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第78話 レギオン出現

街への魔物襲撃から3日目。


この頃になると戦っている冒険者や騎士隊にも疲労の色が見え隠れしていた。


倒しても倒してもタイミングを見計らうかのようにして鳴らされる鐘の音でゾンビとして復活してくる魔物たちに、魔物によって殺された味方兵がゾンビとして逆に襲い掛かってくる現状、誰もがまったく見覚えのない変異種の魔物に、普段は考えのないままに襲い掛かってくる魔物があたかも知能がある人間のように、周囲と協力して襲い掛かってくる事。


街中でゾンビとして復活してしまった兵士は他には目もくれずに、一目散に城へと襲い掛かって行ったが、城門付近に配置されていた近衛騎士数人によって一刀のもとに切り捨てられていた。


「幾ら倒してもキリがない。一体どうなっているんだ……」

「この何処かに屍人使い(ネクロマンサー)が居るはずだ。それを始末できさえすれば」

「だが鐘の音が鳴らされる度に死んだ者が蘇る事を考えると、屍人使いは居ないんじゃないのか?」


倒しても倒しても次から次へと襲い掛かってくる魔物の圧倒的な数に、俺のまわりに居る弓騎士隊からも弱音の発言が飛び出してくる。


街の門付近に近づいてくる魔物に対して撃っていた矢も残り少なくなってきている。

一部の衛兵によって隙を見て魔物に命中せずに地面に散らばっている矢を回収して貰ってはいるが、焼け石に水というところか打ち出す矢が圧倒的に多いのであまり役にはたっていない。


戦闘が長引くという事は、その分怪我人も多く出るという事で次から次へと街の中の医療テントに人が運ばれてゆく。

治す見込みがなく手遅れと思われる者に対しては、ゾンビになってしまう事を恐れて街の外で放置されている現状だ。 


一見して非情と思える行動だが、戦う術をもたない一般市民を守るためには致し方ない事なのだろうか。


「なぁアンタ、ちょっと俺に回復魔法をかけてくれねえか?」


そう言ってくるのは俺のすぐ近くで矢を撃っている弓騎士の男だ。


「でも見たところ、怪我をしているようには見えませんが? 身体疲労は残念ながら魔法で回復させることは出来ませんよ」

「そんな事、やって見なけりゃ分らねえだろう? なぁ頼むよ……」


そんな城壁の上を匍匐前進するかのようにして地面に這い蹲り、俺に回復魔法をかける様にと縋り付く弓騎士に対して、俺を挟んで反対側に立つ弓騎士の女性が男を叱咤する。


「おい、何をやってる。配置に戻れ!」

「うるせえんだよ! ほんの少し先に騎士隊に入ったからって先輩面しやがって、テメエに俺の何が分るっていうんだ」

「なんだと!? 貴様……」


此れだけではなく、戦場では騎士隊と冒険者達の間でも魔物をまえにして下らない事で小競り合いが繰り広げられている。


「おい、お前ら魔物の足止めをしてこい」

「なんでアンタなんかに俺達が命令されなきゃならねえんだよ」

「そうだそうだ、騎士だからって俺達に命令するな」


そう言い合いしている間に魔物に体当たりされて可也の距離を吹き飛ばされる冒険者と騎士だったが、吹き飛ばされた先でもまた『お前がトロトロしているからだ』とか『アンタのデカい身体の所為で敵が見えなかった』などと魔物そっちのけで口喧嘩を始めている始末だ。


戦場で共に協力して戦っている間に仲が深まっていく物だと思っていたんだけど、必ずしもそうだとは言いきれないようだな。


連携できずに単独で魔物と相対し打ち負ける人間側と、スピードや体格差を利用して適材適所の連携をしながら人間を次々と打ち倒している魔物側。

本来見習わなければならない行動をしているのが魔物とは、なんという皮肉な事か……。


更にそれから数時間後、追い打ちをかける様にして巨大な物が出現しようとしていた。

まるで上空から何かが降りて来るかのごとく、黒い影が少しずつ地表に広がってゆく。


影が広がり始めて約5分ほどで長さ10m、幅10mの黒い四角形の影が出現する。


影の上に他の魔物が侵入してもなんともない事から落とし穴という訳ではなさそうだが……そう思っていると黒い影が今度は縦に空に向かってドンドンと伸びていき、先程と同じく約5分ほどで城壁の上に立っている俺の目線辺りにまで高くなった。


「あれは一体なんだ?」

「魔物の魔法か? それともこれが帝国の攻撃だとでもいうのか」


近くに立っている先程まで言い争っていた弓騎士の男女も見覚えが無いらしく、手も口も止めて黒い影を見入っている。


「な、何をしているんだ! 攻撃しろ。冷静に考えても私達に見覚えが無い物なら、此方に害を為す物に決まっているだろう」


サミュエスさんはそう言いながら風の魔法【ウィンド】を黑い塊に向かって放つが、影の中に吸い込まれるだけで全く効果は見受けられなかった。


彼女の号令が効いたのか、先程まで放心していた弓騎士がありったけの矢を放ち、魔法騎士隊から様々な属性の魔法が影に向かって打ち出され、直接攻撃部隊が手持ちの武器で攻撃するが、そのどれもが全く効果を齎さなかった。


黒い塊は此方をあざ笑っているかのように少しずつ姿を変えて行き、10分ほどで黑いスライム状の物へとその姿を変化させた。


「なんじゃありゃ……黒いスライム?」

「あ、あれは!?」

「そ、そんな、また悪夢が」


姿が黒いスライムに変化した途端、騎士隊や衛兵、一部の冒険者達に怯えているかのような表情が見て取れる。


中には手に持っている剣や斧といった、戦うための武器をその場に投げ捨てて街の中へと逃げ帰る者が数多くみられる。


《マ、マスター、あれが闇の召喚獣レギオンです。私でもあれほどの大きさの物は見た事がありません》

《あれがそうか。なら事前に決めてあった通り【シャイニング】で倒してしまえば良いんじゃないのか?》

《それはそうなのですが、あれだけの過去に類を見ない大きさのレギオンです。其の体内に何千、何万の魔物を抱えているか……魔物の大群やゾンビに襲われている中で解放した場合、下手をしたら全滅してしまいます》

《でも如何する? 【シャイニング】以外の魔法は通用せず、物理攻撃も効果がないばかりか、レギオンに抱えている魔物の力を利用して攻撃してくるんだろ? レギオンを倒しても全滅、倒さなくても全滅するんじゃないのか》

《それはそうなんですが……はっ!? マスター伏せてください!》


無の精霊エストの慌てている声が聞こえた直後、肩の痛みで翻筋斗打もんどりうって倒れこみながら宙を見ると、俺が立っている状態で肩があった場所には黒い錐状の物が伸びており、街を取り囲む魔物避けの結界によって弾かれていた。


俺の両肩は金属製の防具によって守られているのだが、まるで紙の装甲かの様に難なく貫かれてしまった。


自身の肩を【ヒール】で手当てしながら周りの様子を見てみると、少し離れた場所に居るサミュエスさんやシュナイアさん、ジェイドさん等は咄嗟に身を翻したのか、怪我をした様子もなく俺と同じように地に伏せているが、先程まで言い争っていた男女の弓騎士は頭部の中央を貫かれていて、刺し貫かれた穴から血を流しながら身体をビクッビクッと痙攣させている。


《エスト助かったよ。ありがとう》

《いえ、当然の事をしたまでですので御気に為さらないでください》


エストの顔が目の前にあったら恐らくドヤ顔してるだろうなと思いながら、恐る恐る城壁の窪みからレギオンの様子を見てみると、まるでウニを模しているかのように無数の黒い錐を伸ばして冒険者や騎士隊を刺し貫ぬいていた。さらには味方である筈の魔物にも同様に刺さっている。


そしてその数秒後、新たな動きがあった。


黒い錐によって身体を刺しぬかれた魔物や、その攻撃が致命傷となり亡くなった者達が黒い錐に引っ張られるような形でレギオンの身体の中に取り込まれてしまったのだ。


身体の一部分を刺されただけの者は安堵の表情を浮かべていたが、その直後2回目の攻撃が始まった。


「生き残った者達は直ちに街の中へ避難しろ! 負傷した者に肩を貸してやれとは言わん。自身が生き残る事を最前提で考えろ」


街の門の上で伏せているシュナイアさんが大きな声でそう発言すると、雪崩れ込むようにして多くの冒険者や騎士達が我先にと門に殺到するが、そうしている間にも黒い錐状の物は次から次へと犠牲者を生んでいく。


「て、てめえら、俺の為に道を空けやがれ!」

「おい前の奴、さっさと街に入れや」


城門の上で難を逃れた弓騎士や魔法騎士隊たちも塔の階段を使うという、まどろっこしい事はせずに骨折覚悟で城壁の上から飛び降りている。


もちろん階段の近くにいる者達は普通に下りているが。


街の外では身動きが出来ないのか、必死に助けを求めている声が聞こえるものの誰一人として外に戻ろうとしている者はいなかった。

それから時間が経ち、レギオンの攻撃が数回、数十回と繰り広げられたところで急に外が静かになった。


「レギオンも魔物の姿も何処にも見当たらないぞ。俺達は助かったんだ!」

「やっと……やっと終わったんだ」


街の門の近くに立っていた騎士の男がそう発言した途端、周囲は歓声に沸いた。

生き残った事で散々喧嘩していた相手と抱き着く者。

緊張の糸が切れて気絶してしまう者。


緊急事態だったとはいえ、助けを求めている仲間を見捨てた事を後悔する者など様々だ。

しかしそれ以上に魔物の襲撃によって出された損害は思った以上に深刻な物となっていた。


もし此処で肝心の帝国が攻撃を仕掛けてきたとしたら、俺達は生き残る事が出来るのだろうか……。

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