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第一章2 『確かめるべきもの』

「君、学生だよね? 今日は学校ないのかい?」

 肩を叩かれて後ろを向けば、若い警官が笑顔で立っていた。

「俺に言ってんの?」

「あぁ、君に聞いている」

 面倒は避けたい俺と、与えられた職務をただ純粋に果たそうとする警官。俺たちの相性は悪すぎた。

「俺は学生じゃない。ほっといてくれ」

 その場を立ち去ろうとするが、再び警官が立ち(ふさ)がる。

「見たところ未成年のようだね。念のため聞くけど何歳?」

 無視することを考えたが、ふと足を止める。

 そういえば自分のことは名前以外考えたこともなかった。本当の年齢を言っても笑い飛ばされるだけだろうし、言わなければずっと付きまとわれかねない。

「十六歳……ぐらい」

「年齢的に高校生だな。学校には行っているのかい?」

「だから学校なんて行ってないって言ってんだろ」

「高校生活も始まったばかりだろうに、今からサボってたらダメだぞ? ほら、学校名と名前、クラスと自宅の住所を教えなさい。あとご両親の電話番号もね」

「しつけぇ……」

 呆れてものも言えない。

 何百歳も年下の人間にでかい顔されてムカつくとまではいかないが、心地よいものではない。

 走って逃げ切れるかなーと考えていると、頭の中で一つの情報が目につく。

「俺の家さ、この近くなんだよね。親もいるし来る?」

「そうだね、ご両親にも注意をしないといけないだろうし」

 なんの疑いも無しに後ろをついてくる警官を人混みの多い商店街へと誘導した。

「君の家にはまだ着かないのかい?」

「もう着くってば」

「さっきからそればっかりじゃないか」

 だんだんと疑いの眼差しを向けるようになってた警官。

 そうあせるなよ。そろそろだから……。


「キャァアアアアーーーー! 痴漢よ!」


 警官が愚痴を漏らし始めたその時、人混みの向こうで女性の悲鳴が聞こえる。

 ポカーンと口を開けて呆然としている警官。

「市民の平和を守るのが警官の務めだろ? 行かなくていいのかよ」

「そ、そうだね。君はここで待ってなさい。警察です! 通してください」

 警官は人混みをかき分けるように悲鳴のした方へ進んでいく。

「待ってるわけねーだろ、バーカ」と心の中で呟きながら後ろを向くと、その場を歩いて立ち去った。

 今頃あの警官は痴漢を追いかけているだろう。俺は痴漢のおかげで警官から逃げることができた。しかしこれは偶然ではない。あらかじめこの時間に何らかの犯罪が起きることを知っていたのだ。

俺の頭には人間界で犯される『罪』の情報が天界から送られてくる。その中には、人が何人も死ぬような事件から万引きのような小さな犯罪が幅広く含まれている。

 運命というものはいくつもの分岐点があるため、いくら断罪者である俺といえども実際にターゲットの罪を確認するまで判断は下せない。しかもその罪が自分を見失うほどのもの――つまり『人間ではなくなる』ようなものであるならば、天界が『堕落』と判断し、断罪者が裁くこととなる。

「ただの痴漢なら俺の出番はないだろ」

 誰の耳にも届かないような小さな声で呟きながら、人混みの中へと溶け込んでいった。

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