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第75話 防衛戦の配置

訓練9日目。


今日は昨日の訓練時の帰り際に言われた通り、宿から街の入口に直行する。


自分的には少し時間が早いかと思っていたのだが、其処には既にサミュエスさんとシュナイアさんと初めて見る男1人の計3人が銀色の軽鎧を身に着けて、綺麗に整列している20人ほどの魔法騎士隊と、同じく40人ほどの弓騎士隊を連れて壁に寄りかかって談笑している。


街の門の近くにあるギルドの入口付近にはジェレミアさんが冒険者一人一人の点呼を取っている。


「すいません。少し遅れてしまいました」


俺はギルド側か魔法騎士隊側か迷ったものの、サミュエスさんから此処に来るように言われていたので魔法騎士隊側へと歩み寄った。


「いや、まだ集合時間までは時間があるから気にしなくてもいい」

「というか、時間をちゃんと伝えたのか? サミュエスは昔から何処か抜けている奴だったからな」


そう言うのはサミュエスさん達と談笑していた中の、唯一の男性だ。

背中に背丈よりも大きな弓を抱えている事から、弓騎士隊の関係者だと思われるが。


「そういえば言ってなかったかも……」

「自分も聞いてませんね。ただ明日の朝、訓練前に此処に来るようにとしか聞いてません」

「ほら見ろ。相変わらず抜けてんな」

「あうううぅぅ……」


追いつめられて今にも泣きそうな表情をしているサミュエスさんをシュナイアさんが背伸びをして慰めている。

こういうのを見ていると寄ってたかって弱い者いじめをしているような気がして来た。


「と、ところで此方の方は誰なんですか?」

「そういえば、顔合わせは初めてだったな。俺は弓騎士隊隊長ジェイドだ。よろしくな」

「俺はギルド所属の魔術師クロウです。初めまして、よろしくお願いします」

「ああ、知ってるよ。訓練初日に見習い馬鹿5人衆に難癖付けられたんだろ? 騎士隊の間で噂話になってたぜ」

「お恥ずかしいところをお見せしました……」

「いやいや、責めているわけじゃないよ。逆に感心してるのさ。大抵の奴は貴族に上手く取り入ろうとして、言われるままになってしまうのが殆どだ。あいつ等は愚かにも間違いに気づいてないようだし」

「間違いですか?」

「あの5人は子爵を名乗ってはいるが、実際にはただの貴族でしかない。本当に子爵という位に就くとしたら、親が死ななくては爵位が継承されないからな。まぁ現状からすると実際に奴等の一人が爵位を継承した時点で家が潰える結果になると俺は思うから、どちらにしろ役に立たないボンボンだという事だな」


幾ら『俺は子爵だから偉いんだ』と言っても実際に偉いのは当主である父親であって、その子供ではないという事か。


っと談話をしていたところで城から青い全身鎧を身に纏った近衛騎士2人と宰相であるクレイグさんが現れた事で、今の今まで駄弁っていたサミュエスさん、シュナイアさん、ジェイドさんの3人は他の騎士達と同様に姿勢を整えて胸の前で敬礼する。


ギルドの前で冒険者達と共に騒いでいた他の騎士達も腕を胸の高さまで上げて敬礼し、ジェレミアさんが指揮する冒険者達も同様に敬礼はしないものの姿勢を整えて直立不動になっている。


俺も見よう見まねで直立不動の姿勢になったところで、クレイグさんの傍についている近衛騎士の1人が手で休めの合図をだした。

休めという指示を出されたからと言って、だらけたような態度を見せる者は誰一人としていないが。


「日々の訓練の最中、態々呼びだしてしまった事には訳がある。2日後に迫った帝国グランジェリドに備えて昨日、国境へと前線部隊が出発した。が、帝国の事だ。如何なる手を使って攻めて来るかも分らん。そこで此処に集まった皆には街を城を守るべく定位置に就いてもらう」


クレイグさんは簡単に、それでいて的確に言葉にすると傍に控えていた2人の近衛騎士が各騎士隊を指揮する一人一人に指示書だと思われる羊皮紙を手渡してゆく。


「中でも魔法騎士隊の役割は大事だ。注意して無理せず作業を行うように」


クレイグさんはそう言うと現場指揮として連れて来ていた近衛騎士2人をその場に残して城へと戻って行った。

そして近衛騎士と各騎士隊トップの号令のもと、指示書の通りに各々が配置に就くように動き出す。


俺も魔法騎士隊に渡された指示書をサミュエスさんの肩越しに覗き込んだところ、其処にはこう書かれていた。


『城壁の上で弓騎士隊とともに地表の敵を倒す』

『敵が放つ魔法弾が街へと飛来する前に魔法で相殺する』

『戦いで負傷した兵の傷を回復魔法で治療する』


ただでさえ他の騎士隊と比べて人数が少ない魔法騎士隊を更に分断させるなんて、と心の中で思っているとサミュエスさんとシュナイアさんがテキパキと他の騎士に指示を与えていた。


「まずは城壁の上で敵や魔法を迎撃する人員ですが私とシュナイア、それにクロウさんと……」


と同じ訓練をこの数日間共に行ってきたメンバーにプラスして聞き覚えのない名前が後10人ほど呼ばれ、残った4、5人を治療部隊として他の騎士隊に預けた。


そして俺は他の魔法騎士や弓騎士隊とともに城壁の上に上がるべく、街全体を取り囲む壁の角に位置する、六ケ所の塔の1つへと足を進める。


どうやら塔の地表部には隠し扉があり、内部には城壁の上へと繋がる螺旋階段、並びに街全体に魔物を寄せ付けなくするための結界の発生装置が取り付けられているとの事だ。


その為、城壁の上を護る兵士の役割はかなり大きいものと言えるらしい。

いざ城壁の上に上がると、其処には既に何人もの衛士達が補充用の弓矢や投石用の石などを所々に配置するために走り回っていた。


「では城壁に於いての配置ですが、シュナイアは南門の真上に私とクロウさんはその左右に。貴方と貴方は西方の壁に……」


そう言って人員が割り振られていき、俺達が実際にそれぞれの配置に就くと次に弓騎士隊隊長のジェイドさんの指揮の元、魔法騎士一人一人の間に入るようにして一人または二人配置されてゆく。


俺とシュナイアさんの間には男女一人ずつが入り、シュナイアさんとサミュエスさんの間には女性が2人配置についた。と言っても、一人一人の間は50m近く離れているが。


周囲を急がしそうに走り回っていた衛士も各弓騎士から指示を受けて、使い易い様に予備の矢を床に並べてゆく。

更に俺達が昇ってきた塔の上には巨大弓バリスタ投石器カタパルトが其々の方向に向けて組み立てられていた。

これ等の操作も弓騎士隊が担当するようだ。


城壁の上から街の外を見てみると其処には敵と直接相手をする剣や斧、槍などを使う騎士隊と冒険者たちが近衛騎士隊の指示のもと、それぞれの配置に散らばってゆく。


中には騎士隊に文句を言っている冒険者が数多く見られるが、近衛騎士とともに配置を決めているジェレミアさんの肉体言語という鉄拳制裁を受けて、それまでの暴れっぷりが嘘だったかのように素直に応じている姿が見受けられた。


その後は誰が何処までの範囲を担当するか、数時間ごとの休憩の時間割、隣にいる弓騎士との連携などが話し合われ、全ての取り組みが終了したころには既に昼食時間が差し迫って来ていた。

街の門の外に出ていた人たちも続々と街の中へと戻りだしている丁度その頃、事態は急展開した。


俺が城壁から塔の陰に入った途端、未だ下準備をしていた衛士の一人が街の外から伸びてきた黒い錐状の物で頭部を貫かれ、引っ張られるようにして街の外へと落下したのだ。

当初、一体何が起こったのか分からなかったのだが、塔の上でバリスタを組み立てている弓騎士が街の外を見て放った一言で原因が究明した。


「敵襲ーーーー!! 街の外に夥しいほどの魔物の数……がぁ!?」


そう叫んだ弓騎士もまた、上空から飛来した何者かによって身体を貫かれ、街の外へと落下していったのだった。


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