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第76話 襲撃

敵が攻めてきた時の配置を決めていた俺達だったが、其処に街の周囲を埋め尽くさんばかりの魔物の大群が押し寄せてきたのだった。


逸早くそれに気づいたのは塔の上でバリスタの組み立てを行っていた弓騎士だったのだが、彼は上空から飛来した何者かの手によって身体を貫かれ地表に向けて落下している。


「上空に魔物の大群を確認!」


その声に釣られて上空を見ると、其処には蜂に良く似た魔物の大群が見えた。


まだ遠いのでハッキリとは見えないが、俺の知っている蜂と比べて格段に体格が違う。


「何をぼさっとしている。さっさと配置に就け!」


そんな冷静に物事を考えている余裕はなかった。

誰かの号令で街に下り始めていた魔法騎士、弓騎士は即座に配置につき、上空の敵を優先的に撃ち落していき、街の門からも冒険者や騎士隊等が出て襲って来た魔物を蹴散らしてゆく。


城の近くに居た近衛騎士達も異変に気づき城内へと応援要請を発令したのち、次々と武器を手に飛び出してくる。


跳ね橋付近にいつか玉座で見た赤い髪の女性が白い全身鎧を着て、槍を片手に飛び出そうとしていたが其れに逸早く気付いた近衛騎士によって止められていた。


俺も先ほどの配置について覚えたばかりで命中率のあまり良くない、第五段階の魔法を駆使して上空の魔物を次々と撃ち落していくが、一向に数が減っているようには見えない。


魔物の量が多すぎるので魔法を何処に撃っても当たるが、たまに外れてしまう時には、地表付近に待機している別の魔術師の魔法によって相殺される。


仮に【ファイアーボール】が狙いを外れて街の中にでも落ちてしまうと、大惨事になってしまうためだ。

街には城壁の内側に魔物避けの結界が張られているが、魔法に対しての防御力はゼロに等しいため、撃ち漏らしは絶対に許されない。


「街全体には結界が張られているが、これだけの量だ何処まで持つか分からん! 皆、一匹たりとも街に近づけさせない様、死ぬ気で迎撃しろ!」


その途中、一人の弓騎士が唯一防具で守られていない顔の部分を蜂モドキに刺され地面に倒れた。


が、次の瞬間その弓騎士は仲間の手によって街の外へと放り捨てられたのだった。

放り捨てられた後で『バシャーン』という水音が聞こえてくることから、恐らくは街の周囲を取り囲む水の中へと放り込まれたんだろう。


「あいつら何を!?」

《マスター、あれはクインビーなので彼等の行動は間違っていません》

《クインビー?》

《奴等は人間の身体に卵を産み付けて繁殖します。卵を産み付けられた人間が誤って街の中に落ちてしまうと、其処からクインビーの幼生が異常発生し次々と仲間を増やしていってしまいます。街を取り囲む結界は外から内へと入ろうとする魔物を排除するもの。一旦、内へと入ってしまった魔物には結界が作動しません》


その後も城壁の上を走り回っている衛士数人が、魔法や矢を避けて飛来してきたクインビーに刺されて地に倒れる度に、周囲にいる手の空いた仲間の衛士によって街の外にある水の中へと投げ込まれてゆく。


中には『俺は卵を産み付けられてなどいない!』と言う衛士の姿も見受けられたが、有無を言わさずに街の外へと放り投げられていった。


「街を護るためとはいえ、仲間を見捨てるというのはどうもな」


その光景を見た俺が独り言のようにボソッと呟いた言葉に、俺の横で手持ちの矢を全て放ってしまった弓騎士が頭上を注意しながら返答してきた。


「荒っぽい様に見えるが、クインビーの弱点は水だから仕方がないんだ。前に地方の貴族がクインビーに刺されたとか言って、金に糸目を付けずにその街一番の治療師を屋敷に呼んで治療に当たったまでは良いんだが、治療も虚しく貴族とその家族、それに治療師は死亡。後日、たまたま用事を言いつけられて街を離れていた家政婦が戻ってくると屋敷内から返事が無い事を不審に思い、窓から室内を覗いたところ其処には夥しいほどのクインビーの幼生体が飛び回っていたそうだ」


と此処で衛士が追加の矢を持って来たところで彼は攻撃に戻った。


その後、戦闘開始から4時間近くが経過したところで漸く、数が減ってきた事が目に見えて分かってきたところでサミュエスさんの号令のもと、上空の敵は他の魔法騎士と弓騎士に任せて南門近くに居る俺とサミュエスさん、シュナイアさんの3人と一部の弓騎士は地表の敵を相手にする為に体の向きを180度回転させる。


身体を回転させて見たものは多種多様な魔物の姿だった。


ジェレミアさん達と行った遺跡でみたようなスケルトンやデュラハン、ウルフ種やオークなどが冒険者や騎士達の手によって次々と倒されてゆく一方、街から遠く離れた丘の上には此方を襲ってくる様子も無く、じっと構えている巨体の魔物たちが此方を睨み付けている。


そして眼下で直接魔物たちと剣や槍で戦っている冒険者や騎士達があと少しで襲撃してきたウルフやスケルトンを全滅に追い込もうとしたところで、遂に街を取り囲んでいた高ランクの魔物達が行動を開始した。


低ランクの魔物とはいえ、今の今まで戦っていた者達は可也疲労している。


其処に止めとばかりに強力な魔物に向かって来られたのでは堪ったものではない。

街の上空を埋め尽くさんばかりに襲ってきていたクインビーの大群は日没間際で全滅に追い込んだのだが、迎撃に当たっていた弓騎士や魔術師にも疲れが見て取れる。


そんな彼等が進軍を開始する強力な魔物を見た時、膝から崩れ落ちてしまう者が数多く見られた。


「そ、そんな……Sクラスの魔物があんなに沢山」

「一体どういうことだ、ギ、ギガントゲルまでいるぞ!?」


崩れ落ちている弓騎士の視線を追って魔物の大群へと視線を向けると、そこには赤、青、緑、黄色というカラフルな巨大スライムが倒されて息絶えた他の魔物を体内に取り込みながら、ゆっくりと此方に近づいてきている姿が見受けられた。


「ギガントゲル?」

《ギガントゲルとは人間ほどの背丈がある巨大なスライムの事です。一般のスライムと比べて驚異的なのは大きさだけではなく、その個々についている色にあります。それにしても不思議ですね。ギガントゲルは此処よりもっと、北にしか出現しない筈なんですが》


確かに、人や魔物の流した血をスライムの核が吸い込んで誕生した赤いブラッドスライム、水を吸い込んだ普通の青いスライムなどは知っているが、黄色や緑色のスライムなんてものは聞いたことが無い。


何時でも魔法で迎撃できる態勢を整えながら進行してくる魔物に注意していると、赤いギガントゲルの身体から不意に【ファイアーボール】が打ち出された。


【ファイアーボール】はウルフとの戦いに気を取られて、余所見をしている騎士に直撃するかと思われたが、運良く(?)襲い掛かってきたウルフに直撃し、その身を骨も残さず焼き尽くしたのだった。


《スライムが魔法を? しかも、かなりの威力だ》

《赤いギガントゲルは【ファイア】を、青いギガントゲルは【ブリーズ】を、というようにその色は其々の属性を表しています。魔術師であれば反対属性の魔法をぶつける事で倒すことが出来るのですが、魔法を使えない者にとっては驚異的な魔物です》


そうこう言っている間に魔物の姿が目でハッキリと見えるところにまで近づいてきたところで、魔術師隊は一斉に魔法を放った。


弓騎士隊は距離的に矢が届かず、直接攻撃する騎士隊や冒険者達も街を守らねばならないため、街から遠く離れる事はできない。


その為、遠距離に居る魔物には巻き添え(フレンドリーファイア)を防ぐためにも魔術師隊の攻撃が効果的なのだが、その攻撃は前面に立っているギガントゲルによって全て妨げられている。


しかも【ファイア】を吸い込んだ赤いギガントゲルが、逆に身体から【ファイアーボール】を打ち出してくる事で、それを味方に当たる前に相殺しなければならないために中々前に進めないでいた。


そして日が完全に落ちて辺りが真っ暗闇に包まれたところでSランク相当の魔物と直接攻撃する部隊との戦闘が開始されるのだった。


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