックの柄が入った白のパーカーに黒のカーゴパンツ。

 年相応の格好だろう。とくに希望があるわけじゃないし文句は言わない。

「三千九百七十円になります」

「あのさ……どれ出せばいいの?」

 すでに自動販売機で失敗しているため、ここは恥を捨ててでも学ぶ必要がある。

「え?」

 突如、財布の見せだす俺の奇想天外な行動に彼女も驚きを隠せないでいた。

「お金ってさ、全然使ったことないから分からないんだよね。いつも親が払ってくれてたし」

 チクショー! めちゃくちゃ恥ずかしいことをさらっと言っちまったぜ!

 今の俺を鏡で見てみたい。顔がで上がってるに違いない。

「ぷっ……からかってるの?」

 周りの様子をうかがいながら口元を隠して笑う。

「結構真面目なんですけど」

「あのね、このたくさん入ってるお札に数字が書いてあるでしょ? これが大きければ大きいほど価値が高いの」

「じゃあ、この一と0が五つのやつを出せば足りるのか?」

「そういうことです」

「……勉強しないといけないな」

 会計を済ませ、満面の笑み――半分バカにされた気がしないでもないが――で店を送り出された。

 デパートのトイレに行き、さっそく買ったばかりの服に着替える。

 着替えてからは人の視線が集まることもなく、堂々と公衆の面前にでることができた。

 そしてどこか適当にベンチに座り、物思いにふける。

「渚美月……か……」

 彼女を思うと胸が熱くなる。両手を抱え込んでうずくまってもこの熱を抑えることはできない。

 数百年生きていて感じたことのないこの想い……。

 きっと俺は彼女に……『恋』をしたのだ。

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