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第83話 意味不明な出来事

魔物の襲撃が終了した日から数えて5日目の朝、身嗜みを整えて宿の食堂で朝食を摂っていると3人の衛兵を引き連れた騎士が建物内に入ってきた。


突然現れた騎士がエントランス内を舐める様に見回し始め、食事を摂っていた俺と目があったところで一枚の羊皮紙を手に歩み寄ってきた。


「白髪の男か……貴様がクロウで間違いないか?」

「確かに俺がクロウですけど、何か用ですか? それと俺の髪は銀髪であって、白髪じゃないので」

「そんな事はどうでも良い。貴様にはある容疑がかけられている、共に城まで来てもらおうか。この場をお前の血で染めたくないのであれば、下手な抵抗は見せぬことだ」


目の前の騎士が合図を出すと一緒に来ていた衛兵の一人が俺の腰に付けている剣を取り上げ、更に二人の衛兵が左右から身体を拘束するようにして着ている軽鎧を脱がせた。


この事で俺が今装備しているのは、ほぼ防御力がゼロに等しい布の服一枚だけ。


「所持している物は此れで全部か?」


騎士は服のポケットに入れてあった銀貨数枚を右の掌の上で弄びながら鋭い目つきで睨み付けて来る。


「服のポケットに入れてあった物は其れで全部です。でも此処で服を脱げなんて事は言わないでくださいよ? こんな見世物状態にされているのは恥以外のなにものでもないんですから」


少し前までは軽鎧の内ポケットにクレイグさんに貰った緑色のカードが入れてあったが、あの時ギルドの奥の部屋でクレイグさんの切羽詰まったかのような表情を見て、ただ事ではないと思った俺はその日の夜に、部屋の中で古代魔法【ディメンション】を使用し、生活の為に必要な銀貨数枚を取り出した財布とクレイグさんに貰った緑色のカードを収納したのだった。


「……まあ、良かろう。其の身柄、容疑が晴れるまで拘束させて貰う。連れていけ!」

「その前に一つ聞きたいんですが、何かの容疑で『話を聞く』ならまだしも『拘束する』なんて、俺には何の容疑で掛けられているんですかね?」

「私は貴様を連れて来るように命令されただけだ。貴様の問いに答えを示す事は許されていない」


俺は手を後ろ手で縛られることはなかったが、目の前に白い鎧を着こんだ騎士、左右に各々の武器を装備した衛兵、後方にも同じように武装した衛兵が俺が着込んでいた軽鎧を手に、付いて来る。


《マスター、くれぐれも御用心を。目の前の騎士は問題ないようですが、左右と後方に居る衛兵からは生気というものが全然感じ取れません。まるで生きた屍のようにも感じられます》


確かにエストの言うように俺も違和感を感じていた。

衛兵に命令する騎士は『なんで俺がこんな小間使いみたいなことを』と俺が軽鎧を脱がされている時に一人で床を見つめながらブツブツと独り言を言っていたことから何も問題が無いようだが、三人の衛兵はただ騎士の言葉に頷くだけで声も発しなければ、顔の表情を変える事すらない。


極めつけは二人の衛兵が軽鎧を脱がそうと手を伸ばしてきた時に一瞬、俺の腕に触れたところで異様に体温が冷たいと思ってしまった事だ。


エストの言葉ではないけど、本当に血が通っていない死人かと思えるような肌の冷たさだった。


宿の女将さんは突然の事にオロオロとしているが流石に騎士相手に悪態をつく事は出来ないため、目を泳がせながら事態を見つめている。



その後、騎士に先導される形で宿を出た俺が見たものは遠回りに宿を取り囲んでいる殺気だった目で俺を睨み付けている冒険者達の姿だった。

この冒険者達だが日に日に俺に対する態度が酷くなって行き、終いには俺の治療は受けたくないという者や、俺の姿が視野に入るだけで殺気だった視線を向けて来るものなど十人十色だった。


因みに魔物の襲撃時に行動を共にしていたサミュエスさんやシュナイアさんは忙しいのか、この5日間で2回ほどしか見てない。


そして騎士に連れられるままに城へと足を進める俺の姿に合わせて周りの目も移動する。

時折、カチッカチッと冒険者が鞘から剣を抜いたり収めたりしているところを見ると、もし目の前に騎士がいなければ真っ先に襲い掛かってくるのではないかと思わせるものだった。


《本当に情けない連中ですわね。多人数でつるまないと何もできないのでしょうか?》

《マスターの許可さえあれば、一掃して差し上げるのに……》


心の中にいる精霊達も周囲の目に苛立ちを覚えているのか物騒な事を言っている。

その後、5分ほどして街と城とを繋ぐ跳ね橋を渡って城内へと足を踏み入れた俺は微かな違和感を感じていた。


どんな違和感かと尋ねられると、回答に困るのだが……。



城に入って直ぐのエントランスには多くの衛兵が剣などの武器を研いでいたり、戦場に補給される弓矢、医療テントで使われるシートなどを束ねて大八車みたいな物に積んでいたりとしているのだが、その誰もが俺達に目を合わせる事も、仲間同士で喋る事も、休むこともせずに黙々と作業を進めている。


まぁ極真面目にやっていると言えなくもないのだが、それにしては何処か不自然だ。


《マスター、お気を付け下さい。宿の時と同様に彼等からは生気という物が一切感じられません》


エストからの声に耳を傾けていると、目の前の先導している騎士から言葉が発せられた。


「可笑しいな? 貴様の身柄を引き渡す者が見当たらない」


そう言った次の瞬間、作業を行っていた衛兵達が手に持っていた物を床に投げ捨てたかと思うと、一斉に剣を抜いてジリジリと歩み寄ってくる。


「な、なんだ貴様等!? 反乱でも起こすつもり……グガァァ!? お、お前達まで何故だ」


騎士がそう言いつつも自身の剣を抜いて対峙するも時既に遅く、宿屋から一緒に付いてきていた3人の衛兵によって背中から串刺しにされ、夥しいまでの血液を腹部から噴出させて血の海に沈んでしまった。


ハッキリと味方とは言えないが騎士が死んでしまった以上、此処に俺の味方は一人もいない。


居るのは剣を片手に死んだような目で距離を詰めてくる、10人ほどの衛兵達。

俺が持っていた剣は騎士の腹部に刺さったままなので引き抜けば奴等に対処できるが、剣を回収するために一瞬でもしゃがんで背中を見せれば、俺も騎士の様になってしまう恐れがある。


かと言って時間を掛けて誰かが城の奥から姿を見せるのを待つという余裕もない。


「こんなことしたら後から大問題になると思うけど、この際しょうがないよな。なるべく手加減するけど、恨まないでくれよ?」


彼等に届いてるかどうかは分らないが、此れからする事の言い訳をするかのように言葉を発して【サンダー】を唱え、掌にバチバチと音がする雷を出現させる。


彼等が誰に操られているかは分からないが、低魔力のサンダーがスタンガンの要領で気絶してくれれば御の字かと思ったからだ。


そして順番に気絶させていこうと思った矢先に驚くべき事態が目の前で行われた。


「な、何を!」


なんと9人の衛兵が自らの武器をまるで切腹をするかのように自身の腹部へと突き刺したのだ。


しかも一か所とは言わず、何回もグサグサと突き刺し挙句の果てには自分で自分の首を落してしまった。


そして残る1人は息絶えた騎士の腹部から態々俺の剣を引き抜くと、それを何の躊躇もなく周りにいる衛兵と同様に自身の腹部へと突き刺して床に倒れる。


この事で最初からエントランスの床が赤かったのではと思わせるほど、衛兵の腹部から流れ出た血で赤く染め上がってしまっていた。


しかも騎士を殺害した時も自身の腹部を刺した時にも、全く顔の表情に変化は見られなかった。


「な、なんで自分で自分の腹を刺したんだ?」


エントランスにあるのは騎士の死体が1つと衛兵の死体が10個。


若しかしなくても無傷の俺が此処に居るのは非常に不味い。

先程は衛兵に襲われかけていた事で誰か早く来てくれないかと心の中で願っていたが、こうなってしまうと出来れば誰も来てほしくない。


扉を開けて城の外に逃げてしまいたい気分もあるが、つい数分前に拘束されて城の中に連れて行かれた俺が早々と姿を見せるのは可也怪しまれる。


《マスター、一刻も早く此処から離れてください。通路の奥からカチャカチャと音を立てながら歩み寄ってくる足音がします。音から察するに少なくとも10人は居るものと思われます》

《音は左右の通路のどちら側から聞こえる?》


エントランスから左右に伸びる通路の先には各騎士隊の訓練所兼宿舎がある。


《残念ですが、両方から聞こえるようです》


という事は逃げ道は街に通じる門だけという事になるか……この場に残って状況を説明するって選択肢もあるにはあるが駄目だろうな。確実に俺がやったとみられるだろう。


俺は意を決して背中側にある扉を開けると、一気に跳ね橋を渡って街へと逃げた。


だが目の前には予想通り、なんでお前が此処に居ると言いたげな多くの冒険者たちの姿があった。


まさに前門の冒険者、後門の衛兵・騎士というところか。

その間にも城の中から足音が近づいてきている。

このまま冒険者達の間を縫って街の外に逃げるという手もあるが、目の前には各々の武器を構えた屈強なる男達の姿があった。


「なんでアイツが居るんだ?」

「奴は裏切り者の疑惑があって、城に連れて行かれたって聞いてるぞ」

「城で何かあったのか?」

「見てみろよ、アイツの足元。なんか赤く染まってねえか?」

「あれってまさか血じゃねえよな」


冒険者達は口々に好き勝手な事をほざいているが、間違ってないだけに反論することが出来ない。


そして俺は如何にかして此処から逃げなければと思い、城壁に沿うようにして街の北側へと足を進めるのだった。


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