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第70話 疑惑

訓練4日目。


昨日クレイグさんから内部に裏切り者が居る可能性があると聞かされた俺は、周囲にいる衛兵や騎士など、どれが味方でどれが敵なのか大分疑心暗鬼に陥っていた。


気にしていては始まらないと思うのだが皆が皆、俺を見ているような気がしてならない……。


更に城の入口から魔法騎士訓練所までの案内役も従来の一人から二人へと増やされた事も嫌な予感がしてならないし、案内される場所も此れまで訓練をしてきた場所とはまた違う場所へと案内されているようだし。


俺の心情を知ってか知らずか案内役の騎士は前と後ろに丁度俺を挟むようにして周囲を警戒しながら訓練所のある中庭を横目で見、城の裏手へと歩んでいく。


「俺をどこへ連れてゆくつもりですか? 今まで訓練をしていた場所は既に通り過ぎたようですが」


そう口にだして質問するも帰ってくる言葉は『あと少しですから』という短い言葉だけ。

俺は何かあっても直ぐに反撃できるように、腰に付けているの剣へと手を乗せていた。


「到着しました。此方へ」


と其の時、先頭を歩いていた騎士が立ち止まって、俺にこの先に行くように指示する。


其処は城の外へと出る裏口。しかも城の周りは底の見えない崖に囲まれていて、それを渡る跳ね橋は街から城の入口に繋がる一か所のみ。

しかも毎回跳ね橋を渡る際に、崖の下から呻き声のようなものが微かに聞こえてくる。


こいつら! もしかして……と考えながら、指示された通りに裏口から外に出ると、其処に待っていたのは腕組みをしているデュランドルさんと羊皮紙に何かを書き込んでいるサミュエスさんの2人と、離れた的に対して只管ひたすら魔法を打ち続けている魔法騎士達の姿だった。


俺を案内してきた騎士二人は裏口の扉を潜らずに城内へと戻って行ってしまった。


「おお、やっと来たか! 待ちくたびれたぜ」

「おや、どうしました? 何か此れから戦いにでも行くかのような気配が感じられますが」

「大方人目につかない所にでも案内されて、始末されるとでも思っていたんだろうよ」


デュランドルさん、正解です。


「隊長。もしかして第四段階からは訓練場所が変わるという事を知らせていなかったんじゃ」

「ああ、まぁ、なんだ。忙しくて言うのを忘れていたんだ。すまんな」


どうやら俺の早とちりだったようだな。

でもま、警戒しておくに越したことはないか。


「えぇ、ゴホン。さっきも言ったように第四段階以降の訓練はこの場所で行う。第三段階までなら室内の訓練所で充分なんだが、此処からは周りに被害が出てしまうんでな」

「前は其れで訓練所を半壊状態してしまい、酷く怒られましたからね」

「いらんことは言わなくていい。今からする事は放った魔法を自分の意志で操作して、的に命中させるという物だ。呪文を唱えて魔法を打つだけなら、魔法を覚えたての子供だって出来ることだからな」


デュランドルさんはそう言うと、訓練している騎士達から少し離れた場所へと俺を連れてきた。

連れてこられた場所から更に200m程先には『危険』と書かれた壁が聳え立っていたので、少しだけ近づいてあの場所は何かと聞いてみたところ。


「今のお前には関係ない。くれぐれも言っておくが、俺の許可なしにあの場所に行くことは許さん。分かったか? 分かったのなら訓練を始めるぞ」


俺はこれ見よがしに書かれている『危険』が気になったものの、少し戻ってダーツで使うような的とその周囲に木で出来た案山子が乱立している場所へと足を戻した。


「的は敵、案山子は味方と思ってくれればいい。この訓練では案山子(味方)にあたらない様に魔法を放ち、離れたところに居る的(敵)を倒す事だ。見てろよ【ファイア】」


デュランドルさんはそう言って右の掌に火炎球を浮かび上がらせると、左手の人差し指のみを立てて右手にある火炎球に指が触れるか触れないかというところまで近づけていく。すると右手の火炎球は左のの指に誘われるかのように移動して、次の瞬間には指先にと移動していた。


此れが本当の『爪に火を灯す』行為か、と下らない事考えてしまった俺は悪くないと思う。

意味は全然違うが……。


デュランドルさんは左手の指を的のある方向に向けると、まるで鉄砲でも打つかのようにして火炎球を打ち出した。


そのままでは確実に目の前の案山子に命中すると思った直後、火炎球はまる意志を持っているかのように直前でカーブし、案山子を次々とかわしながら奥の的へと命中した。


「こんなもんだな。やり方は人其々だと思うから、自分のやりやすい形でやってみると良い」

「隊長、鼻高々と自慢しているところを悪いんですが。案山子、僅かに掠ってますよ? 減点ですね」

「なにぃ!? そんなはずは……本当だ。でもたったあれだけだろ? 見逃してくれよ」


デュランドルさんが見ている視線を追ってみると、的の手前の案山子の頭の部分が僅かに焦げているようだった。


「駄目です。今のが案山子だったから良かったようなものの、生身の人間だったら間違いなく致命傷ですよ? 罰として訓練後の後片付け、二日分よろしくお願いします」

「おいおい、見逃してくれよ。俺は色々と忙しいんだよ?」


騎士隊長としての威厳は何処にやら。羊皮紙に事を書き込んでいるペンがピタッと止まり、ペンから零れたインクの滴が地面に黒いシミを作りながら隊長の鼻先に突き付けられる。


「自分が取り決めた事を自分で破るつもりですか?」

「分かったよ! やりゃあ良いんだろ、やりゃあ」


サミュエスさんは半ばいじけているデュランドルさんに背を向けて、俺に視線を向けると案山子が立てられてない場所へと俺を案内した。


「では最初は、案山子を立ててない状態で魔法を操作する術から練習していきましょうか」

「でも掌に魔法を浮かばせるやり方はまだしも、操作するやり方は教わってないんですが?」

「隊長も言ってましたが、これは人其々なので一概に此れが正しいとは言えません。因みに私のやり方では左手は使いません」


サミュエルさんはそう言いながら【ウィンド】を唱えて、右手にブーメランのような形をした風の刃を出現させると、的へと向かって飛ばした。

手を離れたソレは途中、横になったり縦になったりしながら案山子を避け寸分違わずに的の中心部分に突き刺さった。


「ようは思考次第ですよ。案山子のある位置を上から見た感じで記憶しておき、魔法の進路方向に魔力で見えない壁を作って、的までの道を誘導してあげれば自ずと魔法は命中します。現に戦場に於いて魔法騎士達は高いところに配置される事が比較的多いので、この訓練は理に適っているという訳です」

「とりあえずやってみます。『千里の道も一歩から』って言いますし」

「えっと? それは何ですか」

「あっ! いや、自分が住んでいた場所に伝わる言い回しの様な物です。意味は『どれだけ遠くとも、最初の一歩から始まる』という感じだったかと」


いけないいけない。ついついことわざを使ってしまうのは俺の悪い癖だな。


「良い言葉ですね。頑張ってください」


俺は元気よく返事すると、的を狙える位置にたった。

眼下には案山子などの遮蔽物は一切なく、俺から見て右下には命中させる的が置かれている。


直接狙おうと思えば狙えるのだが、此れはあくまでも魔法操作の訓練。

目の前が混戦状態になっている事を考えて魔法を打たなければならない。

俺は基本をおさらいするかのように魔力を一定量放出し、掌に【ファイア】を出現させる。


そして頭の中でカーブを描くように考えて魔法を打ち出すも全く曲がることなく、ただ真っ直ぐに壁に当たるまで飛んでいくだけだった。


「まぁ最初は誰でもこんなもんだ。周りには此処に近づかない様に言っておくから心置きなく練習してくれや。俺は此れから用があっから、分からない事があればサミュエスにきいてくれ」

「きちんと日が暮れる頃には戻ってきてくださいね。後片付けがあるんですから」

「分かってるよ。じゃあな」


そう言ってデュランドルさんは後ろ手で手を振りながら城に入ってゆく。


「隊長の言うとおり、最初は仕方ないですよ。頑張って行きましょう」


その後もただ只管に魔法を打ち続けた。


そしてそれから約4時間後、コツが見えてきたのか良く見てなければ分からない角度に過ぎなかったが魔法は少しずつ曲がりはじめて来ていたのだった。


俺はマグレだと思いながらも、その結果に嬉しくなり日没まで魔法を打ち続けたのだった。

ふと後ろを振り返ってコーチ役であるサミュエスさんを見ると、顔を俯かせながら何やらブツブツと呟いているように見える。


恐らくは今日丸一日かかって此れだけの成果しか上げられない俺に対し、イラついているんだろう。

一刻も早く第四段階をマスターして、第五段階に進まないとと一層意欲を湧かせたのだった。



俺がそう考えていた頃、ブツブツと呟いていたサミュエスの言葉を大きくするとこんなことを考えていた。


「朝早くから日没まで、あの威力の魔法を延々と打ち続けて魔力切れにならないとは……つくづく冒険者にしておくには惜しい存在ですね。冗談抜きにして掛け合ってみましょうか」


ちなみに日没までには戻ってくると言っていた、訓練所の後片付けを罰として言われていたデュランドルは戻ってくることはなく、翌日には罰の上乗せという事で計五日分の罰を言い渡される事となってしまった。


本人曰く『隊長会議が長引いて』と言い訳していたらしいが、『隊長会議』は夕方ごろに無事閉幕していたとの事らしい。


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