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第39話 帰還、そして……騒動

オークロードを討伐した日のキャンプで一寸したイベントが起こったものの、無事に3日目の夕方にドラグノアへ帰還した俺とイディアは真っ先にギルドの窓口へと向かった。


「依頼にあった、オークロードを討伐し終わった。確認を頼む」


俺はそう言って道具袋の中からオークロードの牙を取り出して、目が点と化しているディアスの目の前に置いた。


「ちょ、ちょっと待ってください。確かクロウさん達が此度の依頼を受けたのは、3日前でしたよね!?」

「ああ、行って倒して直ぐに帰ってきたからな」

「行って倒したって…………そんな簡単な事じゃないと思うんですが」


①2日かけてオークロードが出没している場所に行く。

②オークロードの姿を確認後、魔法を使って僅か数秒で全滅。

③倒したオーク・オークロードから討伐証明箇所を取得。

④その後、1日半でドラグノアに帰還。

魔法を使えなかったとしたら、それこそ倍の時間が掛かっていただろうな。


「こっちは早いとこ報酬貰って、帰って休みたいんだけど?」


俺の横でディアスに対して苛立ちを隠せないイディアが、つま先でトントンと地面を蹴りながら『さっさと済ませろ』と目で訴えている。


「し、失礼しました。報酬は40,000Gです。確かパーティーを結成したと聞いてるんですが、各自の取り分は如何しますか?」

「その内の10,000Gはパーティーの共有金に充てるつもりだからそのままで。後の30,000Gの内、13,500Gは俺に。残りの16,500Gをイディアに渡してくれるか?」

「えっ?」

「はい。わかりました」


ディアスはそう言い残すと席を立って窓口の奥へと歩いて行く。


その間にと報酬の件で納得がいかないイディアが俺に詰め寄ってきた。


「どういうこと? 共有金以外の30,000Gは半分ずつにするんじゃなかったの。それも活躍したクロウが多く取るならまだ分からないでもないけど、私の方が多く貰えるって意味が分からないわ」

「だって出発する時に、イディアがまだ共有金が無いからって食料費とかを立て替えてくれただろ? それを此処で返したに過ぎないよ。確か、1500Gで間違ってなかったよね」

「別にそんなことぐらい、気にしなくても良いのに。でも、そういうところは嫌いじゃないわ」


イディアは俺の言葉を聞くと、顔を赤らめながら俯き加減で人差し指で頬を掻いている。


「お待たせいたしました。クロウさんに13,500G、イディアさんに16,500Gでしたよね。残りの共有金10,000Gはどちらがお持ちになられますか?」

「イデ「パーティーリーダーのクロウに渡してくれればいいわ」……ィア?」


もちろん『イディアに』と言おうとしたところで、先手を打たれてしまった。

という事で共有金として丸銀貨1枚(10,000G)を受け取った俺は、序にと目の前のディアスに『オークの討伐』っていう依頼が出ていないか聞いてみるとギルド長である、ジェレミアさんの承認待ち状態である依頼書がある事を教えてくれた。


「ちょっと聞いてみますんで、少し間待ってほしいんですが構いませんか?」

「今度は余り待たせないでよね」

「了解です」


そしてその丁度5分後くらいに、ディアスが判が押された依頼書を手に戻ってきた。


「お待たせして申し訳ありません。こちらの依頼は【Cランク オーク10体の討伐 報酬:25,000G GP:30】 補足として【5体追加討伐ごとに3000G追加+10GP】になります。依頼を受けますか?」

「ああ、受ける……っというよりも、既に倒した後なので報酬を貰えるか?」

「そうだろうと思ってました。もう驚きませんよ、討伐証明部位の提出をお願いします」


俺はディアスのその言葉にイディアと口元を緩ませながら、笑いを堪えてオーク26体分の牙が入った道具袋をドンと窓口に置いた。


「途中で数えるのが嫌になったから、実際にどれだけあるのか分からん。数えてみてくれ」


実際には帰り道のキャンプ時にイディアと顔を見合わせながら本数を数えたから、其処に何体分の牙が入っているのか分かっているのだが『もう驚かない』と豪語したディアスの反応が見たいがために、そう画策したのだ。


「やけに沢山入ってますね。2、4、6、8……20、22、24、26……46、48、50、52……!?」

「あれ? 驚かないって言ってなかったっけ?」


傍から見れば、今の俺の顔は悪戯を成功させた子供の様になっているだろう。

イディアも『もう堪えきれない』と言って、ギルドの外に行ってしまったが、一人で何もないところで大笑いしているイディアの姿を思い浮かべると少し引くな。


「く、クロウさん? 本当に此れだけの数を?」

「討伐したから此処に証拠があるんだろうが! それとも何か? 此れが道に落ちていたとでも言うつもりか!」

「い、いえ、そのような事は……」


ディアスは自分が可也失礼な事を言ってしまったと後悔しているのか、あと少し突いてやれば泣き出すのでは無いかと思われるほどに表情を沈ませていた。


其処に空気を読まないイディアが腹を手で押さえて、涙目になりながらギルドに入ってきた。

あの様子を見る限りでは笑い過ぎて腹が痛くなったというところだな。


「もうからかうのは、その辺にしときなさいよ。あ~~面白かった」

「ああ、そうだな。これ以上やると俺が悪者になってしまいそうだし…………いや既になっているのか?」

「え? えっと、如何いう事ですか」

「ディアスが『もう驚かない』と言っていたから、此れだけのオークの牙を見せたら一体どうなるんだろうと思って試したんだ。あ、討伐してきたっていうのは本当の事だぞ?」

「クロウさん、酷いです」


隣の窓口で事態を静かに見守っていたエティエンヌと、たまたまギルドに来ていた数人の冒険者をも巻き込んで、シリアスな場面から一転してギルド内が大爆笑に包まれた。


事態の元となったディアスには気の毒という他はないのだが、これも通過儀礼の1つとして諦めて貰おう。


その後、騒ぎを聞きつけてギルドの奥から出てきたジェレミアさんに事情を説明して、俺とイディアは報酬とGPを受け取ってギルドを後にした。

後で聞いた話によれば、今回は笑い話で済んだからいいような物の、今後同じことをして冒険者を疑うような真似をした場合はギルドの信用に傷がつくとの事で、ディアスに対して改めてジェレミアさんからの新人教育が施されたという事らしい。


『少しディアスに悪い事をしたかな』と反省していると、イディアから『その場面の時に私はいなかったけど、冗談を抜きにしてギルド側からそんな事を言われたら私でも怒る』と言ってくれたことが嬉しかった。



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