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第5話 冒険者になるために

翌朝、リオーネから受けた診断の結果、身体の中から完全に瘴気が抜けきった事を教えられた俺は、この森の村を後にして此処から歩いて2日の距離にあるギルドがあるデリアレイグという町へ行く事となった。


ただ、この日を迎えるまで赤茶色の薬湯に始まり、濃緑の薬湯と続き、止めとばかりに真っ黒な泥のような液体(?)を身体に良いからと、まるで罰ゲームかの様に飲まされ続けたのだった。



俺が村を出ると決まった時、寂しそうな表情を見せたリオーネだったが、気分を一新して見送りに来てくれた。


「本当は町まで送ってあげたいのですが、私達森の民はこの場所を離れる事は許されていないので」

「いえ、そのお気持ちだけで嬉しいです。それにしても、何故そこまで俺の事を気に掛けてくれるんですか?」

「魔の森の瘴気に侵された人を見過ごせなかった。…………というのは建前でクロウさんの背格好が、私の弟に瓜二つだったので、ほっとけなかったんです。ただ流石に髪の色と目の色は異なりますが」

「その弟さん、今は何処に?」

「今から10年ほど前に『森から外に出てはいけない』という、村の掟を破って外に出た挙句に魔物に襲われて命を落としました」

「それは悪い事を聞いてしまった。すまない」

「いえ大丈夫です。私駄目ですね、今から外に出るクロウさんにこんな暗い話をするだなんて…………」


リオーネはそう口にすると、突然俺に背を向けて肩を震わせ始めた。

振り返る一瞬、眼のあたりに光るものが見えたことから、恐らくは弟さんの事を思い出して泣いているのだろう。 


聞いてはならない事を聞いてしまったと後悔しながらも、リオーネが泣き止むのを待つこと数分後『まだやっていたのか?』と呆れ顔をしながら村の奥から出てきた大婆様と、未だ顔に涙の痕があるリオーネに見送られながら森の集落を後にした。


更に魔獣が闊歩している荒野を丸腰で歩くのは自殺行為に等しいとの事で、村で使い古した薪割り用の斧も頂いた。ところどころに錆や罅割れがあるのが気になるところだが。

ついでとばかりに途中の食事代わりとして、森で取れる果物を数個と木の筒に入った水も頂いた。


此処までしてくれる事に対して何も返すことが出来ない事に申し訳なく思っていると、リオーネから『魔の森で瘴気を受けた者、もしくは亡くなった者を森の集落の民が世話する事は先祖代々受け継がれている事なので、気にしないでください』と言われてしまった。



その後、何度も森の集落が見えなくなるまで何回も振り返っては頭を下げるという行為を繰り返した俺はリオーネに教えられた道順を確認しながら進むのだった。


「え~と、リオーネに教えて貰った道によると、この周囲に広がる森を背にして半日ほど歩いて、森が完全に見えなくなるまで歩いた後、右手の方向に向かって1日半歩けば町に辿り着くらしいな」


この世界に到着した際に天使様に体力を大幅に上げてもらったことを思い出した俺は、歩いて町まで2日かかるのなら走れば1日で着くのではとないかと思い、走ることにした。


その結果、約2時間ほどで森が見えなくなるところまで来ることが出来たのだった。

しかも全速力で2時間走ったのにも拘らず、息切れ一つしていないというのは驚きだった。


「さて、リオーネから聞いた話では此処から右手の方向に1日半歩いたところにデリアレイグという町があるんだったな。何とか日が暮れる前に町に辿り着ければ、野宿しなくてすむな…………」


っと、ここで大事なことを思い出した。


俺はこの世界で使う事ができる金銭を1枚も持っていない。

如何にかして稼がないと、町についたところで野宿は避けられない。


「まぁ、それでも荒野の真ん中で野宿するより、町の中で野宿したほうが危険性はかなり下がるな。物盗りとかが居なければの話だけど」


俺は村を出発するときに手渡された果物の見た目は蜜柑、しかし味と食感は林檎、更に果肉は緑と紫のマーブル模様という違和感ありまくりな果物に恐る恐る噛り付きながら町があるという方向に、やや早足で歩き始めた。


歩き始めて1時間後、一番で出会いたくないものに出会ってしまった。


町に向かう事ばかりに集中していた所為か、近づいてくる魔物に全く気が付く事が出来なかった。

一体どこから現れたのか、其れは体長がゆうに4mはありそうな、頭に角が生えた狼に似た魔物だった。


「グルルルルルル」


口元から多量の涎が流れているところを見ると、俺の身体で腹ごしらえをする気なのだろう。

2本足で走る俺に対して、狼に似た魔物は前足と後ろ足の合わせて4本……逃げられる確率が低いと感じた俺は覚悟を決めて、森の集落を出る時に貰った斧を手に取ると、狼に向かって構える。


「グルルル」

「さあ来い! いや、出来れば来てほしくないんだけど……」


狼に似た魔獣は俺が手に持っている斧を見て少しは躊躇したものの、我が身の食欲に耐えきれなかったのか俺に向かって大口を開けて飛びかかってきた。


初めて動物を殺してしまうかもという葛藤に心を痛めながら意を決して村で貰った斧で殴りつけるも、斧は魔物の頭部にある角の根元に当たった瞬間に木で出来た柄を手元に残して粉々に砕けちった。


その拍子に狼の頭にある角も根元から圧し折れ、俺の足元に転がってくる。

武器は使い物にならなくなり、目の前には腹を空かせた魔獣、更には辺りを見回しても俺を助けてくれそうな人や、この隙に隠れてやり過ごせそうな物は唯の一つも見当たらない。


『もう駄目か』と目を瞑り、死を決意した俺だったが何故か何時までたっても魔獣からの攻撃は来なかった。

恐る恐る目を開けると其処には頭部に斧の一部が突き刺さり、白目を剥いて頭から夥しい量の血を流して倒れている気絶する狼の姿があった。


最初の斧での一撃で此方の武器が使えなくなったが、魔物を無事倒せた事に喜んでいが、未だ魔物の頭部から流れ続けている血の匂いで他の魔物が寄ってくる可能性もあった事から、無意識に魔物の折れた角を手に取ると、一目散に町のある方向へと駆け出した。


それから凡そ10時間後、森の村で貰った食料と水が底をつき、追い打ちをかけるかのように日が遥か地平線の彼方に沈み、辺りが暗闇に包まれた頃、漸くデリアレイグと思われる町に辿り着くことが出来た。


「や、やっと着いた」


俺は町の入口に見える松明の明かりで安心したのか、途端に身体に力が入らなくなり地面に膝を落とした。

その様子を町から訝しげに見ていた、鎧を纏った2人の男が声を掛けながら近づいてくる。


「お、おい、何があった!? しっかりしろ、おい君!」

「す、すいませんが、み、水を一杯…………」

「水だな! よし、少し待っていろ」


鎧の男は俺の声に頷くと、腰につけていた水筒を俺の口に近づけてくる。


「少しずつ飲めよ。一気に飲むなよ?」


水筒の中から流れ出る少し濁った水に、砂のようなザラっとした舌触りががあったものの、背に腹は変えられなかった。


「ゴクゴクゴクゴクッ………ゲホゲホ」

「だから言っただろ? 急いで飲んだら駄目だと」


やがて体調の戻った俺は鎧の男(町を守る衛兵らしい)に連れられて衛兵の待機場所とやらに案内された。


「それにしても旅をしてきたにしては、やけに軽装備だが一体何処から来たんだ?」


待機場所についた途端に中で待ち構えていた、周りの衛士たちが着ている鎧とは別の重厚なイメージのある鎧を着た初老の男性(後で聞いたところによると町の衛兵達を束ねる騎士らしい)が俺を睨み付けるかのような視線で問いかけてきた。


だが正直に『異世界から来ました』なんて言えるはずもないので、此処は誤魔化すことにした。


「此処から遠く離れた地から旅をしてきたのですが、途中にある荒野で魔物に襲われて命辛々《いのちからがら》逃げてきました」

「魔物に襲われたのか。それは災難だったな」


一応はなんとか誤魔化せたかな?

『遠く離れた地』というのは異世界の事だけど意味的にはそれほど間違ってはいないし、魔物に襲われたというのも本当だしな。


「最近では何かの予兆なのか、例年にも増して魔物の動きが活発でな。学者連中の中には魔王が復活したのではないかと騒ぎ出す輩もいるものでな」

「魔王って本当に居るんですか?」

「儂も子供のころに母からお伽噺で聞いたことがあるだけで、本当に居るのかどうかは皆目見当もつかぬ」


例え魔王が復活していたとしても、今の俺には関係ないか。


「ちなみに君を襲った魔物というのはどんな奴だった? 場合によってはギルドに依頼して討伐部隊を出さねばならぬのでな」

「あまり魔物に対して詳しくは無いので何とも言えませんが、特徴としては頭に大きな角が生えている、体長が大人2人分くらいの狼のような感じでした。それと参考になるかどうかは分かりませんが、手に持っていた斧で殴りつけた際に圧し折れた魔物の角です」


俺はそう言って服のポケットに仕舞ってあった角を取り出して見せた。


「う~む、さすがに角だけでは見当がつかぬな。これはギルドで調べて貰わねばならぬだろうな」


そう言って初老の男性は周りにいる衛士達に手で合図をすると、踵を返して建物の外へと歩き出した。

すると入れ替わるかのように最初に俺の心配をしてくれた衛兵が話しかけてきた。


「君はこれから如何するんだ?」

「暫くはこの町でギルドに冒険者登録をして、生活していこうと思います」

「そうか、ならば急いだ方が良いかもしれんな」

「? 何故です?」

「何故って、知らないのか? この町のギルドは夜間閉鎖される。しかも面倒な事にギルド職員の気分次第で、仕事のキリが良いところで閉鎖するからな。運が良ければ、まだ間に合うんじゃないか?」

「すいません。この町に来るのは初めてなんで、そういうところはよく分からないんですよ。でも有難う御座います、急いで行ってきます」


俺は其れだけの言葉を聞くと、此処までの世話をしてくれた衛兵達に深々と頭を下げて、ギルドの場所を教えてもらい、一目散に間にあう事を祈りながら走りだした。


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