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第60話 火、風精霊との契約

「……主様、目を醒ましてください」

「う~ん、えっと……此処は神殿?」


宿屋の自身の部屋で眠りについたはずなのだが、気が付くと何時しかエストと契約を結んだ神殿へと来ていた。


「ようこそ精霊神殿へ。とは言っても2回目ですが」


ふと意識を声がする方へ向けると其処にはいつか見た、俺と同じ白い髪を持つエストが、更にその両脇には燃えるような赤と、鮮やかな緑色の髪を持つ女性が静かに此方を見ていた。


「ああ、そういえば火と風の精霊と契約をするって言ってたっけ。その2人がそうなのかな?」

「はい、向かって右側が火の精霊。左側が風の精霊です」


エストに紹介された2人はその立ち位置で静かに跪くと其々自己紹介を始める。


「主様、お初にお目にかかります。私は火の精霊にございます。この度、母様……いえ、無の精霊の導きに従いて主様の元へと馳せ参じました」

「同じく、風の精霊でございます。火の精霊及びまだ到着していない土、水の精霊ともども、主様に末永く仕えたいと思っております」


『末永く』って……なんか別の意味に聞こえてしまうな。


「で? 俺は何をしたらいいんだ?」


いざ本契約をと言われても、俺は何をすれば良いのか全く分からない為、彼女らの後ろに控えているエストに問いかける。


前回のエストとの契約時に無の精霊を示す、白き水晶以外の4つは何処かに飛んで行ってしまったし此処で何をどうすれば良いのか、てんで見当もつかない。


「貴方たち、主様に仕える事を了承するならば各々の水晶を手渡しなさい」


エストがそう言うと、緑髪の風の精霊は前回何処かに飛んで行ってしまった緑色の水晶を掌の上に載せて俺に渡そうとしてくるが、火の精霊の方は手に何も載せていない。

また、それだけでなく何処か此方を品定めしているかのような視線も浴びせてきている。


「主様、誠に失礼だとは思いますが、一度だけ貴方を試させて頂けませんか?」

「あ、貴方、自分が何を言っているのか理解しているのですか!?」


今まで静観していたエストが慌てて火の精霊に詰め寄っていく。

隣にいる風の精霊もまた驚いているようだった。


「お母様は黙っていてください!」


火の精霊は強い口調でそう言い放つと、俺に向かって驚くべきことを口にした。


「主様、御手数だとは思いますが、私に主様の持つ最大威力の火炎魔法をぶつけてくださいませんか?」

「で、でも、そんなことしたら幾ら精霊とはいえ危険なんじゃ」

「御心配してくださってありがとうございます。ですが、私は全ての火を司る精霊。遠慮なく全力でお願いします」


此処まで言われてもまだ決めかねていた俺は助けを求めるかの様にエストに視線を向けると彼女は静かに首を縦に振り肯定を示した。


「其処まで言うならしょうがないか……最後にもう1回聞くけど、本当に大丈夫なんだな?」

「お願いします」


ならばと俺はデリアレイグの地に於いて、地形を変えてしまって以降使用する事のなかった上級火炎魔法【ファイアーボール】を頭上に出現させる。


更に最大威力でという事なので更に魔力を注ぎ込むことで1m近い直径があった【ファイアーボール】の大きさは2倍の2m規模となり、色もまた暗い色の赤から段々と明るい色の赤へと変わっていき、最終的には1000度近い高温を示す綺麗な黄色へと変化した。


「話には聞いていましたが、人間とは思えないほどの純粋なる魔力。楽しみで心躍りそうです」

「余裕がありそうだな……行くぞ?」


俺は頭の上に掲げた右腕をボールを投げるかのような素振りで振り下ろすと、小型の太陽を思わせるかのような【ファイアーボール】は一直線に火の精霊へと向かって飛んで行った。


『全力で』とは言われたものの流石に大人気なかったかと思いながら、着弾する爆風に備えていたが、予想に反して【ファイアーボール】は火の精霊が掲げた右掌に跡形もなく吸収されて消えてしまった。


「嗚呼ぁーーー! 強力ながらも私の事を心配なさる、何処か優しさに溢れた魔力。大変美味しゅうございました」

「って、お前は何処の料理評論家か!」


まぁ、火そのものの存在に火炎魔法をぶつけてもダメージにはならないか。

逆に吸収されて、尚且つ魔力の味に関しての感想を言われる始末……結構自信あったのにな。


【ファイアーボール】を吸収して表情を緩めていた火の精霊は一転して表情を引き締めると、俺の前に跪いて赤い結晶を掌の上に載せて渡そうとしてきた。


「結晶を差し出してくるという事は、俺を主として認めると思って良いのか?」

「はい。お手数をおかけしてしまい申し訳ありませんでした」

「では主様、火の結晶、及び風の結晶に新たに主様の血を付けてください。そして血を付けた面を下になる様にして台座に収めてください」


俺はエストに言われるままに再度水晶の尖った部分を指に刺して血を付着させると、逆さにして元々水晶が収まっていた台座にセットする。


すると台座に納められた水晶からは其々、赤い光と緑の光が天高く伸びていった。


「お疲れ様でございました。此れにて契約は完了し、主様は風と火の力を手にすることが出来ました」

「精霊から水晶を受け取って血を付着させて台座にセット。これで完了か」

「はい。それにしても……火の精霊、さっきのは何のつもりでしたか?」

「申し訳ありませんでした。前回の主様の件もあり、納得の行く形で契約したかったんです」


前回の主って精霊を道具のように使って魔神となり、世界を滅ぼそうと考えていたんだっけな。


「貴方の気持ちは痛いほどよく分かりますが、だからと言って……」

「いや俺は構わないよ。嫌がる精霊を無理やり押さえつけて契約を完了させたとしても、其処に主従の関係は生まれないから」

「主様……ありがとうございます」

「あと前々から気になっていたんだけど、その『主様』というのは如何にか出来ないか? 何かそう呼ばれると背中がムズムズしてどうにも落ち着かないんだ」

「どう御呼びすればいいのでしょうか」

「そうだな。親しみを込めてマスターとでも呼んでくれないか?」

「では、マスター様と」

「いやいやいや、マスターだけで良いって」

「分かりました。マ、マスター……?」

「ん? なんだい?」

「い、いえ失礼しました」


エストが緊張した声でマスターと呼び、俺が返事を返すと途端に顔を真っ赤にして目をそむけてしまっていた。


「それと火の精霊、風の精霊って呼ぶのもアレだから、エストと同じように名前を付けてあげたいんだけど良いかな?」


俺のこの言葉に契約時からずっと跪いていた2人の精霊はすっと音もなく立ち上がると嬉しそうな表情で駆け寄ってきた。


「本当に名前を頂けるのですか!?」

「あ、ああ、嫌じゃなければだけど」

「嫌だなんてとんでもないです。ありがとうございます」

「あの主様……私にも頂けるのでしょうか? あれだけ失礼な真似をしておいて、こう言うのもなんですけど」

「さっきの事なら別に気にしてないから大丈夫だよ」


何処か小さくなっている火の精霊にそう声を掛けた俺は精霊の名前を考え始める。


『風の精霊か、確か何処かの小説で風の精霊を示す【シルフィード】というのがあったな。ルフィだと何処ぞの海賊になってしまうから【フィー】辺りにでもしておくか。火の精霊の方は【サラマンダー】から文字って【サラ】って事で。どちらにしても俺ってネーミングセンスがないな』


という事で火の精霊には【サラ】を風の精霊には【フィー】の名を付けた。


流石に安直過ぎて怒るんじゃないかと思ったが、思いのほか好評だったようで涙ながらに御礼を言われる事となってしまった。もうちょっと真面目に考えた方が良かったかな……。


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