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第63話 コレが魔法騎士隊?

帝国グランジェリドとの戦争に向けて、城の騎士隊とともに訓練をすると言われた俺達冒険者は城に入って直ぐの場所で青い全身鎧を身に着けた五人の近衛騎士によって面接を受けていた。


約1時間前に始まった面接で全冒険者の内の約100人ほどが手続きを終えて、各々の騎士に連れられて別の訓練場へと案内されてゆく。

俺の近くに居る、自称元騎士という槍使いの冒険者達の仲間内での会話を聞くところに因ると、近衛騎士や騎士、衛兵も冒険者ランクと似たような階級が与えられているらしい。 


話を直訳すると冒険者で言うところのSランクは近衛騎士隊、Aランクは剣騎士や斧騎士と言った風な『騎士』の前に武器名が付いた上級騎士隊、Bランクは上級騎士見習い、Cランクは一般騎士隊、Dランクは騎士見習い、Eランクは衛兵で最後のFランクに入りたての衛兵が当てはまるらしい。


ただし魔法騎士隊のみ、一般騎士であるにも拘らずAランクが与えられているとの事だ。

各街に魔術師を養成する魔法学院がある事から、かなり魔術師の地位は優遇されていると見える。


魔術師であり、剣士でもある俺は何処に配属されるんだろう?

冒険者ランクで言えば、ギリギリCランクなので一般騎士隊との訓練になるのだろうか?


そうこう考えている間に俺の前に居た冒険者が減り、次は愈々(いよいよ)俺の番となっていた。


「では次の者、前へ」


どうも昔からこの手の面接は緊張するものだな。まぁ会社と違って不採用になる事はないと思うが……。


「どうした? ギルドカードを見せよ」

「あっ、申し訳ありません。これです」


考え事をしていて近衛騎士の言葉を聞き逃していたようだ。第一印象としては最悪の出だしだな。


「ふむ、Cランク冒険者か。得意武器が剣、それに……魔法だと?」

「は、はい」


面接官の近衛騎士はカードに書かれていた『魔法』という文字を凝視すると、次にカードを裏返して裏面に書かれている名前を確認している。

今まで面接のやり取りを見てきた中では机に置かれたギルドカードに手を触れることなく、書かれている事柄を読み取って各々の『訓練所に行け』という指示しか出していなかったのに……。


「前々から冒険者でありながら魔法を使う者がいると聞いていたが。よく訓練に参加してくれた!」

「えっと何がなんだか分からないんですが、俺は何処に行けば良いんでしょうか?」

「あ、ああ、済まない。君は魔法騎士隊での訓練となる。直ぐに迎えを寄越すから私の後ろで待っていてくれ」

「はい。わかりました」


そう言われて指示に従って近衛騎士の背中側へと移動すると、順番待ちをしている冒険者達が俺の事を見ているような感じがして、プレッシャーから目を背けていると一人の騎士が話しかけてきた。


「おい! そこの愚民」

「えっと、俺の事ですか?」


幾らなんでも行き成り『愚民』って……失礼な奴だな。何様のつもりだ?


「お前以外に誰が居る。白髪の冒険者、お前がクロウとやらで間違いないのだな」

「はい。それと白髪ではなく、銀髪です」

「そのような細かい事はどうでも良い。魔法騎士隊の訓練所に案内してやる。付いて来い」


偉そうに人を見下す態度を取る騎士は俺を一瞥し、視線で射殺せるのではないかと思わせるような目で近衛騎士の背中を睨み付けると踵を返して、後ろ手に掌で付いて来いと言うと通路を歩き出した。


「……ったく。、何で一庶民のアイツが近衛騎士で俺が騎士なんだ! 誰が見ても地位や実力は俺の方が上じゃねえか。ふざけやがって!!」


俺を案内している最中、途切れることなく先ほどの近衛騎士に対してであろう、愚痴をブツブツと言いながら時折、ブーツで壁を蹴りながら城の通路を進んでゆく。

『此れから行くところはどんな所か』とか、案内している騎士さんの名前はとか、俺も色々と聞いているのだが、周りの事など聞く耳持たずというような感じで誰かに聞かれたら拙いのではないかと思うような独り言を只管呟いている。


全く関係のない俺の胃が悪くなるような気がしながら無言で付いて行くと、10分程で大きな扉の前へと到着する。


「おっと、行きすぎるところだった。此処がお前が今日から訓練する部屋だ。んっんん、失礼いたします。こちらで訓練する冒険者を連れてまいりました! 入室の許可をお願いいたします」


これまでの印象とは打って変わって俺を案内してきた騎士は両踵を打ち付けて鳴らし、背筋をピンっと伸ばし、被っていた兜を脱いで左脇に抱え、右腕で敬礼している。


そうこうしているうちに大きな扉はゆっくりと内側に開いて行き、これまたプライドの塊みたいな顔をした長髪の男が騎士の傍にいた俺に中に入るように促した。


「ふうん、君がそうか。まぁ、入りなよ」

「失礼します」

「キミもどうだい? 部屋で御茶でも飲んでいくかい?」

「い、いえ、御言葉は大変嬉しく思うのですが仕事中でありますので、此処で失礼させて頂きます」


その間も騎士は姿勢を崩さずに直立不動で、まるでそう言う人形でも置いてあるんじゃないかと思われていたのだが、部屋の中から現れた魔法騎士であると思われる男から話しかけられると、これまた人が変わったかのような丁寧な物言いで部屋の前から去って行った。


「僕の折角の誘いを無碍にするなんて失礼な奴だ。さぁ君、こっちだよ」


そう言って応対してくれた男は俺を連れて誰も居ない部屋を横切って別の扉を開いて俺を中へと促した。

部屋の中にはソファーに座ってテーブルの上に両足を乗せて本を読んでいる男が二人とトランプの様なカードで遊んでいる男が二人と、俺を案内してきた男が空いているソファーに足を組んで座った、計五人が顔だけをこっちに向けた状態で其処にいた。


「さぁ、第一印象は大切にね。中に居る皆に挨拶を」

「はじめまして。ギルドランクCの冒険者クロウです。此れからよろしくお願いします」


俺は今度こそ失礼があってはいけないと思い、背筋を伸ばして頭を45度下げたお辞儀をする。


「はい、やりなおし! 第一印象を大切にって初めに言ったでしょ? 聞いてなかったの?」


俺としては最敬礼するつもりで頭を下げたのだが、何か不敬があったのだろうか。

今度こそ足の置き方、手の位置、頭を下げる角度、言葉の使い方と注意を払って挨拶したのだが。


「だから駄目だって言ってるだろう?」


自分としてはサラリーマン時代にスパルタ的に教えられた礼儀をしているのだが、それでも駄目だという。異世界と現代では礼の仕方が違うのだろうか?


「えっと、御手数ですが自分の挨拶の何処が間違っているか御教え願えませんか?」


不躾ながらも俺が皆にそう聞くと不意に部屋の中の空気が変わり、部屋の中に居た五人の男達も虫けらを見るかのようにして俺に視線を向けている。


「なんだ本当に知らないのか? 要は俺達よりも目線を低くして、挨拶しろって言ってるんだよ」

「俺達は貴族で魔法騎士、それに対して君は庶民の冒険者だろ? その君が僕らを見下しても良いと思ってるのか?」

「ソファーに座っている貴方たちより目の位置を低くして挨拶だなんて、俺に土下座をしろと言っているのですか」

「土下座? 何を訳の分からない事を言っているんだ。直ぐに床に両膝と両掌を付けて頭を床に擦りつけて『お願いします』と言えば良いんだよ! 分かったらさっさとしろよ、クズが!」

「それとも何かい? 上官である僕たちに反抗する気かい?」

「それは出来ねえよな。面接で言われてたはずだぜ」

「反抗とか反逆とか言ってるんじゃないんだよ! そんな非人道的な事をできるかって言ってるんだ」


貴族と庶民、貴族と冒険者、更に土下座で挨拶をしろと言っている連中に流石に頭に来た俺は敬語を忘れてつい怒鳴りつけてしまった。


「なんだと!? 貴様、俺達貴族に飼われている愚民の分際で俺達に命令する気か」

「身の程知らずな奴だね。どうせ魔法が使えるってだけで此処に来たんだろ?」

「此れ以上、僕たちを怒らせる前にさっさと謝りなよ。『愚図で鈍間のろまな愚民である自分を、貴方様方の小間使いとしてお使いください』ってね」

「それとも此処で二目と見られねえ顔になるか?」


最後の男はそう言って掌の上に【ファイア】であると思われる火の玉を出現させた。

というか遺跡で精霊と出会って以来、掌に魔法を浮かべるという事が何故か出来なくなった俺に対して此奴等は易々と、しかも無詠唱で発動している。

この事で俺の怒りはヒートアップしていた。


このまま続けられると最悪の場合、剣で滅多切りしてしまうかもしれない……。


「良いねえ♪ その案採用。そうすれば二度と反抗する気も起きないだろうしね」


そう言って他の四人も【ファイア】と唱えて、火炎球を掌に浮かび上がらせて迫ってくる。


力で捻じ伏せる事も可能ではあるのだが、後でどのような事態を引き起こしてしまうのか。

五人の身の心配よりも、そっちの方が頭に残っていた。


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