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第68話 訓練の段階

訓練3日目。


今日は昼からクレイグ様が俺に話があるとかで訓練は午前中までとなった。


昨日の魔力の一定量放出という訓練は、俺の独断で宿のベッドで眠りにつくまで続けられた。

結果、何時でもいわれた通りの魔力を普通に息をするかのごとく、何の問題もなくできるようになった。


「ふむ、魔力の調整は昨日の今日で完全に習得したようだな。じゃあ、愈々今日から魔法を実際に使った訓練に入るとするか」

「お願いします。最初は何をすればいいですか」

「まあ、そう焦るな。最初にクロウがどれだけの魔法を行使できるか教えてくれるか?」

「そうですね。全ての初級から上級までの属性魔法と【ヒール】、【シャイニング】などの回復、補助魔法を一通り詠唱せずに行使できるほどです」


件の見習い騎士5人も、今まさに訓練中である魔法騎士も誰一人として詠唱せずに魔法を使っている事から恐らくは珍しくもなんともないと思うのだが、少し早まっただろうか?


俺がそう考えていると返答を待っている間中、訝しんだ表情をしていたデュランドルさんは二カッと笑いながら親指を立ててきた。


「上出来だ。詠唱破棄できないというレベルからだと、次の段階に進むのに時間が掛かるからな」

「これで第二段階が終了ですね」


俺はデュランドルさんとサミュエスさんが口にした『段階』という言葉が気になり、質問を投げかけてみる事にした。


「その『段階』というのは何を指し示しているんですか?」

「あ? ああ、魔法騎士隊での訓練を言ってるんだ。全五段階中の二段階までが、今の時点でクリアしているという事だな」

「ちなみに第一段階は昨日行った魔力調整で一定量の魔力を意識せずに出し続ける事で、第二段階が魔法を詠唱破棄で行使できるようになることです」

「で、第三段階で教える事は二つ。まずは此れだ【ファイア】」


そう言ってデュランドルさんが掌を上に向けると【ファイア】が掌の上に出現した。


「普通は何の訓練も受けていない魔術師が魔法を発動すると、発動した瞬間に掌を向けている方向に一直線に魔法が飛んでいく。それを掌の上だけに魔力が留まるように調整したものが此れだ」

「この行使には第一段階の魔力調整が絶対不可欠なの。言い方を変えれば魔力調整を難なく熟した貴方なら何の問題もなく出来るはずよ」

「や、やってみます【ファイア】」


そうサミュエスさんに言われた俺は恐る恐るデリアレイグのギルドで行使した魔法の事を思い出して、掌の上に魔法を維持するように意識して【ファイア】を唱えた。


「せ、成功した?」


発動の瞬間、思わず瞑ってしまった目を開けると、確かに掌の表面から10㎝ほどの所にはデュランドルさんが出現させた火炎球よりも一回り大きな火炎球が、発射されるのを今か今かと待ち望んでいるかのように、うねりながら浮かんでいた。


「少し魔法の威力が大きいような気がしないでもないが、上出来だな。まぁ、うちの見習い5人に出来る事をクロウが出来ないはずないわな。っとそういや、あの五人今日は見てねえな」

「私も見てません。またサボりでしょうか?」

「あの野郎共、ふざけやがって。騎士隊の訓練をなんだと思ってやがんだ!!」


デュランドルはそう言いながら掌を握り拳に変えると、掌の上に出現していた【ファイア】は瞬く間に霧散した。


「あ、あの、この維持するやり方って他のどんな属性魔法でも出来るんですか?」

「ん? 【サンダー】系以外と中級魔法以外でなら、どんな魔法でも出来るぜ。試しにそうだな……サミュエル見せてやってくれ」

「分かりました。見ててくださいね」


サミュエルさんはそう言うと先ほどとは逆に掌を下に向けて【ウィンド】を唱えた。


すると掌の下に緑色の透明なカプセルのような物に包まれた、ブーメランに似た形をした物が出現する。


「掌の向きは関係ないんですか?」

「魔法には質量はありませんからね。今は説明する為にこのような形で発動していますが、いざ戦闘で使用するときには相手に属性が分からない様に後ろ手で発動する事もありますよ」

「って事で第三段階の前半が終了と。続けて後半部分も教えてやりたいところだがどうする? 休憩を挟んでからにするか?」

「いえ其れほど疲れているわけでもないので、直ぐにでも後半部分を教えてください」

「よく言った! なら続けていくぞ。と言っても後半は魔法ではない。いわば補助的な物といって良いのかな?」


デュランドルさんは説明が下手なのか何を言っているのか、ちっともわからない。


「一体どっちなんですか?」

「口下手な隊長に代わって、私が説明します。後半はいうなれば、魔力譲渡の方法を学んで貰います」

「それだ! 俺もそれが言いたかったんだ」


デュランドルさんも今更ながら説明に参加しようとしてくるが、サミュエスさんの一睨みですごすごと退散していってしまった。


「魔力譲渡?」

「戦場に於いて魔力切れを起こした魔術師ほど邪魔な存在はありません。怪我をした味方を回復させることが出来ないだけなら未だしも、他の誰かに守ってもらわなければ戦場を移動する事すら出来ないのですから」


まぁ、俺は別として魔術師ってひ弱なイメージがあるからな。

魔力がなくなって魔法が使えなくなったから、剣で戦えなんて言えるはずもないし。


「其処で魔法譲渡の出番です。此れは自身が持っている魔力を他人に受け渡すというものです。やり方としては、先ほどの掌に魔法を維持する方法の応用で自身の魔力を掌に出現させて其れを魔力切れを起こした者に受け渡すという形になります。当然、譲渡する者の魔力は減りますが……」


まさに魔力量が桁外れに大きい俺なら、この魔力譲渡というのはうってつけという訳か。


「ま、言葉で説明したところで分かり辛いわな。実際にやって見せようか」


デュランドルさんはそう言うとサミュエスさんの真横へと移動する。


「いいか? まずは此処に居るサミュエスの魔力最大値を仮に100とする。それが先ほど【ウィンド】を使用した事によって10減って今の魔力値は90だ。単純計算だ、100から90を引くと答えは10だろ? そこで俺が魔力譲渡を使う。10の魔力ならこれくらいか?」


そう口にした瞬間、デュランドルさんの掌の上に白い透明な物体が出現した。


「で、此処に魔力10の物体を出現させたことで俺の魔力量は10減ったことになる。そして此れをそのままサミュエスの身体に押し付けると、これでサミュエスの魔力値は100に戻ったという訳だ」

「この感覚だけは何度やっても慣れない物ですね。まるで何かに身体を浸食されているかのような」

「気持ち悪い事言ってんじゃねえ! あ、ちなみに今回は10の魔力をサミュエスの身体に打ち込んでやったが、此れは別に20でも30でも問題ねえからな? 魔力差分は無駄になるというだけで、最大魔力値100の身体の中に200の魔力を押し込んだとしても身体が破裂する事はねえから安心しろ」

「何か途轍もなく怖い事を言われた気がしますが、これで第三段階はクリアですね」

「え? ちょっと待ってください。口頭でやり方を説明されただけで、まだ実際に行ってもいないんですよ」

「やり方は第三段階前半の魔法を維持する形と同じだから、暇がある時にでも練習しておいてくれれば良い。そのまま第四段階に移りたいところだが、昼からクレイグ殿に呼ばれているんだったな。ちょっと早いが飯を食いに行って来い。案内役を食堂に呼んどいてやるから、後はそいつの指示に従ってくれ」


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