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第81話 見えない所で蠢く、黒い影

かなりの難産であったにも拘らず、あまり前に進んでいません。

医療テントで他の魔術師とともに怪我人を治療していた俺の元に此れからの事で話があると俺を呼びに来たのはギルドマスターのジェレミアさんだった。



医療テントからギルドまでは距離にして約300m。


普通はゆっくり歩いたとしても5分とかからないのだが、俺からしてみれば周囲の目で1時間にも感じられた。

その訳は街の至る所で地面に腰を下ろしている疲れ果てた冒険者や騎士達の姿。

他の者に比べて、怪我らしい怪我をしていない俺の事を恨んでいるのかそうでないのか、まるで医療テントで魔術師を睨み付けていた男を思わせるかのように鋭い殺気立った視線が身体に突き刺さる。


そうこうしている間にギルドに到着したものの其処には俺とジェレミアさん以外、誰もおらず入口はディアスとエティエンヌが、裏口はルディアとガッシュが見張りについて誰も中に入れない様にしているのだという。


普段、依頼書が張られている掲示板があるホールへと足を進めると不意にジェレミアさんが声を発した。


「クロウに用があるのは実は私ではない。クレイグ様がギルドの奥にある個室でお前を待っている。これには流石に冒険者や騎士はおろか、私でさえも立会いを許されてないのでな」


そしてジェレミアさんは俺に建物の奥に入る様に促すと、俺に背を向けて外へと出て行く。


俺は此処でこうしていても始まらないと思い、意を決して覚悟を決めて奥の小部屋へと足を進める。


「『コンコンコンッ』クロウです。入ります」


部屋の前についた俺は戸を3回程ノックして部屋へと足を進めると其処には木の机に両肘をついて、手を組んだ上に顎を乗せて難しい顔をしているクレイグさんの姿があった。


「お忙しいところをお呼び立てしてしまい、誠に申し訳ありません」


クレイグさんは其れだけを言うと、向い合せになる様に目の前にある椅子に俺を誘った。

が、俺は椅子に腰を下ろす前に頭を深く下げて心から謝罪する。


「戦場でレギオンが現れたのにも拘らず、【シャイニング】を使用して倒さなかった事を先に謝罪します。申し訳ありませんでした!」

「み、神子様、顔をお上げください。戦場の状況は先の会議に於いて聞き及んでおります。あの乱戦状態でレギオンを倒さなかったことを責めるつもりは毛頭ありません」

「えっと……此処に自分を呼んだのは其の事を怒っていたからなのでは?」

「違いますよ。此処にお呼びしたのは神子様の身に危険が降りかかろうとしている事を御教えするためです。私の方から医療テントに足をお運びしても宜しかったのですが、何処に目や耳があるか分かりませんから。取り敢えず椅子に掛けてください。まずは落ち着いてお話ししましょう」


そして俺がクレイグさんの向かい側にある椅子に座った事で改めて会話が再開された。


「魔物が襲撃を開始する4日前、実は他の街の情報が此方に全く伝わってこない事を不審に思った私は秘密裏に陛下に許可を貰い、選りすぐりの騎士を2人1組で各々の街へと向かわせようとしていました」

「えっ? 『していました』って行かせてないんですか?」

「……正確には行かせられなかったという事になります。此処ドラグノア以外のギルドのある街が5か所、騎士達が駐在している街が6か所、其処に騎士を2人ずつの計22名を選抜して派遣しようとしていました。更に口を酸っぱくして他の者にこの事を話さない様にと言いつけていたのですが」

「何があったんですか?」

「命を言いつけ、出発の前日になって22名が自室で殺されているのが見つかりました。更に私の執務室の机の上には血で書かれたと思われる便箋が置かれてました」


クレイグさんはそう言って懐から1枚の4つに折り畳まれている羊皮紙を取り出して机の上で広げると俺に見せてきた。


其処にはこう書かれていた。


【これ以上、余計な真似をすれば貴様の親しき者達、貴様が敬う者達を殺す!! 誰も殺されたくなければ、何もしない事だ】と錆の匂いがする、真っ赤な文字で書き殴られていた。


「その後、当然の事ながら22人の騎士が何処で何をしていたか宰相の権限を持って調べあげたのですが、出発前日のみがまるで其処から切り取られたかのように白紙だったのです。更に直属の護衛騎士から聞いた話に因れば私以外、誰一人として執務室に足を踏み入れた者はいないとの事で誰がこの手紙を持ってきたかすら分かりません」

「それじゃ結局、他の街についての事は全く分からないと……でも其れと俺の身に危険が迫ってる事と何の関係が?」

「手紙に書かれている、この場で唯一私が敬っている存在は神子様以外おりません。今の原因究明に動いていたことが手紙を書いた者達にとって余計な真似だったかどうかはわかりませんが、城での訓練開始の時点で神子様に対する批判的な事が騎士達、冒険者達の間で飛び交っています」


訓練開始時からなら批判的になっていたのなら手紙の内容とは無関係って事だろうけど……。


「更には先程の会議でも少々話題に上がったのですが、神子様が帝国の内通者ではないかとの疑惑も掛けられています。冒険者でありながら訓練場に姿を見せない、冒険者でありながら城壁の上という比較的安全な場所に配置されるという意味不明な物もありますが」

「そういえば、医療テントから此処ギルドに来るまでの間に冒険者や騎士達から殺気立った視線で睨み付けられましたけど、アレは俺が裏切り者だと思っているという事ですか?」

「そのような事が…………噂話に踊らされる愚かな者達です。或いは現状が追い打ちをかけて噂話を現実化させているのか。どちらにしろ碌な物ではありませんが」


魔法騎士隊は常に一緒に居たからか、医療テントでもそういう仕草は見当たらなかった。


「終いには重傷者が医療テントに運び込まれ、治療の甲斐なく命を落とした者も神子様が態と治療魔法の手を抜いて見殺していたのではと考えている者もいるようなのです。先の会議の中でもギルドに集まる際に貴方様の処分をと訴えてきたのも少なからず居ましたから。馬鹿な事を言うなと一蹴しましたが」

「じゃあ、俺は一刻も早く此処を離れた方が良いんですか?」

「いえ、今何の理由もなしに街から離れてしまうと、やっぱり裏切り者だったと今より更に酷くなってしまいます。神子様には大変申し訳なく思いますが、何らかの事が起こるまではギルドの依頼などで街から離れたりしないようお願い致します」

「何等かの事象が起こった後って……その時になったら、此処から遠い別の街に逃げろという事ですか?」

「恐らくは今頃、別の街でも着々と陥れる準備をしていると思います。その為、神子様には此処から遠く北の果てにある聖域へと避難して頂きます。普段は決して人が立ち入ることが出来ない地なのですが、風の精霊様と御契約された神子様ならば可能かと。そしてその時には以前お渡ししたカードを肌身離さずにお持ちください」


前に貰ったカード……執務室で貰った緑色のエルフ言語で書かれていた、あの魔力が込められているカードのことか。


「あれは聖域内へと神子様を導くための物です。決してなくしたり、人に渡したりなさらない様に」


クレイグさんは最後にそれだけを言い残すと俺に深々と頭を下げて部屋を出て行った。


《風の精霊との契約が聖域に行くための鍵になるって……フィーはどういう事か分かる?》


俺は心の中に居る風の精霊フィーにクレイグさんが言っていた事を聞いてみた。


《彼の地の手前までならば人の足で40日くらいで行き着くことが出来ますが、其処から先に進むには空を飛ぶ以外に方法はありません。私自身である風の精霊と契約せし者は訓練次第で宙を自在に移動することが出来ます。恐らく彼は其の事を知っていて、マスターに言っているのでしょう》

《空を飛ばないと行けない場所か。地に足を付けて生きてきた俺にとっては想像も出来ないな》

《彼が言っていた時期がいつ訪れるか分かりません。まずは少しずつ、同化して宙に浮かぶ訓練をしていきましょう》


その後、ギルドの建物から外に出た俺が見たものは数人の冒険者に俺の事で問い詰められているジェレミアさんの姿だった。


彼等曰く、俺だけが見張りの任にも就かず、医療テントやギルドといった屋根のある場所で休憩している事が特別扱いされているようで気に食わないらしい。


その中には共に城壁の上で戦っていた弓騎士や魔法騎士の姿も見受けられる。


魔法騎士副隊長のサミュエスさんやシュナイアさん、弓騎士隊長のジェイドさんの姿がなかった事に密かに安堵していたが。


先程のクレイグさんの話ではないけど、誰かが俺を悪者扱いにして皆を扇動しているのは間違いないようだ。


それとも負け戦状態で気が滅入り、誰かに責任転嫁しないとやっていけないと感じているのか……。

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