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閑話 ドラグノアに忍び寄るモノ

この話はクロウのパートナーである、イディアの視線での物語です。

私のパートナーであるクロウがギルドマスターのジェレミアさんとともに古代遺跡調査の護衛依頼に行ってから今日で4日目、私は単独で【ランクD ポーションの材料となる、薬草20株の採取 報酬:4000G GP:20】という依頼を受け、街から3日かけて帝国との国境近くにある森へとやって来ていた。


当初は街から出ることが出来なくなった妹エリスを手伝って、Fランクの依頼をこなす予定だったんだけど『Fランクの依頼くらい、一人で出来るから心配しないで』と協力を断られてしまった。


「ふぅ、これでやっと20株揃ったわ。しゃがみっ放しで腰が痛い…………って今の誰かに聞かれなかったかしら。筋肉馬鹿グリュードにでも聞かれようものなら、また馬鹿にされるわ」


基本的に採取依頼はEランクの仕事になるのだが、この薬草が採れる森はウルフの発生率が高いため、Dランクの依頼に格上げされている。


だけど、可笑しな事に私が森に入ってから半日近くが経過しているというのに、ウルフどころか虫の声1つ聞こえてこないのが不気味でしかなかった。

おまけに森自体が日光があまり入って来ない、鬱蒼と茂った深い森である事も私を不安にさせていた。


「いけないいけない。こんな所でボーっとしてたら、どうぞ襲ってくださいと言っているような物だわ。此処での用は済んだんだし、急いで街に戻らなくっちゃ」


私は自分自身に強くそう言い聞かせると、若干駆け足となって森の外へと歩き出した。

草をかき分け、周囲を目でみはりながら森を進み、なんとか森の外に出られたところで私は最も出会いたくない人物と接触してしまった。


「きゃっ!? って何処見て歩いてんのよ。この筋肉馬鹿!」


私が森を出たところでぶつかってしまったのは、不覚にも長い間同じ宿で泊まっているグリュードこと筋肉馬鹿の姿だった。

あれ? 筋肉馬鹿ことグリュードだっけ? まぁどっちでも良いか。


「テメエからぶつかって来て、なんだその言いぐさは! この貰い手のない阿婆擦れ女が」

「なんですって! もう一度言ってみなさい。大体、なんであなたが此処に居るのよ」


如何してグリュードと顔を合わせると、こうも腹立たしい気分になるんだろう。

どうもこの顔を見ていると、文句のひとつも言いたくなってしまう。


「俺はウルフを討伐しに此処に来てるんだ! 何故か一向に見つからないがな」

「あなたの探し方が悪いんじゃなくって?」

「うるせえな。そういうテメエこそ、こんな所に1人で来て何やってんだよ。クロウの奴とは一緒じゃねえのか?」

「クロウは指名依頼を受けて街を離れてるから、私1人で依頼を受けて此処に来たのよ。何か悪い?」

「誰も悪いなんて言ってねえだろうが! くそっ、気分わりぃな」


その後、何時までも筋肉馬鹿に構っていられないと、この場を後にした私だったんだけど……。


「ちょっと、付いて来ないでよ」

「帰る方向が一緒なんだ。仕方ねえだろうが」

「ウルフを討伐しに来たんじゃなかったの?」

「情けねえ話だが、持ってきた食料が底をついちまってな。一旦街に帰って補給しなけりゃならないんでな」

「一応聞いてみるけど、何日此処に居たの?」

「……ざっと5日ってとこだな。それにしてもどうなってんだ? 前なら態々探しに行かなくても向こうから襲って来たってぇのに、ウルフどころかゴブリン1匹すら見当たらねえじゃねえか」

「確かに変ね。私も其処の森の中で半日に渡って薬草を採取してたけど、虫どころか鳥の鳴き声1つ聞こえなかったわ」

「ウルフやゴブリンなら先に誰かに狩られたと納得できるが、虫や鳥が居ないとなると…………こりゃ只事じゃねえな。一刻も早く街に戻って、調査隊を出して貰わねえと」


グリュードの言っている事は理解できる。魔物の討伐程度の問題であれば私達冒険者だけで事足りるが、これがもし帝国からのドラグノア襲撃の前触れともなれば、一冒険者ではとても手に負えない。


しかも此処から街までは歩いて3日、全速力を維持して丸1日走る事が出来たとしても2日はゆうに掛かる。

馬があれば話は別だが、無いもの強請ねだりをしていても仕方がない。


私とグリュードは仕方なく臨時でパーティーを組むと必要最低限の食事、睡眠を交代でとって2日半で街の手前へと到着する事が出来たのだが、街の門付近で誰かが戦っている声や音が聞こえてきた。


しかして間に合わなかったのかと想いながらも、私達も加勢するべく街の門へと急ぐと、其処には此れまで見た事も無い巨大な漆黒の魔物1体が衛兵と戦っていた。


街の門と同じ大きさのある魔物など、SSランクの巨獣ベヘモス以外に考えられないが、アレはこんな所に居るはずがない。


「あ、あれは一体何なの?」

「俺が知るか! ただ、このままじゃ不味いという事は確かだ」


街の外周には魔物避けの結界が張られてはいるものの、其れがあるから100%安全とは言い切れない。

こうして考えている間にも巨大な魔物の突進で何人もの衛兵が宙を舞い、街の結界からはピシっピシっと嫌な音が聞こえてきている。


「この野郎!」


この現状に居てもたっても居られなくなったグリュードが斧を振りかぶって謎の魔物に斬りかかったものの、謎の魔物には傷一つ付かないどころかその身体が空気であるかのように何の抵抗もなくすり抜けた。


「なんだと!? どうなってやがる」


理解不能な出来事に一時的ながら放心していると街の方から騎士の鎧を身に着けた魔術師が【ファイア】の魔法を謎の魔物に向かって放っていた。

魔法が直撃した瞬間、微かな呻き声を上げたもののダメージは少ないようだ。

それどころか黒い靄で出来た体の中からコボルトに似た魔物が一体出現し、周りにいた冒険者へと襲い掛かる。


「魔物から別の魔物が生まれるなんて聞いた事ない!」


グリュードが新たに出現したコボルトに斧を振り下ろしたところ、死体は残らずに黒い液体状となって地面に吸い込まれていく。


どうやってこの魔物に対応すればいいか考えていると、城壁の上にいた弓を持った衛兵に話しかけられた。


「其処の冒険者! あまりコイツに近づくな。此れまでにも何人もの兵士が意識不明に陥っている」

「どういうことですか!?」

「コイツの息吹ブレスを浴びた者は身体を石にされたかのように身動きが取れなくなってしまうんだ。しかも物理攻撃では傷一つ付けられず、魔法を放っても新たな魔物が出て来るわで為す術が無い」

「だが見た事がねえ魔物だが生き物である以上、攻撃すれば弱っていくんだろ?」


城壁の上の衛兵はグリュードの声に黙って首を横に振ると、こう付け加えた。


「此れが生き物であるか如何かすら怪しい。その証拠に生き物の弱点であると思われる頭部に剣や槍を突き刺したところで、まるで怯む様子がない。それどころか…………!? 来るぞ、気を付けろ!」


衛兵が何を言っているのか、何に気を付けろと言っているのか分からなかったが、突然魔物の身体が光ったかと思いきや、身体から細い針状の物が伸びてきて周りに居た衛兵たちを次々と串刺しにしていった。


魔物の身体から伸びた針状の物は私をも貫こうとしていたが、私は突然の事で足が竦み動けずにいた。


「馬鹿野郎! 何してやがる」


そう声が聞こえた瞬間、私の身体は横から衝撃を受けて気が付いた時には地面に倒れこんでいた。


「い、一体何がっ!?」

「魔物と相対しているときにボーっとしてんじゃねえよ……ガハァ!」


地面に手をつきながら振り返った私の目に飛び込んできたのは、先程まで私が立っていた場所で全身を鋭利な針状の物で貫かれているグリュードの姿だった。


グリュードは身体に鋼鉄製の鎧を着こんではいるが、其れがまるで紙装甲と言わんばかりに何の抵抗もなく貫いていた。


「な、なんで? なんでそんなになってまで私を助けたのよ!」

「し、知らねえよ。お前なんかを助ける気なんざ、更々なかったのにどうしてだろうな……身体が勝手に動いちまった」


グリュードは其れだけ言い残したところで力なく倒れこんでしまう。

その後、謎の魔物が針を引っ込めたところでグリュードを含めた何人もの衛兵が、地に倒れる音が周囲に鳴り響いた。


そして次は私の番かと思ったその時、何処からともなく『ピィーーー』という音が聞こえて来たかと思えば、次の瞬間にはあれほどの猛威を振るっていた謎の魔物が、最初から其処には存在していなかったかのように姿がかき消えてしまったのだった。


私的には今あった事が夢か幻だと思いたかったが、目の前で身体の彼方此方から血を流して倒れているグリュードを見て、これが紛れもなく現実にあった事だと思い知らされた。


その後、城から派遣されてきた回復魔術師の手によって騎士、衛兵、冒険者、一般人など関係なしに重傷者から順に治療されていった。


其の御蔭でグリュードは出血量は多いものの一命を取り留めることが出来、今は意識が戻らない状態で私達が宿泊している宿屋へと運び込まれている。


「クロウ、早く帰ってきて……何故か貴方なら、この事態を何とか出来ると思うから」


私は宿屋から1歩外に出たところで、クロウがジェレミアさんと共に馬車で向かった方向へと手を合わせて祈り続けるのだった。


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