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第82話 そして事態は更に悪い方へと進む

クレイグさんに呼びだされて、ギルドの奥の部屋で裏で何者かが暗躍しているという話を聞いてから既に4日が経過していた。


この間に小物な魔物の街への襲撃は度々あったものの、帝国の物と思われる攻撃は一度もなかった。

そして今日も今日とて宿屋で朝食を終えた俺は、怪我人の治療の為に医療テントへと赴く。


『謎の魔物』の襲撃から既に5日が経過しているので怪我人の治療も落ち着くだろうと思っていたのだが、些か訓練に力が入り過ぎる『とある人物』により怪我人が尚も量産されていく。


俺を含む魔法関係者各位は怪我人を治療する代わりに街の外で戦ったり、魔物の動向を監視したりする見張りの任務を免除されているのだが、それを周りの人間。特に冒険者達は快く思っていないのだ。


その為、宿から医療テントへ行ったり、医療テントに来ることが出来ない怪我人を探すために他の魔法騎士と街中を歩く時には、地面に座り込んでいる冒険者達から殺気が漂う視線を浴びせかけられたり、態と俺に聞こえるような大声で文句を言ったりしている。


彼等曰く、仲間の一人が真夜中に腹痛を起こして医療テントに運び込まれたのは、俺がなんらかの毒物を食わせたからだという話なのだが……。

後で事を詳しく調べ上げた者の話によると、戦争の真っ最中の為に街の外から食料の補給が出来ないため、一人一人の食事量を制限しているとの事。


その為に腹痛を訴えていた問題の男は腹が減り過ぎて眠る事が出来ず、夜中に宿の厨房に忍びこんで食べ物を食い漁ったらしいのだがくだんの食べ物は宿の料理担当の人物が痛んで悪くなっているとの事で翌日処分しようと思っていた物らしい。


因みに男が居た宿は俺が泊まっている宿屋とは違うため、ハッキリ言って俺には何の関係もない。



その後も飲み過ぎて頭が痛いのは俺の所為だとか、彼女に振られたのは俺の所為だとかいう全然関係ない話が所々から聞こえてくる。


《ああもう! 本当に鬱陶しい奴等だな。いっそのこと、死ぬ一歩手前で痛めつけてやろうか?》

《いやいや、そうしたら結局医療テントに運ばれてきて、俺の仕事が増えるだけだから》

《そうですよ。飲むのが好きみたいですから、胃が破裂寸前になるまで水を注ぎこむなんて良いんじゃないかしら》

《別に気にしてないから、そんな物騒な事を考えない様に》


考えは物騒ながらも俺の事で親身になってくれているのは無の精霊エスト、火の精霊サラ、風の精霊フィーと並ぶ残り2体の精霊である、水の精霊ラクスと土の精霊ティアだ。


彼女らは3日前にサラ達の時と同様に青い髪、黄色の髪を風に靡かせながら街に入ってきたところで街の入口付近で屯している冒険者達にちょっかいを掛けられていた。


その事に逸早く気が付いたのは俺がお世話になっている宿の女将さんだった。

何でも宿の外で掃き掃除をしている時に、女性2人が厳つい男達に絡まれているのを目撃したらしい。

とは言っても戦う術を持たない自分が男どもを止めに入るのは分が悪いとの事で近くに居た衛兵に助けを呼ぼうと動いた瞬間、2人に絡んでいた男達は地に倒れていたという。


その後、やれやれと肩を竦めながら振り返った女性2人が、かつて人間形態で俺を訪ねてきたサラとフィーに髪色は違うものの、瓜二つだという事で咄嗟に俺の名前を出したところ、2人が溢れんばかりの笑顔で頷いた為、遠くの街で暮らしている俺の親戚だと判明。


その当時の男達とやり取りした事を2人に聞いてみたところ《あまりにも息が臭かったので、水を操って鼻と口を塞いだだけですわ》と《足元に誰も気が付かないような小さな地割れを起こして油断させた後で、急所めがけて思いっきり足を振り上げただけです》との事らしい。


襲っていた男はすぐさま医療テントに運ばれたが1時間もしないうちに目を醒ましたのち、医療テントを飛び出して2人を探したそうなのだが、冒険者達の纏め役であるジェレミアさんが話を聞きつけて『それだけ元気があれば、直ぐに訓練を始めても問題ないな』と2人を足腰が立たなくなるまで扱いたらしい。


そしてその日の街を見回って怪我人を探すという仕事を終えて宿に戻った俺に女将さんから『親戚2人を部屋に通しといたから』と言づけを貰い、更にエストから『精霊が2人近くに居ます』と念話を貰った事で俺は階段を急ぎ足で駆け上がり自身の部屋へと飛び込んだ。


部屋に飛び込んだ俺が見たものは、椅子にもベッドにも座らずに直立不動で此方を見ている2人の女性。


話を聞いたところ、青い髪の方は水の精霊で黄色の髪の方は土の精霊と判明。


此れまでの事を説明した後で、何の問題もなく契約は完了したが、精霊の力で生み出していた人間の身体が今にも消えかけたところで俺が待ったを掛けた。

2人は困惑しているような表情を浮かべていたが、部屋に入って行った2人が何時まで経っても出てこなかったら流石に不審がられると説明すると、納得がいったような顔をした。


この宿屋の部屋には明かり取りの窓が備え付けてあるが、人一人が通り抜けられるほど大きくはない。

その為、外に出るには嫌でも食堂がある一階エントランスを抜けなければならない。まぁ足場のない二階の窓から出入りで出来る人間なんているはずもないが。


その後、女将さんの御好意で2人は宿の使用人の部屋に宿泊したあと、翌朝にはどうしても行かなくてはならない所があるという二人を街の外まで送るフリをして街の門から一歩出た、城壁の上からは死角になる場所で女性二人の肉体は消え去った。


女将さんは最初、この混乱が収まるまでは二人とも街に滞在していた方が良いんじゃないかと引きとめていたが、食料不足の件もあって強くは引きとめられなかったらしい。


ちなみに冒険者や騎士達とは違い、一般市民は街の出入りが自由になっている。

その為、街の外で何かあっても自己責任として対処しなければならない。


大抵の場合は護衛を雇うことが出来ずに、街のから数歩歩いたところで魔物に襲われて命を落とすというのが関の山だが……。


その夜、前回の2人の時と同様に夢の中からエストの誘いによって精霊神殿へと赴き、水と土の精霊に名前を付ける事で本契約を完了した。


水の精霊は『湖』を意味するLACUSTRINEから単語を抜き取ってラクス。

土の精霊は某ゲームに登場する召喚獣タイタン(TITAN)からティアと命名した。

此れでこの世界の起源とされる無の精霊、更に4大精霊との契約を果たしたことになる。


ちなみに契約が完了してから言うのも何だけど、火の精霊との契約時のような試験的なものを行わずに良かったのかと聞いたところ、4体の精霊は存在こそ違うものの思考は繋がっているらしく、無の精霊エストと火の精霊サラが俺を認めた事で出会ったらすぐに契約して貰おうと考えていたらしい。


「それにしても、火の……いやサラって思いきった事をしたもんだよな」

「そうですね。仮にマスターが意にそぐわない人物だった場合、如何するつもりだったんですの?」

「本当ですよ。傍で見ていてハラハラドキドキしましたわ」


火の精霊を除く、3体の精霊から執拗に責められ神殿の隅で小さくなっているサラがいる。


「まぁまぁ、俺は特に気にしてないから。それに前の契約者の事はエストから聞いてるから試したくなるのも、分からないでもないしね」


契約は完全に終了し精霊神殿を後にした俺は何事もなかったかのように医療テントで怪我人の治療に励み、回りにいる冒険者達からの批判的な視線に心の中で、物騒な言葉で噛みつくラクス達を宥めながら一日一日を過ごしていった。



そして魔物襲撃後から数えて5日目の朝、ついに事態は悪い方へと動き出そうとしていた。


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