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第52話 精霊より語られる歴史の真実

古代遺跡の最奥で出遭った無の精霊のいざないによって、夢と現実の境目にあるという契約の神殿に連れてこられた俺は、其処で無、火、水、土、風の精霊と契約する事となった。


契約自体は白を中心にして5個の赤、青、黄、緑の水晶に自分の血液を付着させることで完了となったのだが、目の前に居る無の精霊に聞きたいことがあった事から、現実に戻らずに話を聞いていた。


「ところで無の精霊……って、どうにも呼び辛いな。名前はなんていうんだ?」

「私達精霊に名はありません。主様の好きなように御呼びください」

「でも俺と古代遺跡で会った時に『1000年待った』と言ってた事から、1000年前には俺みたいな主が居たんだろ? その時に名を与えられなかったのか?」

「あの一瞬の時の事を憶えていらっしゃるのですね。確かに主様の言うように1000年前に私を含めた5人の精霊は、とある方に仕えていましたが…………」


目の前に居る無の精霊はそう言いながら俯いて言葉を濁した。

其のまま暫く無言の時が流れたが、ふと堰を切ったかのように話をし始めた。


「あの方は私達精霊をまるで便利な道具としてしか、見ておられませんでした。街や城を攻める場合は火の精霊の力を、何者かからの襲撃を受けた場合は土または風の精霊を使って一掃をという具合に、必要な時にしか私達をお使いになりませんでしたから。必要な時になるまで、このような対話すらありませんでした」


扱いが酷すぎる。剣とか槍とかと同様に、戦いの道具と精霊を一緒に考えてるんじゃないのか!?

先の話では魔力の波長が合った者しか、精霊を使うことが出来ないという事から、彼女ら精霊には拒否は出来なかったんだろうな。


「道具だなんて……人ではないにしても、精霊だって意志ある存在なんだから。契約は如何していたんだ? そんな主なら契約もしてくれなかったとかじゃないのか?」

「1000年前は、このような契約はありませんでした。前の主様の際の教訓で新たに契約の場を設けたのです」

「そうか。話は最初に戻るけど、何時までも無の精霊、無の精霊と呼ぶのは可也失礼になると思う。迷惑にならなければ、名前で呼びたいんだけど構わないだろうか?」


俺がそう言うと、目の前に佇む精霊は目の色(実際に目があるかどうかは見た目からは判断しづらいが)を変えて興奮した様子で鸚鵡おうむ返しに聞き返してくる。


「主様が私達に名を授けてくださるのですか!?」

「君たち精霊が迷惑と思わなければなんだけど」

「迷惑だなんてとんでもない! 是非お願いいたします」

「わ、分かった。じゃ、考えるからちょっと待ってて」


嗚呼は言ったけど、名前を考えるのは苦手なんだよな。元の世界でゲームをする時でも適当に『はしもと』とか『なかむら』、『さとう』って名付けてPLAYしていたからな。

『ポチ』とか『タマ』は流石に不味いし。


自分が無の精霊に逢う事となった古代遺跡に行く切欠となったのは、ギルドマスターであるジェレミアさんに『同行するはずだった治療魔術師が行けなくなったので代わりに来てほしい』というものだった。


もし遺跡に行くことがあらかじめ決められていた運命だとすれば……この無の精霊に、運命(Destiny)をもじって【est(エスト)】を……って流石にありきたり過ぎるかな?


「【エスト】なんてのは如何かな。俺が居た所で運命を現す言葉から抜き出したんだけど」

「エストですか?」

「古代遺跡に俺が行ったのが運命なら、其処で無の精霊に逢えたのも運命かと思って【エスト】と名付けようと思ったんだけど」

「エスト……私の名前はエスト。主様、ありがとうございます!」


目の前に立つ光の人型である無の精霊エストは自身の両腕で、自分で自分の身体を抱きしめるかのように腕を組むと床に倒れこむようにして両膝をついた。


「お、おい」


俺は何かあったのかと思い、急いで駆け寄ってエストを抱き起そうとするが俺の手はエストの身体を掴むどころか触れる事すらできないまま、空を切るのだった。


「主様、御手数をおかけして申し訳ありません。ですが心配はいりません。名を付けて貰えたことが大変嬉しかったため、腰が砕けてしまったのです」

「全くもう。何かあったのかと吃驚したじゃないか」


その30分後、姿勢を整えたエストが不意に言葉を投げ掛けてきた。


「主様、先程何か私に聞きたいことがあると仰っていましたが、何だったので御座いましょうか?」

「そう言えばそうだったな。契約するときに火、水、土、風の精霊と言っていたのが少し気になって、聞いてみようと思っていたんだ」

「私に分かる事でしたら、なんなりとお聞きください」


俺はデリアレイグの図書館で見た、召喚魔法が書かれていた本の内容を聞いてみる事にした。


「気分を害してしまうかもしれないけど、最後まで聞いてほしい。俺がこの王都ドラグノアに来る前に足を休めていた、デリアレイグという町の図書館で召喚魔法の事が書かれた本を読み、更に一緒に古代遺跡に出かけた学者であるアニエスから【火の魔神、水の魔神、風の魔神、土の魔神、世界を滅ぼし、時の賢者、之を封印せし】という話を聞いていたんだけど。精霊も火、水、土、風と魔神と同じ属性みたいだから、何か関係があるのかと思ったんだ」

「なるほど。あの時の事を人間はそのように解釈して、現代に語り継がれていたのですね。主様の言われる通り、火の魔神は火の精霊、水の魔神は水の精霊、土の魔神は土の精霊、風の魔神は風の精霊で相違ありません」

「1000年前、エスト達に何があったんだ? 見た感じでは世界を滅ぼすような存在には見えないんだけど」

「少し話は長くなりますが、精霊と契約した人間は精霊と同化する事により精霊の力を使うことが出来るようになります。従って、火の魔神は前の主様が火の精霊と同化した姿という事になるのです」


そんな…………前のエスト達の主は世界を滅ぼそうとまで考えていたのか。


「当時の主様も一人の研究者として一時期は国の為、世界の為と頑張っておられたのですが何時しか強大な力に意識を飲み込まれ、自身が世界を統一するという野心に芽生えてしまわれて精霊と同化して魔神となり、一時世界を滅ぼそうとまで考えてしまったのです」


精霊という並外れた力を手にした者は、自身の力を勘違いして世界を滅ぼそうと画策したという訳か。でも最後に【時の賢者、之を封印せし】の記述があることから、それ以上の力を持った何者かが居たという事になる。


「4体の魔神を現すつづりは理解したけど、最後の【賢者】というのは何を現すんだ? 世界を滅ぼす魔神という存在以上の何者かが居たという事になるんだろ?」

「其処の所は私も未だ理解できないのですが、天から一筋の光と共に現れた方が腕の一振りで魔神となって暴れていた主様を光輝く球に封印し、何事もなかったかのように何処へと飛び去ってしまったのです」

「飛び去った? 1000年前は誰でも空を飛ぶ事が出来たのか?」

「いえ、風の精霊と同化しているならいざ知らず、普通の人間は空を移動することなど出来はしません。背に翼を持つ、有翼人であれば考えられなくもないのですが見た感じでは翼のような物は見受けられませんでした」


それで【火の魔神、水の魔神、風の魔神、土の魔神、世界を滅ぼし、時の賢者、之を封印せし】か。


火、水、風、土の魔神は精霊と同化して力を得た人間。時の賢者は精霊の加護無しに空を駆る正体不明の人物か。

1000年前の歴史の当事者ともいえる精霊からの説明なんだから信憑性はあるものの、天から現れた謎の人物、歴史書に於ける時の賢者か。一体何者なんだろうな。


エストとの契約を果たし、気になっていた魔神達の綴りを聞けた俺はエストの力によって契約の神殿を後にすると、現実世界へと戻ったのだった。


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