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第61話 伝説に名を残す? それとも……

前回、新たに2体の精霊と本契約を結び其々風の精霊に【フィー】、火の精霊に【サラ】という名前を授け、さらに精霊側から俺に対する呼び方を【主様】から【マスター】へと変更させる事に成功した。

少し恥ずかしい気もするが、他の人に聞かれないだけましか。


酷い言い方になってしまうが、エストと同化しても魔力が増えるだけであまり意味がないと知らされていた俺は新たに契約したフィー、もしくはサラと早速同化してみようと思っていたのだが……。


『残念ですが、此処に居るマスターはいわば私達と同じ精神体ですので、此処で同化する事は出来ません』と言われ、仕方無く諦める事となってしまった。

そして此処で今出来る事が無くなった俺は神殿を後にして眠りについた。


翌朝、窓の外から聞こえる、やけに騒がしい声や物音で何時もより早く目が醒めてしまった。


「急げ! もたもたするな」

「こうしちゃおれん。一刻も早く街を出なければ……」

「ちょ、ちょっと落ち着いてください!」

「此れが落ち着いていられるか! 手遅れになったら、どうしてくれるんだ」


窓を開けて外の様子を確かめようとするが、宿の窓は完全な嵌め殺し状態となっていて開ける事はできなかった。


窓が駄目なら宿の入口から外に出て事態を確かめようと、扉に手を掛けたところでドンドンドンッと力任せにノックする音と、イディアの慌てふためいた声が廊下から聞こえてくる。


「クロウ、起きて!」

「起きてるよ。この騒ぎは一体なんなんだ?」


まだ眠気眼で片目が完全に開ききらない状態にも拘らず、扉を開けてイディアを部屋に招き入れると、鬼気迫る表情をしたイディアがA4サイズほどの羊皮紙を顔の前に差し出してくる。


「此れは?」

「今朝、町中でばら撒かれた物よ。大変な事が書かれてるの。読んでみて!」

「大変な事? えっと何々……えっ!?」


イディアが渡してきた羊皮紙にはこう書かれていた。


『私の名はファルズ。諸君らが帝国と呼んでいる、グランジェリドの皇帝だ。突然の事で申し訳なく思うが、私はこの度ドラグノアに対し宣戦布告する。といっても今すぐではない、この羊皮紙が諸君らの手に渡ってから10日後、我等は屈強の誰にも負けない強兵を率いて諸君らの国を攻め滅ぼす所存である。が、我とて悪魔ではない。この戦争に対して無条件降伏するのであれば誰でもよい、此れより5日以内に国王の首を持って国境まで来るが良い。さすれば国王以外、一人の犠牲者も出すことなく戦争は終結するであろう』


「此れは事実上、グランジェリド帝国からドラグノアに宛てた宣戦布告。街の人たちは此れを見て、戦争に巻き込まれまいと荷物を纏めて街を離れたり、国王一人の首で戦争が回避できるならと城に詰め寄ったりしているわ」

「完全に帝国の思うつぼだな」

「どういうこと?」

「帝国が強兵と呼ぶ兵の想像が出来ないけど、それ以上に厄介なのは城に詰め寄っている市民たちだろう。攻めてくる帝国の兵は簡単に切り捨てられるが、何の罪もない市民たちを切り捨てれば例え戦争が終結したとしても、陛下の信頼は地に落ちたも同然になる」

「なるほどね。あっ、そうそうジェレミアさんから街に居る冒険者に対して伝言よ。ドラグノアギルドに所属する全ての冒険者たちは余程の理由が無い限り、昼前までにギルド窓口前に集合だって」

「十中八九、この事についてだろうね」


俺とイディアは会話しながら階下に降りていくと、其処には何時もと何ら変わりはない女将さんがせっせと朝食の準備をしていた。


「おや、やっとお目覚めかい? こんな大騒動が起きているっていうのに神経が図太いというか、余程の馬鹿というべきか……」

「ちょ、ちょっとラファルナさんこそ、一刻も早く此処から逃げなくても良いんですか? 此処はもう間もなく戦場と化すんですよ」

「そ、そうよ! 一体何をしてるのよ」


俺がそう言うとラファルナさんは一瞬固まったものの、直ぐに大声で笑いだした。


「私にとっては朝昼晩の食事時はいつも戦場だよ。このぐらいの事で慌ててちゃ宿屋の女将は務まらないさ」


どう考えても、戦場という意味の重さが違う。

台所では怪我をすることがあっても、人死にはない。


「それにね。此処より安全な場所が何処にあるっていうんだい? 街全体を覆っている、見上げると首が痛くなるほどの巨大な城壁に、街を覆う魔物避けの結界にジェレミアが率いている、アンタ達を含む凄腕の冒険者達、更には陛下直属の近衛騎士、騎士隊、衛兵……此処まで優遇されてる街が他にあると? ハッキリ言って我先にと逃げ出した奴等は愚かとしか言いようがないよ。下手すりゃ他の街に行きつく前に、魔物に襲われて呆気なく命を落とすことが関の山だね」


俺達冒険者以上に冷静な思考の持ち主であるラファルナさんに俺もイディアも空いた口が塞がらなかった。


「ほらほら、ジェレミアから招集されてるんだろ? 早いとこ飯を食って、頑張ってきな」


昔から『腹が減っては戦は出来ぬ』と言うし、ラファルナさんの物言いには説得力があるんだけど、何処か納得できないというか何と言うか……。


取り敢えず起きたばかりで腹が減っているのは確かだという事でイディアと並んで食事を摂った俺達は少し早いような気がしながらも、ギルドへと足を進めた。

ギルドへと進む最中にも我先にと逃げ出す、街の住人や貴族で街の門はごった返している。


衛兵達は何とか落ち着かせようとはしているものの、数の暴力に押されて為す術もないようだった。


「そういえば任務の入って無い冒険者はギルドに集合という事らしいけどエリスは如何するんだ?」

「あの子はまだ街の外に出るのは無理だから、宿の部屋の中に居る様に言いつけてあるわ」


俺達はそうこう話しながら5分ほど歩いたところでギルドへと辿り着いた。

ギルドの扉を開けて中に入ると、まだ時間が早い事もあって人数はまばらだが見知った顔が幾つか見受けられた。


上級ランクの冒険者でないと上がる事さえ許されていないギルドの2階からは、見ているだけで圧倒される屈強な男達が身体よりも大きい武器を背中に携えて周囲に目を向けながら下りてくる。


それとは反対に1階の壁際には冒険者としてまだ日が浅いのか、エリスぐらいの身長の男女が4人辺りに目を泳がせながら身体を小刻みに震わせている姿があった。

ギルド内にいる色々な冒険者達に目を移していると、不意に後方から低い声を掛けられた。


「おっ? クロウとイディアじゃねえか。しばらく見てなかったが元気だったか?」


それは街を襲って来た『謎の魔物』と呼ばれている闇獣レギオンによって致命傷に近い傷を負って療養中だったグリュードさんだった。


その手には以前使っていた斧とは形状が異なる槍のような細い柄の先に刃を持つ、巨大な槍斧が握られていた。


「怪我はもう大丈夫なんですか?」

「ああ、見ての通りだ。少しばかり筋力を戻すのに苦労したが、あんのふざけた魔物め。戦場で会ったら今度こそ叩きのめしてやる!」

「その事なんですが、恐らくはこの後でジェレミアさんから言伝があると思いますが、戦場で『謎の魔物』が出現しても決して戦わないでください。何をしても無駄でしょうから」

「幾らクロウでも、其の言葉は聞き捨てならねえな。この時の為に鍛えに鍛えぬいた、この身体。更になけなしの全財産をはたいて買った、この槍斧ハルバードがありゃ誰であろうと負けねえよ」


グリュードさんはそう言いながら手に持っていた槍斧の柄を床に叩きつけた。


まわりの冒険者達からは『何事か!?』という視線が多く寄せられたものの、直ぐに関心を失くしたのか大きな騒ぎには至らなかった。

武器を自慢するのは分らないでもないが謎の魔物レギオンは次元が違う。


「残念ですが、その武器が例え伝説として謳われているような物だったとしても『謎の魔物』を倒すことは愚か、傷つける事さえできないでしょう。返り討ちになるのが関の山ですね」

「お前さんの言葉を聞いてると、アレの正体を知っていそうな感じだな?」

「知っているというか……自分の一族に古くから伝えられている古文書にアレの事が載っていたんですよ。被害に遭った人達から情報を得た結果、核心に至ったという訳です」


『自分の一族』も『古文書』も全くの作り話だが、此処まで脅しておけば無闇に突っ込んで行かないだろうと思っていたのだが、グリュードさんは余程の馬鹿なのか逆に闘志を燃やしているようだった。


「なら、俺がアレを倒して伝説に名を残す男になってやるぜ!」


その後、約束の時間にギルドの奥から姿を現したジェレミアさんが止めに入るまで、俺のグリュードさんへの説得はイディアを巻き込んで延々と続けるはめになってしまった。



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