序章 『若き天使』
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俺の存在が認められた証、それは有坂悠生という名前。
それまで俺に名前なんてものは存在しなかった。上の連中が俺みたいな下っ端に名前を付ける意義を見出だせなかったからだ。
しかし、虫けらと同等……いや、存在すら認めてもらえなかったこの俺にも使命が与えられた。これが成功すれば出世コース間違いなし。いつも威張り腐っていた連中にペコペコしていた俺ともおさらばだ。
その使命の内容は、罪を犯した人間を裁くこと。ようするに悪い人間を始末すればいいのだ。
さすがにもうお気づきだろうか? 俺は人間ではない。まだ千年も生きてない若輩だがこれでも立派な天使だ。天使としての力は弱いが、力が全てではない。意思の強さが重要なのだ。意思の弱い者は堕天使となり、罪を犯す前に天使の手によって罰が与えられる。俺はその意思を試されるのだ。この使命で。
天使の証である翼は人間の姿に押しとどめられ、名前も与えられた。人間と瓜二つの俺は人間界に降り、天界から送られてくるリストに載っている人間を観察し、彼らの抱えた罪を見届けた後に裁きを下す。
はたしてどのように意思の強さを試すのかは疑問に思うところだが、俺は与えられた使命をこなすだけだ。
堕天使がどのような罰を受けるのかを俺は知っている。俺が生まれてすぐの頃、天使の中でも上位にいた俺の両親は堕天使として罰を受け、監獄へと閉じ込められた。それ以来、両親の姿を一度たりとも目にした者は誰もいない。だからこそ俺は偉くなって会わなくてはならない。そして堕天使となった両親に聞くんだ。
「俺を一人残してしたかったことはなんだ?」
――てな。