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第80話 恨み

テント越しに聞こえてきた、交代時間を忘れてレギオンと魔術師に関する噂話に夢中になっていた男二人が強制的に老騎士に連れて行かれて約30分近くが経過したころ、その2人を連れて行ったとみられる老騎士が、今度は冒険者風の男達を連れて医療テントにやって来た。


連れられている男2人は何れも俺と体格はそう変わらないが、老騎士は身長が190cm近くもあり、口元には立派な白い髭を蓄えていて、背中には槍と思われる物の先端部が見え隠れしている。


「性根を叩き直すのに夢中になって怪我人を出してしもうた。治療で忙殺されているところを申し訳ないが、この2人も診てやってほしい」


そう言う老騎士の左側に居る男は既に意識がないのか文字通り、小脇に抱えられている。


一方、右側に居る男の方は血が滲んでいる腹部を右手で押さえながら、何故か今から治療に当たろうとしている魔術師を視線で殺せるのではないかというような殺気立った目で睨み付けている。


「ガルバルトさん、また(・・)ですか? 前々から言ってますように、少しは手加減という物をおぼえてくださいよ」


抱えられていた2人は其々、魔術師によって診察台に寝かされ治療が開始され、連れてきた老騎士本人は医療部隊のリーダーに小言を貰っていた。

身長160cmくらいの痩せた魔術師に叱られる、身長190cmで筋骨隆々の老騎士というのは、見ていてどうも違和感を感じる。


「いやはや、申し訳ない。頭では分かっているつもりなのだが、いざ訓練となると力加減が難しくてのぉ」

「このままだと最悪の場合、訓練に参加する事さえ難しくなるかもしれませんよ?」

「面目ない……この事は内密に頼む。特にクレイグ殿には」

「どうしましょうかね~~~」


叱られて段々と凹んでいく老騎士に視線を合わせていると、テント越しに聞こえてきたのと同一と思われる声が俺の居る場所の正面から聞こえてきた。


「……離せ、馬鹿野郎!」


其処には腹部の治療が終了したのか、診察台に腰かけた状態で治療に当たっていた魔術師を突き飛ばしている男の姿が見受けられた。


「なにをするんですか!? それが怪我を治療してくれた人に対する態度ですか!」

「うるせえな。俺がいつ治療を頼んだんだよ、てめえ等が勝手にやった事だろ」


男は其れだけを言うと診察台から飛び降りつつ、突き飛ばされた魔術師の襟元を掴んで締め上げていく。


「き、貴様、自分が一体何をしているか分かっておるのか!」


咄嗟の事で判断が追いつかなかったのか老騎士は2、3秒ほど固まっていたが、直ぐに行動を開始して件の冒険者風の男を後ろから羽交い絞めにする。


が、男は羽交い絞めにされた状態であるのも拘らず、魔術師の襟元から手を離す事はしなかった。


「レギオンを倒すことが出来るっていう魔術師はテメエか? それとも其処らで治療してる奴か!」


見ると、もうひとり連れてこられた男を治療し終えた魔術師がオロオロしながら目を泳がせていた。


他にもテント内には重傷者を治療している魔術師が2人いるのだが、余裕がないのか男の方に目を合わすことなく怪我の治療に集中している。

というか、見て見ぬふりをしていると言った方が正しいのかな?


俺が座っている場所に視線を向けなかった事から、どうやら俺の事を魔術師だとは思わなかったらしい。


この場合の『レギオンを倒すことが出来る魔術師』というのが俺の事なのだが、この事はクレイグさん曰く最重要機密扱いとして一般の冒険者や騎士、魔術師には秘密とされている。


唯一知っているメンバーは今現在、ギルドの建物内で会議の真っ最中だ。


「ちょっと落ち着いてください。彼から手を離しなさい」

「てめえら魔術師がさっさとレギオンを始末していれば、俺の兄貴は死なずに済んだんだよ。他にも俺と一緒に戦ってきたパーティーメンバーが2人犠牲になった。なら、てめえらの誰かが責任とって俺に殺されるのが筋ってもんだろうが!」


段々と言っている事が支離滅裂となっていく……終いには兄貴の代わりにお前を殺すとまで言っている。


その後、このままでは埒があかないと判断した老騎士によって、男は当て身を喰らわされて意識を失ったところで、外にいた騎士に魔術師が応援を要請して男を拘束することとなった。


間接的に原因を作ってしまった老騎士もいつのまにやら姿を消していた。


因みに意識不明状態で運ばれてきた男は身体に数か所の打ち身はあったものの、特に怪我らしい怪我はしておらず、約一時間後に目が醒めてテントから自分の足で出

て行った。


「クロウさん、そろそろ起きて……って既に目を醒ましてますね」

「あんな騒ぎの中で悠々と寝てられるほど、神経が図太くないですから」

「ケホケホッ……起きてたんなら助けてくださいよ。本当に殺されるかと思いましたよ」

「あの場で俺も魔術師だと名乗ってしまうと、色々と面倒くさい事になってしまうんじゃないかと思いましたんで、寝たふりを貫かせて頂きました。申し訳ないです」

「全くもぅ。でも言われてみれば、その通りなんですよね」


その後、この混乱から2時間近くが経過したころにはテントに運ばれてきていた重症者3人の治療が終わり、次に軽傷者の治療に当たろうかというところで新たな人物が医療テントに姿を現した。


「邪魔するぞ。此処にクロウが居ると聞いてきたのだが…………いるじゃないか」

「あれ? ジェレミアさん、どうしたんですか? 会議中だったのでは?」


現れたのはギルドマスターにして、Sランク冒険者のジェレミアさんだった。

確か、各騎士隊幹部と一緒にギルド内で会議をしている真っ最中だと聞いていたのだけど。


「会議は今しがた終了した。今後の展開についてクロウに話したい事があるのだが、悪いが一緒に来てくれるか?」

「でも、まだ治療の仕事が残っているんですけど」

「大丈夫だ。サミュエス殿とクレイグ様にクロウを連れ出す許可を取ってある。お前は黙って私に付いて来ればいい」


ジェレミアさんはそう言うと俺を連れて医療テントを後にする。


俺はテントに残っている他の魔術師に軽く頭を下げて其の場を後にすると、ジェレミアさんに連れられるままにギルドの入口に着いたところで、涙目になりながら両手で頭を押さえるディアスとエティエンヌが目に入った。


よく見てみると、ディアスの左頬には真っ赤な手形もついている。


「あの2人は如何したんです?」

「ああ、奴等は誰も此処を通すなと言っておいたにも拘らず、男2人を通したばかりか入口で眠りこけていたんでな。罰を与えただけだ」

「はぁ……ま、何時もの事か」


いらない事をして2人が怒られているのは今に始まった事ではないので、俺は何事もなかったかのようにジェレミアさんとともにギルド内へと足を踏み入れたのだが、其処には俺とジェレミアさん以外人影は見当たらなかった。


「えっと、他の冒険者は居ないんですか?」

「クロウに用があるのはクレイグ様だ。私はクレイグ様に言われてクロウを呼びに来たにすぎない」

「ク、クレイグ様が、お、俺に用が!?」

「奥の部屋で御待ちだ。私は呼ばれてないので、此処で誰も来ない様に見張りをするだけだ」


もしかしなくてもレギオンに関する事だよな。

さっきの男じゃないけど、どんな責任を追及されることになるのか……。


逃げ道はジェレミアさんによって塞がれてしまっているので、深呼吸して気分を落ち着かせてからクレイグさんが待つというギルド奥の個室に恐る恐る足を進めるのだった。






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