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第37話 自分とイディアの身の上話

新しくパーティー登録をして共に行動することになった俺とイディアは早速、Bランク依頼を受けてドラグノアの街から歩いて1、2日の場所に出没しているというオークロードを討伐するために旅立ったのだった。


街を出発して約1時間が経過したところでイディアから『ただ歩いているだけでは暇だから』という事で簡単な自己紹介をすることになった。


言いだしっぺという事でイディアの事から話し始めたのだが、それは驚愕する経歴だった。

イディアによると今から5年ほど前までは、妹であるエリスと共にドラグノアに敵対しているという帝国のとある街で中級貴族の両親と共に暮らしていたそうなのだが、その父親が貴族とは思えないほどの腐った人間だったらしい。


自分より身分が上の偉い貴族にはゴマすりへつらい、逆に一般人や下級貴族といった下の者に対しては暴力で統治していたというのだ。

ある日、突然父親から、とある上級貴族に嫁げと言われたそうなのだが、当然の事ながら会った事も聞いた事もない人物の元に『はい。そうですか』と素直に行くほど馬鹿ではなかったイディアは当然の事ながらその話を断ったそうなのだが、その事で面目を潰された父親はイディアをまるで物を扱うかの如く痛めつけ、部屋に幽閉したそうなのだ。


その後、父親の目を盗んで会いに来てくれた妹エリスと共に屋敷を抜け出して、着の身着のままで国境を越えると、ドラグノアで冒険者として暮らし始めたのだという事らしい。


「私の身の上話は此処まで。さ、次はクロウの番だよ」

「そんな期待される程のものじゃないよ。それじゃ先ずは、俺の家族の事から話し始めるか…………」


そう言って俺はギルドでジェレミアさんに話した事に少し色を付けて話し始めた。


「まず最初に言っておくと、俺は普通の人間じゃない。と言っても、頭に角が生えていたりだとかいう事はないから其の変に期待するような目は止めるように」


俺は多種族の血を引いて生まれてきた存在であるという事を話し、代々家に伝わる書物を読み漁る事でエルフと普通に会話できるくらいにまで言葉や文字をを理解したという事を話した。


そして人間たちに阻害される事を恐れて滅多に人が近づく事のない山奥で、つい最近まで暮らしていた為に王都の子供でも知っているような一般常識の事が分からないと。

そして一般的にあまり知られていない魔術を使えるという事も正直に話した。


どうせ一緒に行動すればいつかはバレると思い、早々に白状したという事でもあるのだが。


「一般的にあまり知られていない魔法?」


図書館に置かれていた本の中に人間の言葉でもエルフの言葉でも無い文字で書かれていた事から珍しい魔法だと自分勝手に解釈しただけに過ぎないのだが、イディアも知らない魔法だとすると証明にもなるかな。


「家に合ったボロボロの本の内容からして、召喚魔法の類だとは思うんだけど」


俺はそう言って掌を前に向けて【マジックウェポン】を唱えると、周り中から光が手の中に収束して1本の剣を出現させる。


「何もないところから剣が!?」

「今は簡単な剣を魔力で作り出しただけだけど、頭の中で考える事で武器が具現化するから其の状況に応じて弓や斧、槍、剣などを使い分けることが出来る。でも周囲から奇異な目で見られる事は嫌だから、出来ればこの事を黙っていてくれると助かる」

「私も弓を使っているんだけど、その魔法で弓を使おうとした場合は矢は如何するの?」


俺はその疑問に応じるべく、先程の剣を解除すると改めてコボルト討伐時に使用していたボウガンを出現させる。


「弓も矢も一応は魔力で構成されているから、敵を攻撃するために矢を放ったとしても……」


そう言って上空めがけて矢を打ち出す。


「次の矢が既に弓に番えてあるという訳だ。ハッキリ言って、此れの原理がどうなっているかなんて自分でもわからないけどね。それと、もう1つ【マジックシールド】」


【マジックシールド】を唱えると手元のボウガンが消失して、代わりに薄い虹色の膜が俺を中心として半径2mを覆った。これも恐らくは込める魔力の量によって範囲が変わるんだろうな。


今回は必要最低限の魔力しか込めなかったから、これぐらいで済んだのだろう。


「これは【マジックシールド】 恐らくは敵の魔術から身を守るための物…………だと思う」

「如何して疑問形なの?」

「この魔法を憶えたは良いものの、周囲に魔術師が居なかったから実験することが出来なかったんだ。でも術を行使している状態で砂や石、葉っぱなどが膜を通過する事から、恐らくは魔法に対してのみ効果をするんだろうと思う」


その後は普通の魔術師が使う事が出来る【ファイア】や【ブリーズ】、【サンダー】を始めとして、旅の飲み水に活用できる【ウォーラ】や傷の治療に役立つ【ヒール】を見せたりして平原を進んでいった。


だが此処で肝心な事を見落としていたことをイディアの言葉で気が付く事となった。


「私にはクロウを始めとした魔術師の事なんてよく分からないんだけど、魔法を唱える時って詠唱が必要になるんじゃないの? クロウは【ファイア】なら、ファイアって言葉だけで術を行使してるよね?」


そう言われればそうだった…………自分自身が詠唱を必要としない事から、うっかりイディアの目の前で無詠唱で魔法を行使してしまったのだ。ヴォルドルム卿の前やセルフィの治療時の時は口元だけを動かして高速詠唱しているように見せかけていたというのに。


が実際、イディアに無詠唱を見られてしまった事から何とかして納得がいくような説明をしないと。


「お、俺も物心ついた時から無詠唱で唱えてたから多分、血の所為じゃないかと」

「なんか今考えたように聞こえるんだけど…………まぁいいわ、信用してあげる。何か事情がある事だけはわかったから。私もクロウが隠している事を根掘り葉掘り聞く事は趣味じゃないし」

「ありがとう、助かるよ」

「ただし、なるべく嘘はつかないで。同じパーティーの仲間なのに嘘ばかりつかれていると、信用されてないみたいで嫌だから」


やがて周囲が暗闇に包まれ始めた事で今日の行軍は此処までとし【ファイア】で火を起こして食事を摂ると、数時間ごとに見張りを交代しながら2日目の朝を迎えるのだった。


運が良い事に此処まで来る時に魔物に襲われることが無かったが、明日は愈々(いよいよ)オークロードが出没しているという場所に行くことになるので、今日のような余裕を持つことは、恐らく出来ないのかもしれない。


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