第67話 魔力調整
2013年、最後の投稿となりました。
来年(2014年)も『異世界を歩むもの』をよろしくお願いします。
よい御年を……。
訓練2日目。
宿で朝食を終えた俺はイディアと朝の簡単な会話をかわした後で城へと向かって歩いていた。
基本的に今俺達が宿泊している宿は女将であるラファルナさんの性格上『一見様お断り』的な事になっていたのだが、城からの要請という事もあり、現在は空き室が無い状態にまで冒険者で溢れ返っている。
宿泊人数を城に伝えればその分に見合った代金を国が宿に支払うので儲けになるのだが、ラファルナさん曰く『気に入らない』との事らしい。
話は戻って城の入口へと到着した俺は、門の警備にあたっている衛兵に『身分証明証』兼『入城許可証』であるギルドカードを見せて待機していた魔法騎士に連れられて訓練所へと案内されている。
訓練所への道すがら別の隊の訓練を見ていると、俺と同じような冒険者達が騎士や衛兵相手に剣や斧を振るっているのが目に入ってきた。
中には訓練をそっちのけで騎士に対して悪態をついている冒険者もちらほらと見受けられるが、これは各訓練所に必ず一人はいる監視役でもある近衛騎士がやんわりとした口調で諌めている。
そんなこんなで訓練所へと到着した俺は『魔法関係者以外立ち入り禁止』と書かれた重い鉄製の扉を開けて中へと入り、真っ先に隊長室へと向かった。
一般的に冒険者に対しての訓練は団長や隊長、副隊長などの役職についていない一般騎士が担当しているらしいのだが、何故かこの魔法騎士隊に於いては隊長、副隊長が指導役をかって出ている。
理由としては若しかしなくても、前日に行われた魔力検査が影響しているのであろう。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
「はい、おはよう」
そう返してくれるのは副隊長であるサミュエスさん。
隊長であるデュランドルさんはまだ来ていないようだった。
「隊長は朝の隊長会議に出られているので、此処にはいらっしゃいません。では早速ですが訓練を始めましょうか」
そういってサミュエスさんは他の魔法騎士が訓練している場所へと俺を連れて行ってくれたが、その道すがら小声でボソッと『隊長が居ない方が静かで良いんですが』とつぶやいていた。
「では、まず最初に魔力の調整から始めましょう」
「調整?」
「魔法を本格的に使いだす時は皆一様に中級魔法や上級魔法に憧れるものですが、単独での魔物に対する攻撃ならいざ知らず、戦争時の敵味方入り混じっている混戦の中では中級、上級魔法では味方をも巻き込んでしまいますからね。その点、初級魔法なら一見地味ですが魔力を込める量を調整すれば大いに役立ちますから」
確かに言われる通り、オークロード討伐時に使用した【サンダーレイン】を混戦時に使った日には高確率でフレンドリー・ファイアになってしまう事間違いなしだ。
「なるほど。でもどうやって? 魔力は目で見えないし」
「そこでこれを使います」
そう言ってサミュエスさんが手に取ったのは何の変哲もない手に収まるサイズの水晶だった。
魔力検査に使っていた物とは違い、透明の六角柱の形をしている。
「この水晶は魔力を感知すると、その量に応じて白く光る性質を持っています。魔力調整の目安としては、これくらいの光を灯す事を目標にして頑張ってください」
そう言うと、サミュエスさんの持っている水晶の中心部分のみが豆電球を灯したようにやんわりと光りはじめた。
「が、頑張ってみます」
とは言ったものの、いざ渡された水晶を手に持った瞬間、眼を開けていられないほどの強い光が訓練所全体を照らす事となってしまった。
此れには近くで興味本位で覗き込んでいた訓練中の魔法騎士も、すぐ横に立っていたサミュエスさんも目を押さえて苦しんでいた。
「ぐあぁーーー!! 目が、目がぁーーー」
「は、話には聞いていましたが此れほどの物とは……」
こうして訓練開始一歩目にして周りに多大な迷惑をかけてしまった俺は被害者(?)の魔法騎士一人一人に頭を下げて謝罪した後でサミュエスさんに相談し、魔力の調整にあたって魔力検査をした個室を特別に貸してもらえることとなった。その理由は言わずもがなだろう。
《マスター、少し宜しいでしょうか?》
改めて気合を入れて頑張ろうかというところでエストからの念話が頭の中に響いた。
《エストか。一体どうしたんだ?》
《マスターの魔力量についての事なのですが、やはり原因は私達精霊と契約した事にあるのではないかと思いまして》
《まだそんな事を気にしてたのか。考えすぎだって》
《しかし……》
《なら聞くが、エストやフィー達は俺と契約した事を後悔しているのか?》
《そんな訳ないじゃないですか!》
《幾らマスターでも、言って良い事と悪いことがありますよ!》
《マスターの馬鹿!》
《そうだろ? なら、それで良いじゃないか》
《えっ?》
《どんなことでも悪い方悪い方に考えてしまうと、本当に悪くなってしまうものだ。それに俺は逆にこういう機会を与えてくれたことに感謝しているんだ》
《えっと……どういう事なのでしょうか?》
《俺は此処に来る数か月前まで魔力はもとより、魔法なんてものは小説やお伽噺の中でのこととしか認識していなかった。その俺が此処に来て魔法を使い、更に魔力調整という夢にも見なかった事を為し遂げている。精霊との契約で魔力量が増えたといっているが、俺にとっては喜ばしい事と考えているんだ。だってそうだろ? こんな夢物語みたいな体験ができるんだからさ》
《マスター……》
とエストと会話していると扉の外からサミュエスさんの声がかけられた。
「クロウさん? あまり根を詰めていても上手くいきませんよ。此処は適度の休憩をとる事を推奨します」
「は、はい、分かりました。ありがとうございます」
そうしてあまり根を詰めても上手く行かないというサミュエスさんからの助言で約2時間ごとの休憩、各騎士隊、衛兵隊、冒険者達などが一堂に会する城の食堂に於いての昼食、ついでに様子を見に部屋に乱入してきたデュランドルさんの目を眩ますこと数回、更に午後の休憩を挟んで今日の訓練の終了時間30分前にして漸く、水晶の光がサミュエスさんの持っていた水晶のレベルに納まった。
其れでも豆電球とLED電球の差ほどの光の違いはあるが。
「思ったよりも時間が掛かりましたが、これなら次の訓練段階に移っても問題なさそうですね」
「本当ですか? 有難う御座います」
「明日の訓練では、今の魔力量を維持したうえでの魔法訓練、並びに魔力譲渡の訓練をしましょう」
「じゃ、今日は此れで失礼します。明日からまたよろしくお願いします」
俺はそうニコニコと微笑んでいるサミュエスさんに言いながら頭を下げると、今の魔力量の感覚を忘れない様にと水晶を持たない今でも魔力を維持するようにして宿への道を帰ってゆくのだった。
一方その頃、訓練所にてクロウを見送ったデュランドル隊長とサミュエス副隊長はというと……。
「なぁ、クロウの魔力を今日一日間近で感じてみてどう思った?」
「最初、隊長の指示で魔力を通しにくい細工された水晶を渡された時には隊長に対して悪意を持ちましたが、其れを何の抵抗もなく光らせたあの魔力は末恐ろしい物があります。さらに丸一日魔力を放出し続けて何の疲労感を見せない事に対しても驚愕の一言です」
「回りくどい事はどうでも良い。お前の目から見て、クロウの存在はどう映る?」
「冒険者としてギルドに所属させておくには誠に惜しい逸材かと思います」
「やっぱりお前もそう思うか。俺はこの戦争が終わった後、クロウを魔法騎士隊として入隊させてくれるよう、上申書を書こうと思っているのだが」
「私は賛成です。ですが、他の魔法騎士はその事にどのような反感を示すか……例のあの5人は特に」
「そういや、あいつらは如何した? 今日はまだ顔を見ていないが」
「それが……昨日与えた罰の影響からか、身体の不調を訴えて訓練を休ませてほしいと。確かに死人と見間違うほどに青白い顔をしてましたが」
「またか。どうせ昨晩飲んでいた酒が残っていて気分が悪いとかそんなとこだろ。あ~あ、本当に冗談抜きにして、あの役立たず五人とクロウをトレードしちゃくれねえかな」
「全くです」