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第57話 妨害者またしても……

文章内に出てくる『』はエルフ言語として見てください。

謁見の間で一寸した騒動があったものの、無事に石化した衛兵達の治療を命じられた俺は、宰相のクレイグ様、ギルドマスターのジェレミアさん、それに謁見の間で控えていた青い全身鎧を着こんでいる近衛騎士2人とともに、城の東側にあるという医務室へと向かっていた。


当初、石化の呪いを解呪するディスペルは自分の一族に伝わる秘術中の秘術(大嘘)という事にして、必要最小限での立会で治療するという事でお願いしたのだが、陛下曰く『何人なんびとかの妨害の恐れある』という事で近衛騎士2人の同行を示唆してきたのだった。


まぁ謁見の間での騒ぎの当事者ならば、誰が来るかはある程度予想できるのだが。


「クロウ殿、到着いたしましたぞ。此処が騎士、衛兵を含む26名の石化した者達がいる医務室です」


クレイグ様は自らの手で扉を開いた先にある部屋に俺とジェレミアさんを招き入れると、一緒についてきていた2人の近衛兵に対して『部屋の前で待機し、治療が終わるまで誰も中に入れるな』という指示を出していた。


背後で扉が閉まる音と鍵がかかる音を聞いた俺は改めて部屋の中を見渡すと、其処には所狭しと並べられた26個ものベッドに、其々今にも動き出しそうな姿勢で横たわっている石化した26人の男達の姿があった。


「それでは治療を始めます。クレイグ様とジェレミアさんには御手数ですが、治療を施す者が石化を解除した瞬間に暴れだす恐れがあるので確りと押さえていて頂きたいですが」

「分かりました」

「ディアスの時も行き成り走り出したからな。こっちは任せろ」


そうして胴体部分に手を翳す俺を中心として上半身をクレイグ様、下半身をジェレミアさんが押さえつける事によって治療が開始された。


そして俺も予め、無を司る精霊エストに教わっていた古代魔法ディスペルの詠唱を開始する。


本来は無詠唱で唱えることが出来るのだが、魔法に対して疎いジェレミアさんはまだしも、魔力が人間に比べて遥かに高いエルフ族であるクレイグ様が間近で見ている事から態々詠唱付きで唱えたのだった。


「彼の者の肉体を蝕みし悪しき呪いよ。浄化の光にて其の戒めを解き放たん『ディスペル』」


念のためにと詠唱の部分は人間の言語で『ディスペル』の部分だけはエルフ語で唱える。


俺がそう詠唱して僅か数秒後、不意に石化していた者の身体が白く輝いたかと思うとまるで卵の殻を内側から破る様にしてパラパラと石の破片が医務室の床に飛び散ってゆく。


予想通り、手や足ををバタバタとさせて暴れだそうとしていた男をクレイグ様とジェレミアさんが押さえつけていたのだが、上半身を必死に抑えているクレイグ様が信じられない物を見たとばかりに目玉が零れ落ちてしまうのではないかと思うほどに目を大きく見開いて俺を見つめていた。


『ク、クロウ殿、今の術はもしや……1000年前に失われし伝説の古代魔法【ディスペル】では!?』


石化していた男の上半身を押さえつけていたクレイグ様は、俺にのみ微かに聞こえるような小声でエルフ語で『ディスペル』の事を聞いてくる。

というかエルフ語を理解できる人間は俺以外に居ないのだから普通の声量でも良いのではないかと思うのだけれど。


『さすがはクレイグ様、その通りです。ですが、人の耳に入ると大騒ぎになる恐れがありますので如何か内密にお願いしますよ?』


特に学者連中に知られた日にはどうなってしまう事か……古代遺跡で戦っていた時に骸骨相手にディスペルを唱えていたけど、あの時はアニエスが遠くにいたから聞こえていなかっただろうし。


聞こえていたとしたら帰り道で根掘り葉掘り質問攻めにあっていただろうな。


『これが……この【ディスペル】こそがクロウ殿の一族に伝わっているとされる秘術なのですね。秘匿にされる気持ちがよく分かりました。この事はドラグノアの宰相の位に掛けて他に漏らさない事を此処に誓います』


ジェレミアさんにはギルドの奥の部屋でディアスを治療した際に公言しない事を、ギルドマスターとしての地位に掛けて約束してくれたから此処で改めて言わなくても良いか。


「ありがとうございます。さて残り25人、さっさと治療してしまいますか」


そして治療を開始してから約2時間が経過して20名の石化を解除し、残り6名となったところで危惧していた事態が起ころうとしていた。

城の廊下とこの医務室を繋ぐ厚い扉の向こう側でガチャガチャという音と何者かが言い争っている声が微かに聞こえて来ていた。


「話に……ん! 黙っ……を開……ろ」

「ですか……、何……も申し…………いるように……」

「いったい何の騒ぎだ? まぁ、ある程度は予想がつくが」


クレイグ様は俺とジェレミアさんにそう言い残すと医務室の扉に掛けられていた錠を外し、重い扉を開いてゆく。


「何事だ! 大事な治療の最中なのだぞ」

「はっ、ゲイザム殿が医務室の中に入れろと申しておりまして。陛下の許可を得ていなければ此処は御通しする事が出来ないと再三申して上げているのですが、聞き入れられずに」


医務室の扉とクレイグ様の陰になって何が起きているのか目で見る事はできないが、声だけで判断するに如何やら件の蝦蟇面男ゲイザムが此処に入室させろと駄々を捏ねているようだ。


「ゲイザム殿、何の御つもりですかな? 貴殿には医務室での立会は許可されてないはずでは?」

「クレイグ殿は何を仰っているので? 医務室に来る用事と言えば一つしかないではありませんか」

「何を?」

「帝国との戦争が近いという事で騎士達に混じって訓練していたところ、左肩に傷を負ってしまいましてな。このままでは業務に支障が出てしまいますから、ここは件の凄腕の魔術師殿に治療をして貰おうかと思いまして」

「ゲイザム殿、その程度であるならば態々此処に来ずとも、訓練所にいる魔術師殿に診て貰えば宜しいのでは? それともそれが出来ないわけでもあるのだろうか? たとえば石化の治療を妨害、もしくはクロウ殿に難癖をつけるとか?」

「な、何を訳の分からぬことを……とっとっと!?」


動揺を隠しきれない声で反論したゲイザムは、足を縺れさせて医務室に通じる扉をこっち側に大きく開かせてダイビングをしているかのように盛大に顔から地面へと倒れこんだ。


「何をしているか! さっさと私を起こさぬか。全く融通の利かぬ奴等よ……」


扉を護っている近衛騎士に言いがかりを付けた蝦蟇面男ゲイザムは散々文句を言いながら、此処までのやり取りは一体何だったのか呆気ないほどに元来た道を戻っていった。


「えっと……なんだったんだろう?」


独り言を呟いたつもりが同室内にいたジェレミアさんから返答が返ってきた。


「さあねぇ。ただ言えることは、ゲイザムが関わると碌な事が無いという事だけは言えるね」


クレイグ様やジェレミアさんのゲイザムに相対する言葉を聞く限りでは、何処に行っても嫌われ者であるという事実だけは確定しているようだった。


「全く、何かに掛けて面倒事ばかり起こす男よ。お待たせしましたな、治療の続きを致しましょうか」


その騒動の後、1時間かけて残りの石化した騎士達を治療し終えたところで最初に石化を解いた騎士が眼を醒ましかけていた。


「此処は……私は如何してこのような場所にいるのだ? 確か見た事のない魔物に相対していたはずだが」

「おおっ、目を醒ましたか。どうだ、今の気分は?」

「こ、これはクレイグ様。御見苦しい姿をお見せしてしまい申し訳ありません」

「良い良い。何処か身体に不調はないか」

「強いて言えば身体が何処か動きづらいという事でしょうか。まるで石にでもなっていたかのような」

「その通り。お前は『謎の魔物』のブレスを浴びて今の今まで身体が石になっておったのだ」


目が醒めた騎士はクレイグ様の言っている事が信用できないのか、何処か遠くを見ているような目で佇んでいた。


「目が覚めて直ぐで悪いのだが相対していた魔物の事、何処まで覚えておる?」

「記憶が途切れ途切れなので大した事は覚えていないのですが、見た事も聞いた事もない巨大な黒いスライム状の魔物だという事と、其の身体から突如出現した蜥蜴状の魔物の口から何らかの息が吹きかけられたという事ぐらいしか」


その後、続々と目を醒ましだした騎士達からクレイグ様が聞き出した情報を纏めると。


『城壁ほどの高さがある巨大な黒いスライム』

『そのスライム(?)にはどんな物理攻撃も通用しなかった』

『魔物の身体から突如出現した、蜥蜴みたいな魔物の口から妙な息吹を浴びせかけられた』

『魔物の身体から円錐状の針が飛び出してきて鎧の肩の部分を翳めた』


こう言った騎士の鎧の肩にはグリュードさんの鎧に出来た穴と同様の穴が出来ていた。


他にも『魔物の身体から出現した剣によって切られた』とか『氷のブレスによって盾が凍りついた』という色々な疑問を醸し出す意見が多く寄せられた。

話に統一性が無さ過ぎて、どうも別の魔物の情報も混じっているのではと思ってしまう。

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