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第50話 学者アニエスの珍事

古代遺跡の野営地を出発して丸1日が経過した最初のキャンプ地で俺は見張りをしている最中、ジェレミアさんに話しかけられた。


「高々古代遺跡の調査護衛でこのような大事おおごとに巻き込まれるとはな。思えば、今日1日で色んな出来事が巻き起こったものだ」

「死人兵と戦って疲れている上に、御者の真似までさせて申し訳ないです」

「いや構わんよ。ただ、クロウが居た御蔭で我等の命が救われたというのは何処か面白いと思ってな」

「面白い…………ですか?」

「最初、我等に追従するはずだった魔術師が体調不良で来られなくなった代わりに、たまたま街に居合わせたクロウを臨時でパーティーに誘い、ともに遺跡を調査。更に古代魔法なるものを行使して弓を作り出し、仕掛けを解除したり、炎の罠から身を守ったり、多量の書物を収納したり、死体兵の動きを封じたりとクロウが居なければどれも達成する事が出来なかった。感謝している」


ジェレミアさんはそう言うと胡坐をかいた状態で深々と頭を下げてくる。 


「そんな、やめてくださいよ。俺は俺の置かれている役割を全うしたに過ぎないのですから」

「だが噂に聞く非道なる行いをしている帝国に、クロウが操られる恐れがあるかと思うと気が気でならないのだ」

「それは大丈夫です。俺は操られませんから」

「なに? どういう事だ?」

「とある方から聞くところによると、魔力で人を操るには一定の法則があるそうなのです。それは魔力値が高い者が魔力値の低い者に対して一方的に行使するというもの。従って魔力値の低い者が魔力値の高い者を操る事は到底不可能なんです」

「そんな事は初耳だ。一体誰に聞いた?」

「あの方の身の安全の為に此れだけは言えません。強いて言うならば、人間以外の種族の方という事だけですね」

「なるほど、エルフ族か」

「其処は敢えて言いませんが、あの方曰く『この世で一番魔力が高いと言われている我等種族よりも、人間族であるお前の方が魔力値が高い』という事らしいです」

「なるほどな。魔力では(・・)操られないという事か」


この分だと俺が何をされたら帝国に操られることになるか、ジェレミアさんには分かったようだな。

流石Sランク冒険者。流石ギルドマスターというところか。年の功って言ったら怒られるだろうな~~~。


「見張りは俺がしておくので、ジェレミアさんは休んでください。ジェレミアさんが居ないと、馬車は此処から動かないんですから」

「そうさせてもらおう。何かあれば遠慮なく起こしてくれて構わんからな」


ジェレミアさんはそう言うや否や、その場で身体を横たえて眠りについてしまった。

女性でありながら無防備というか何というか…………。


まぁ襲おうという気はないし、もし襲ったとしても俺の身が危険に晒されるだけだしな。


因みに学者のアニエスは安全な馬車の中で静かに寝息を立てている。

そう言えば俺の身体に入ってきた存在の事を聞かないとな。


《まだ起きてるか?》

《何時まで経っても御声を掛けらないので、忘れられたかと思いましたよ》

《結局、お前は何者なんだ? 本体があの宝石なのか、それとも宝石に封じられていたのかは分からないが人ではないのだろう?》

《お待ちください。1つずつ順番に説明いたします》


心の中の謎の存在はフゥと溜息の様なものを付くと説明をしだした。


《まず最初に私は主様が言うように人の身ではありません。寧ろ精霊といった方が分かりやすいかと存じます》

《精霊? 火とか水の精霊っていう奴か?》

《そう思って頂いて結構です。強いて言えば、火、氷、風、土の四大精霊は私から派生した存在です》


精霊を生み出した精霊って、ファンタジー的に考えたら精霊王って事になるんじゃないか?


《流石は主様、その通りです。改めて名乗りましょう。私は無の精霊、名前は主様が決めてください》


心の中で考えただけでも、相手に伝わってしまうのか。


《それにしても、目で見えない存在と会話するのって可笑しな気分だな。姿を見せる事は出来ないのか?》

《それには主様との魂の契約が必要となります》

《魂の契約? それは此処では無理なのか?》

《はい、残念ではありますが。主様が安心して眠られて、夢を見て下さらないと契約に移行する事は出来ません》


じゃあ此処じゃ無理か。寝ずの番をしなければならないから、睡眠はおろか夢を見る暇さえない。


《馬車でもう少し進めば俺が拠点にしている街に到着するから、その時に魂の契約とやらをしよう》

《はい。その時をお待ち申し上げております》


そしてジェレミアさんが寝息を立ててから5時間が経過したが、運よく魔物に襲われることが無いまま朝を迎える事が出来た。


翌朝、朝食時にジェレミアさんに此処からドラグノアまではどれくらいの距離があるのか聞いてみたところ。


「そうだな。馬の調子が良ければ1日半で到着するだろう。休憩を挟みながらであっても、2日もあれば到着すると思われる」

「では此処で出発する前に異次元空間に収めてある書物を馬車に積み込みましょう」

「城に到着してから出すのではなかったのですか?」


アニエスは朝食となる果物を両手で持って、小動物の様に少しずつ噛り付きながら俺に聞いてくる。


「それでも良かったんだけど、城だと何処に眼があるか分からないからね。俺は古代魔術の存在を誰にも知られたくはないし」

「でも、そうすると私達の座る場所がなくなるんじゃ…………」

「やってみないと分からないけど、空間内に収めた本の量と馬車の大きさとを比べると人一人はなんとか座れるスペースがあるんじゃないかな。もしなかったとしても、御者席に3人詰めて座れば良いんじゃないかと」

「試しにやってみようじゃないか。もし出来なければ、また別の方法を試してみれば良い」


その後、2時間ほどかけて232冊という大量の本とリビングアーマーの刻印が書かれている鎧の破片を馬車に積み込んだ結果、丁度1人分のスペースを空けて全て馬車の座席内へと積み込むことに成功した。


そして俺達は空いたスペースにアニエスを乗せて、俺はジェレミアさんとともに御者席に座って出発したのだが。


「一応は何とかなったが……あれで大丈夫なのか?」


座席内に積んだ本は馬車の後ろに括り付けてある荷物を解いた縄で、崩れない様にしてあるが問題はアニエスの方だろう。


学者であるアニエスは積まれてる本を1冊手に取って一心に読みふけっているが、いつ何時なんどき別の本を手に取るとも限らない。

生き埋めになってしまう事を懸念して口を酸っぱくして注意を促したが、当人のアニエスが本の誘惑に耐えられるかどうかが心配だ。


その後、特に魔物に襲われる等といった問題は起こらなかったのだが、馬車の座席内でアニエスが本の雪崩によって生き埋めとなり、それを助け出すのに数時間が必要となったのだ。


彼女曰く、下の方に積んであった本の中身が気になったので引き抜いたところ、一気に崩れてきたという。

しかも、それが1度ならず2度3度あった為に、要救出要整理のタイムロスが重なり、ドラグノアに到着したのは最初のキャンプ地から3日後の昼頃となってしまったのだ。


街の門を守護する衛兵が見たのは眉間に深い皺を寄せて視線だけで人を殺せそうな鋭い目つきで馬に鞭を入れるジェレミアさんと、馬車の中で本に囲まれた状態で頭にたんこぶを作りながら泣きべそをかいているアニエス、それに疲れ果てて脱力している俺の姿だった。


「ん? 何かあったのか。衛兵がやけに慌てているな」

「本当ですね。それに衛兵の人数が何時もより多いような気もします」


ジェレミアさんに言われて街の門を見てみると、右往左往して走り回っている衛兵の姿が見て取れた。


石畳の地面には血の跡が点々と街の中に向かって続いてるし。

地面には城壁の物とは違う、人の身体の一部にも見える石の欠片が散らばっている。

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