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第55話 城からの依頼書

遺跡調査依頼の報酬を受け取りにギルドへと足を運んだ俺は其処でギルドマスターであるジェレミアさんに頼まれ、『謎の魔物』によって石化してしまったディアスを古代魔法ディスペルで元に戻したのだった。


石化状態から解放されたディアスは部屋の前で待機していた副ギルドマスターであるルディアによって別の部屋へと運ばれると同時に、ルディアは依頼書などで使われている羊皮紙を一枚ジェレミアさんに手渡していった。


ジェレミアさんはそれを指2本で目線まで持ち上げると、俺に『荒稼ぎをするつもりはないか』と言い放ってきたのだった。


「荒稼ぎですか? それは一体どういう事なんです?」

「クロウも聞いているかと思うが、街を襲ったという『謎の魔物』に石化させられたのはディアスだけではない。街の門を守護している衛兵や騎士、それから市民も含めて合計26名が石化して治療を待っている状態だ」


ジェレミアさんは其れだけを言い放つと、此処に来て漸く手にしていた羊皮紙を俺に見せる様にして裏返した。


其処には『石化の治療』と書かれ、報酬の欄には『50万G』との文字だけが書かれており、依頼のランクであるAやS、獲得GPなどは何処にも書かれてはいなかった。


「この依頼は昨夜、城から緊急の依頼として手渡された物だ」

「でも書かれているのは依頼内容と報酬のみで、ギルドランクやGPは書かれていないようですが?」

「それはランクに関係なく誰にでも受けれる様に、GPが書かれていないのはギルドに登録していない者にも呼びかけているためだ。其処で先ほどの事に戻るんだが、ディアスを治療した魔法を使って稼いでみる気はないか?」


確かにディスペルを使えば石化した人たちを元の姿に戻すことが出来るのだが、俺が失われた古代魔法を使うことが出来るのをあまり他の人たちに知られたくはない。

エルフ語で唱えるにしても城には一人、エルフ語を理解できる人物がいるし。


報酬の50万Gは勿体ない気もするが、どうしよう……。


「で? どうだろうか?」

「確かに言われるとおり、あの魔法を使えばディアスのように石化した人たちを治療することが出来ますが、出来れば古代魔法を使える事を周囲にあまり知らしめる訳には」


今現在、この事を知っているのはジェレミアさんとアニエス、それにパーティーメンバーであるイディアの3人のみ。俺が失われし古代魔法を使える事を知られると、どんな騒動が巻き起こるか想像もつかない。


「ですから、この話は無か《主様、少し宜しいでしょうか?》……ちょっと待ってください」


石化した人たちについては申し訳ないが、この話は断ろうと思っていたところで、内なる存在である無の精霊エストに念話で話しかけられた。


俺は暫く考えさせてほしいとジェレミアさんに言うと、椅子に深く座った状態で腕を組み目を瞑って考えている振りしながらエストの言葉に耳を傾ける。


《主様、申し訳ありませんが、この提案を受けて頂けないでしょうか?》

《どういう意味でそんな事を言っているんだ?》

《先ほどから話に上がっている『謎の魔物』について出来うる限り情報を集めたいのです。私の取り越し苦労であれば何の問題もないのですが…………》

《なるほどな。衛兵や騎士達が『謎の魔物』と戦って石化したのであれば、それなりの情報を得ていると考えているわけだな。人伝に聞こえてくる尾鰭おひれが付いている噂と比較すれば、可也信憑性が持てる情報という事か》

《流石は主様です。それに口では断るつもりでも、内心石化した人たちを心配していたのでしょう?》

《正義の味方になるつもりはなかったんだけどな……それで? もしも『謎の魔物』の正体がエストの想像していたものと合致していた場合、どういうことになるんだ?》

《……最悪、この世界そのものが滅亡する事になります》

《なっ!? 滅亡だと。回避する方法はないのか?》

《主様の膨大なる魔力をもってすれば、倒すことは可能です。目の前に出現すればの話ですが》


では、もしも此処で俺が治療を断っていたら『謎の魔物』の情報が得られずに世界は為す術なしに滅びていた可能性があるという事か。ならば俺の答えは出たも同然だ。


「ジェレミアさん、その依頼お受けいたします。手始めに何をすれば宜しいのでしょうか?」

「そうか! 受けてくれるか。だが古代魔法の事は如何するつもりなのだ? 自分からこの話を切り出しておいて何なのだが、あまり広めたくはないのだろう?」

「確かにそれはそうですが、26名もの人命には変えられません。なんとか理由をこじつけて、治療時の立会人を極小数にしてもらうように掛け合ってみようと思っています」

「そうか……すまない。そうと決まれば一刻も早く城に行き、交渉するとしよう」


こうしてギルドの個室内で2時間にも亘って続けられた話し合いは終了し、いざ城に向かおうとギルドの建物から出ようとしたところで、イディアを伴ったグリュードさんと出くわした。


2人とも斧や弓、鎧といった武器防具を身につけていない事から遠出をするつもりではないようだが、一応念のためにと聞いてみると如何やら『謎の魔物』が街を襲っていた時に2人とも別々の依頼を受けて街の外に出ていたらしいのだが、グリュードさんは何故か依頼対象であるウルフが見つけられずに依頼を失敗し、イディアも採取依頼であった薬草を手に入れたまでは良いのだが『謎の魔物』の攻撃からイディアの身を守って重症を負ってしまったグリュードさんを応急処置するために折角採取した薬草をしようしてしまい、依頼が失敗してしまったそうだ。


なので2人揃って依頼失敗の罰則金を払いにギルドにやって来たのだという。

逆にイディアからも俺が何故ジェレミアさんと一緒に行動しているのか問い詰められたが、遺跡調査時の別件で城に呼ばれていると答えておいた。


イディアは俺の言葉に対して何か思っている事があるようだったが、ジェレミアさんからの催促により逃げるようにして城へと向かった。


そして2人と別れて数分後、城門前へと辿りついた俺達は警備の衛兵と話していた。


「これはこれはジェレミア殿、城に何か御用でしょうか?」

「依頼にあった石化した者達を治療することが出来る魔術師を連れて来た。至急、陛下との謁見を求む」

「っ!? 了解いたしました。すぐに準備を致しますので、暫し城内にてお待ち頂きたい」


城の入口を警備していた衛兵は別の衛兵に俺とジェレミアさんを預けると、足早に城の奥へと走っていった。


そして俺とジェレミアさんは入口の衛兵に指示を与えられた別の衛兵に案内されて、城の中庭付近にある訓練所を横目に見ながら応接室へと足を運んでいた。


デリアレイグでの騒動でヴォルドルム卿の息子である、ラウェルが訓練しているはずなのだが何処にも姿を見つける事は出来なかった。此処とは別の場所で訓練に励んでいるのか、訓練に耐えきれなくなって既に逃げ出した後なのかは定かではなかったのだが…………。


「クロウ、これから陛下に謁見するに至って1つだけ注意事項がある。謁見の間にいるであろう防衛大臣、ゲイザムに気を付けろ。奴は自身が気に食わない者に対しては執拗な嫌がらせをしてくるからな」


ゲイザムか。確か前に一番最初にこの町に来て、ヴォルドルム卿とともに陛下に謁見した際に俺や宰相のクレイグさんに対して、舐めまわすかのような嫌な視線を送ってきた太った男がゲイザムと呼ばれていたっけな。


まぁ俺とセルフィを見て『下劣な』と口にした人物を、おいそれと記憶から削除する事は難しいが。


そして案内された応接室で待つこと十数分、部屋に短いノックと共に訪れた衛兵の口から『謁見の準備が整いました』という言葉が出た事から俺とジェレミアさんは此処からが本番だという意気込みで謁見の間へと向かうのだった。

 


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