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第46話 遺跡の罠

古代遺跡前のキャンプで英気を養った俺とジェレミアさん、それに学者のアニエスは意気揚々と遺跡に足を踏み入れたのだが、入って直ぐの所で床に夥しいほどの白骨死体が転がっている場所へと辿り着いたのだった。


「これは何という事だ」

「酷い!」

「侵入者を奥へ行かせないための罠か。壁や床に無数の穴が空いている事から、闇雲に進んでも何らかの罠によって此処に転がっている白骨死体の仲間入りをするだけだな」


俺はどんな罠が仕掛けられているか確認すべく、足元に転がっている人骨を拾って通路に投げつけてみると、投げた骨が床に落ちた瞬間に左に空いた穴から一斉に槍が飛び出してきたかと思えば、反対側の右の穴に吸い込まれるようにして消えていった。試しにもう1度やってみると、今度は右の穴から槍が飛び出して、左の穴に消えていく。


「1回槍が飛び出したら、それで終わりではないのか。如何すれば先に進めるのだ?」


罠が仕掛けてある通路は横幅が約5m、奥行きは100m、高さは3m弱というところか。


床を足で踏むか、もしくは何らかの衝撃を与えた場合、壁に無数に空いた穴から槍が飛び出す仕組みになっているようだ。


だからといって、100mもの距離をジャンプする事は到底不可能だ。


「古代の人間は空を移動できたとでもいうのか…………」

「いや、恐らく何処かに仕掛けがあると思いますよ? そうじゃないと、罠を作り出した者が自分で作った罠に自分で引っ掛かって命を落としてしまうかも知れないですからね」

「素早く移動すれば走り抜けられると思うか?

「多分無理でしょう。自分たちが今立っている位置から、遠く離れたところに倒れている白骨死体がその証拠です」


俺達が立っている場所から約5mほど離れた場所に白骨化した肋骨の隙間に2本の槍が突き刺さった死体が転がっている。

恐らくはジェレミアさんがやろうとしたことを実行した結果がアレだろう。


俺達と一緒に遺跡に入ったアニエスも罠の事を調べようとしているのか、先程の俺と同じように床に転がっている人骨を恐る恐る拾い上げては床の上に放り投げて、槍の出方を見ている。


『カチッ』


ん? 何か床に骨が落ちる音や槍が飛び出る音とは違う機械的な音が聞こえたような気がする。


「ジェレミアさん、ちょっと確かめたいことがあるので、口を開かずにそのまま動かないでください。アニエス、さっきと同じように人骨を床に放り投げて罠を作動させてくれるか?」

「は、はい、分かりました。行きますよ、それっ!」


そう掛け声をかけながらアニエスが投げた骨は、放物線を描いて床に接触する。


その瞬間、床に骨が落ちる『カンッ』という音と共に『カチッ』という音が通路の奥で鳴ったかと思えば、床に骨が落ちて1秒も経たないうちに槍が飛び出してくる。


「やっぱり。この通路の何処かに罠を作動させる仕掛けがあるようです。その仕掛けを如何にかして解除する事ができれば」

「此処を通り抜けられるという事ですね」

「そういうこと。何処か他の壁とは違うところ、もしくは出っ張っているところを探してください。其処を何とかすれば、通路を進めるはずです」

「分かりました」

「任せろ!」


その後、3人がかりで通路の至る所を白骨を隅に寄せながら探した結果、通路の一番奥。俺達が立っている場所から約200m程の所にある壁に出っ張りのような物を見つける事が出来た。


「位置が微妙だな。石を投げて運良く届いたとしても、その程度の衝撃で罠が解除できるかどうか」

「もしかして、弓を使ったら届くんじゃないですか?」

「試しにやってみるか。外に居る衛兵に弓を借りてくるから、ちょっと待っててください」


そう言って俺はジェレミアさんとアニエスにくれぐれも無茶な真似はしない様にと言いつけると、外に居た遺跡警備の衛兵に事情を説明して弓を借りてきた。


そして3人の中で唯一、この手の弓を使ったことがあるジェレミアさんに仕掛けを狙って矢を打って貰ったのだが、何回打っても矢は仕掛けのある壁には届かず、飛距離は良くて70mというところだった。


「駄目だ! この弓では届かない。弓の代わりにクロウの魔法を使う訳にはいかないのか?」

「それも最初に考えていたんですが、俺が使える魔法では下手をしたら遺跡ごと崩壊させてしまう恐れがありますから。そのなったら目も当てられなくなります」

「そうか。此処に長弓ロングボウさえあれば、楽々届くのだが…………」


確かに以前、本で読んだロングボウでなら、楽々届く。

外に居た兵士たちの装備をパッと見で見る限りでは長弓は見受けられなかった。


やろうと思えば【マジックウェポン】で精製できるが、あまり大っぴらに使っていい物ではないし。

特に古代魔法や古代遺跡の事に対して詳しい、アニエスの前では尚更だ。


「此処まで来て、何も出来ずに帰るしかないのでしょうか。古代召喚魔法の謎を解き明かすという夢が此処でついえてしまうのでしょうか」


うっ!? アニエスの今にも泣きそうな顔を見ていると、何となく罪悪感が。

そう考えていると、何故かジェレミアさんが耳打ちしてきた。


「クロウの表情を見ていると何か方法があるものの、何らかの訳があって隠している。そんな風に見えるのは私の気の所為か?」


鋭い! 流石はSランク…………なのか?


「もしも仕掛けを解く方法を知っていて故意に隠しているとなると、私はクロウに後程然るべき罰を与えねばならなくなるな」

「罰ですか?」

「そうだろ? クロウが方法を言わなかったばっかりに依頼は失敗となり、ギルドの信用は地に落ちるのだからな。其れ相応の罰を科すのは当然の事だろう?」


完全に脅し文句だな。ギルドでエティエンヌとディアスがジェレミアさんに罰を与えられている現場を俺も見ているから、笑い話にもならんし。

覚悟を決めるしかないか、2人とも口が堅ければ良いんだけど。


外に居る兵士から借りた事にして持ってくる事も考えたが後で調べられてしまうと、其れこそ言い逃れが出来なくなるし。


「もう、分かりましたよ!」


俺は完全に諦めモードになった事で声を大にしてそう言うと、ジェレミアさんは薄ら笑いを浮かべ、アニエスは突然俺が大声を張り上げた事で吃驚して床の罠に足を踏み入れそうになっている。


「ただ、此れだけは守ってください。此処で見聞きしたことは、絶っっっっ対に外部に漏らさない事を」

「分かった。ドラグノアギルドマスターの名に於いて、此処で見た事は一切外部に漏らさない事を此処に誓う」

「わ、私も分かりました。絶対に誰にも言いません! 此れでも口は堅い方なので」


いや、一番の心配はアニエス本人に知られる事なんだけど……まぁ良いか。もう破れかぶれだ。


「其処まで誓ってくれるのであれば、俺も覚悟を決めます。少し待っていてください」


そう2人に断わると頭の中で、以前本の中で見た全長が2m近い長弓を細部にわたって頭で想像する。


「【マジックウェポン】タイプ、ロングボウ!」


そう唱えると俺の手の中に想像した通りの巨大な弓が出現する。

【マジックウェポン】を使用した事で、アニエスは何処か遠いところに視線が行き、ジェレミアさんも表情はいつも通りだが、視線は突然出現したロングボウに釘付けとなっている。


ただロングボウは見かけも然る事ながら、これを引く力も相当なものだ。

チートな力を持っている俺なら難なく扱えるとは思うが、俺の腕であの小さな的に命中させることが出来るかどうか。


そう考えている間に、俺が持っていたロングボウは何時しかジェレミアさんの手の中にあった。


「この重さといい感触といい、私が以前使っていた物に良く似ている。弓はあるとして矢は何処だ。ぜひ私に打たせてくれ! 頼む、この通りだ」


ジェレミアさんはギルドで一番偉い役職に就いているにも拘らず、一介の冒険者であるはずの俺に恥も外聞もなく深々と頭を下げている。


「分かりました。どっちみち俺程度の腕前では的に当てる事はおろか、まっすぐ飛ぶかすら怪しいので経験者であるジェレミアさんに全てお任せします。これが矢です」


俺は魔法で具現化させたやじりが付いている矢の先端部を剣で斬り落としてジェレミアさんに手渡すと、未だに精神が何処かに行ったままのアニエスを連れて邪魔にならない所に移動する。


勢い余って鏃で仕掛けを破壊されると、それこそ如何しようもなくなる為だ。


ジェレミアさんは俺の手から弓と矢を受け取って周りを確認すると、いとも簡単に軽々と弦を引き絞り、200m先の壁の出っ張りに向けて矢を放った。

ロングボウから打ち出された矢は、目標から僅かに逸れた場所へと当たり、石壁に跳ね返されて床へと落ちる。


「もう1本頼む」

「分かりました」


俺はそう言って新たに出現させた矢の先端部()を、先程と同じように切り落としてジェレミアさんに渡す。


その後、このやり取りを5回繰り返したところで、漸く矢は出っ張りに突き刺さった。


『ゴゴゴゴゴッ…………』


矢が命中した次の瞬間、槍が飛び出す仕掛けがある無数の穴が空いた左右の壁の前に厚さ10cmくらいの壁が左右の隙間からり出してきて、完全に穴は塞がった。


その後、確認するために恐る恐る仕掛け床の上に足を踏み入れたが、罠が作動する事はなかった。


罠が解除された事で俺達3人は、やっと先へ進む事が出来たのだがアニエスはその後、約30分が経過して我に返り、俺が長弓を出現させたことを執拗なまでに問い詰められたことは言うまでもない。


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