第44話 ギルドマスターからの依頼
後味が悪いながらもゴブリンの討伐を終えて、ギルドから報酬を貰った俺とイディアはその後何もする気が起きずに宿屋に戻ろうとしてギルドの扉に手を掛けたところで、ギルドマスターであるジェレミアさんに声を掛けられた。
「おっクロウ、丁度良かった。ちょっと頼みがあるんだ、悪いけど、奥の部屋まで来てくれないか?」
「えっと、イディアは如何します?」
「う~ん、出来れば遠慮してほしいところなんだけど……パーティーを組んでいるんだったね。なら無関係とはいかないか、しょうがない。一緒に来なよ」
俺はイディアと面と向かって『ギルドマスターの頼みって何だろう?』と思いながらも、待たせては拙いと早足でジェレミアさんを追いかけて奥の部屋へと入った。
例のエティエンヌとディアスが怒られていた部屋に足を踏み入れた途端にジェレミアさんが話しかけてきた。
「私は明日の朝から6日間、Aランクの護衛依頼で城の学者と街から馬車で3日ほど行ったところにある古代遺跡に行く予定になっているんだけど、一緒に来てくれるはずだった魔術師が今日になって『やっぱり行けない』と断わって来てね。一緒に行けなくなったんだ」
「なんとなく、言いたいことが分かってきました」
「なら話が早いね。クロウには一緒に行けなくなった魔術師の代わりをしてほしいんだ」
「でも俺はついさっき、Dランクに昇格したばかりですよ? 確かギルドの規約ではAランクの依頼を受けるのは最低でもBランクに達してなければならない筈だし、Aランクの依頼は俺には荷が重すぎます」
「別に戦えっていう事じゃないよ? 来れなくなった魔術師の代わりに回復役として付いてきてほしいんだ。それに私はSランクだしね。パーティーの中に一人でもBランク以上が居る場合は、規定に当てはまらなくなるのさ」
「という事は俺とジェレミアさんと俺が臨時でパーティーを組むという事ですか?」
「早い話がそう言う事だね」
と、此処で今まで一言も喋らずに俺とジェレミアさんの話を聞いていたイディアが声を大にして言い放った。
「先の騒動の時に、ギルドマスター自らがクロウをパーティーに誘ってはならないと豪語したはずです! 自分で決めた事を自分で破る御つもりですか!?」
「ハァ~~だから関係ない奴を連れてきたくなかったんだよ。こうなる事は目に見えていたからね」
ジェレミアさんはそう言うと、頬杖をつきながら溜息をつくと恨めしそうな顔で俺を見ていた。
「な、なんですか、その眼は?」
「はぁ、クロウの考えは如何だい? クロウが嫌だって言うのなら、この話は此処でなかったことにするけど」
「俺はどちらかと言うと、その古代遺跡とやらに興味があります」
「じゃあ良いんだね!」
「ただ、Aランクという自分にとって未知のランクに俺が何処まで力になれるのか、それが心配なんです」
「それは心配しなくても良い。本来の私の護衛対象は、学者とそれに同行する魔術師なんだ。クロウは何も心配せずについて来て、何かあった時に治療だけしてくれればいい」
此れをみて判断してほしいという事で、ジェレミアさんは俺に依頼書を見せてくれた。
其処には【ランクA 古代遺跡を調査する学者、及び治療魔術師の護衛 報酬100,000G 150GP】と書かれていた。
「分かりました。その依頼、お受けいたします」
「クロウ、良いの!?」
もしかしたら、魔法図鑑で見た召喚魔法の事がわかるかもしれないし。
護衛している間に遺跡を調べる時間を貰えればの話だけど。
「そうと決まったら次は報酬だな。そうだな急な事もあるし、迷惑料を含めて60,000Gでどうだ? ギルドポイントはそのままの150GPやるから」
「それだとジェレミアさんが40,000Gと取り分が少なくないですか?」
「私は金が欲しいわけじゃないからね」
「でも確かギルドランクの上位はSランクですよね。それ以上、GPを溜めて如何するんですか?」
まぁ、イディアがそう聞くのも当然だな。
F、E、D、C、B、Aと来て、最後にSランクに昇格すると聞いている。
ただAからSに上がるには1000GPが必要な事と、ギルドの特別な許可が必要らしいし。
「う~ん、本当はSランクに昇格した者が初めてギルドから教えて貰えるんだけどね。まぁ良いか、Sの上には更にSS、SSSランクがあるのさ。ただ、その道のりは果てしなく遠いんだけどな」
「なるほど。じゃ、序にAからSに上がるための許可っていうのも教えて貰っても?」
「それは後の楽しみという事で…………って話が逸れたね。早速で悪いけど、出発は明日の朝だ」
「仕方ないですわね。なるべく早く帰ってきなさいよ?」
イディアは流石に自分が行くことが出来ないと納得しているのか、文句を一言も言わなかった。
「話は此れで以上だ。明日の朝、ギルドの前に来てくれればそれでいい」
「わかりました」
そしてギルドを出て宿屋へと向かった俺達は、夕食時に俺が遺跡に行っている間の事について話し合った。
「ジェレミアさんの話では問題が起こらない限り、往復で6日との事らしい。その間、イディアは如何する?」
「1人で出来る依頼を探すって言いたいところだけど、エリスの事が心配だしね。エリスを手伝いながら、大人しく街の中で待つことにするわ。あと絶対に無理はしない事」
「言ってみれば、俺の役割は回復専門の補助要員って事だから、戦闘はジェレミアさんに任せて後方で待機する事にするよ」
「よろしい。本当は私も行きたかったけど、残念ながら戦力差で言って実力的に可也無理があるみたいだから」
「この前俺達が依頼を熟していた【オークロードの討伐】はBランクで、今回の【遺跡調査】はAランクの仕事だろ? BとAって近いように見えて遠い存在なんだな」
「それにSの更に上があるなんて知らなかった。私達もジェレミアさんの居る高みに昇る事が出来るのかな」
「努力次第ってところだろうな。結局、AからSに上がる為の特別な許可っていうのも教えてくれなかったし」
と此処まで話したところで、明日の出発が早いということもあって早めに休むことにした。
そして翌朝、遠足を楽しみにしている小学生のような想いで中々寝付けなかった俺は、寝不足の頭を無理やり覚醒させてジェレミアさんとの待ち合わせ場所であるギルドへと急いだのだった。