第35話 ギルドの制裁
『各種設定集』の方も更新いたしました。
タイトルも『第35話までの各種設定集』へと変更してあります。
5/24 一部文章に不適切な表現があったため、修正をいたしました。
コボルトを倒しに行ったはずが逆に襲われて死にかけたものの、何とか討伐依頼を成功させて森を出た俺は其処で腹部から血を流して倒れている意識不明の少女に出会った。
少女の傷を【ヒール】で治療して3時間が経過した頃、目が覚めた少女から事情を聞くところに因ると共に行動していた男女2人の冒険者から報酬の事で裏切られ、帰り道である此処で切り付けられたというのだ。
俺はそんな事の為に仲間を裏切った奴らの事が許せなくなり、未だ体力が完全に戻らずに立ち上がる事さえ出来ない少女を御姫様抱っこの要領で持ち上げると、一路ドラグノアに向けて走り出したのだった。
「そういえば今更だけど、名前を聞いてなかったね。俺の名前はクロウ、ギルドランクEの冒険者だ。君は?」
「わ、私はエリスです。ギルドランクは恥ずかしいのですが、Fです」
「あれ? エリスって、もしかしてイディアの知り合いの?」
宿屋での食事の時にイディアとグリュードさんの口から『エリスは何処行った?』という言葉を聞いていたので、もしやと思い聞いてみたのだが…………。
「姉さんを知ってるんですか?」
「同じ宿屋に泊っているから、名前に聞き覚えがあっただけだよ。それにしても……エリスみたいな小さな子でも冒険者に成れるんだね」
「あの、クロウさん? 私の事、幾つだと思ってます?」
「えっと12、3歳ってところじゃないのか?」
俺は質問が何を意味するのか分からずに、エリスの身長からして12歳くらいではないかと予想したのだが。
「クロウさん、凄く失礼です! 私は此れでも16歳です」
16歳っていうと、現代で高校2年生ってところか?
エリスを見る限りでは、どう贔屓目で見ても中学生くらいにしか見えないんだが。
「それにギルドへの登録は16歳からですから、嘘だと思うのならジェレミアさんに聞いてみてください。因みにイディアお姉ちゃんは私と3つ違いですから、19歳です!」
確かに子ども扱いした事は悪かったが、聞かれても居ないのに姉の年齢を簡単に暴露するのはどうなのだろうか?
そうこう話している間にドラグノアに到着したようで、俺とエリスは街の門で身分証明となるギルドカードを見せて街に入ると、一目散にギルドへと向かいギルドの入口の扉に手を掛けたところで、建物の中から聞きなれた人物の怒号が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! エリスが死んだって如何いう事よ!?」
物音を立てない様にしてそっと扉を開けて中に入ると、其処には男女2人組の冒険者に掴みかからんとしているイディアがエティエンヌとディアスに抑えられていた。
近くの壁にはギルドマスターであるジェレミアさんが表情を落とし、腕を組んだ状態で壁に寄りかかっている。
「エリスは帰ってくる途中で魔物に襲われて命を落としたんだ…………すまない」
イディアに対してそう言い訳をしている男は隣に居る仲間であろう女性に震える身体を支えられながら何とか立っているように見えるが、俺の居る方から見ると口元を緩めて笑っているようにも見える。
俺はギルドの柱に身体を隠すようにして腕の中に抱きかかえているエリスに『あの男女2人がパーティーの仲間で間違いないか?』と聞くと、険しい表情で頷いて肯定を示した。
「じゃあ、行くよ?」
「はい。お願いします」
「妹さんを守る事が出来なかった事を深くお詫びいたします」
「そんな嘘よ…………嘘だといってよ。ねぇ!」
イディアが身体を床に落としかけた其の時、俺とエリスは隠れていた柱の陰から姿を現した。
「お姉ちゃん、騙されないで!」
「え、エリス?」
窓口の前で身体を震わせて芝居をしていた男女2人は、エリスの姿を見て信じられないといった表情をしている。
「その人たちは自分たちの報酬の取り分を増やすために、帰り道で私を殺そうとしたのよ」
ギルド内に居た冒険者達は死んだと思われていたエリスの発言を聞いて、『エリスが死んだ』という言葉を発した男女2人の冒険者を視線だけで殺せるのではないかという殺気立った目で睨み付けている。
「エ、エリス、無事だったのね?」
「何を白々しい事を言ってるの。あなたが其の剣で私を斬ったんじゃない!」
「本当にエリスなのね? 幻を見てるわけじゃないわよね」
「そうよ、お姉ちゃん。でもクロウさんが、私が倒れているところに来てくれなかったら本当に死んでしまっていたかもね。それも魔物にやられた傷でじゃなく、裏切り者の剣によってだけど」
その瞬間、ギルドの中で悲しみに暮れていた10人の冒険者の視線が、一斉に身体を震わせている男女2人へと注がれる。
「ちっ、邪魔だ退け!」
男は自分の目の前でエリスを見て震えている女に足払いを掛けて転ばすと、その隙をついて逃げ出したが俺は逸早くそれに気づき、逃がすまいと男の足に向けて氷結魔法【ブリーズ】を放った。
その瞬間、男の下半身は床に固定されて身動き一つとる事は出来なくなっていた。
男はその状態になっても必死に逃げようと足掻いているが、下半身が完全に俺の魔法で凍らされて一歩も動けずにいた。
「エリスを裏切っただけでは飽き足らず、仲間の女をも見捨てて自分だけ逃亡するつもりか? 見下げ果てた奴だな」
「全くだね。2人には後から重い罰がくだされるだろうけど……」
ジェレミアさんはそう言って、他の冒険者に取り押さえられている件の冒険者に歩み寄ると、見ているだけなのに思わず頭を手で押さえたくなるほどの重い一撃を2人にお見舞いした。
「今は此れだけで勘弁してやるよ」
ジェレミアさんの痛恨の一撃を受けて意識を失ったところで、城から捕縛用の縄を持って遣って来た衛兵が2人を引っ張っていった。
俺自身もエリスの命の恩人だという事で現状を事細かにジェレミアさんに話した後、コボルトの討伐報酬+5体の追加討伐の報酬である17,000Gと自身のランクによって、加算処理された45GPを受け取ってギルドを後にした。
残念ながら【ウルフの討伐】といった依頼を見つけることが出来なかったので、コボルトを討伐する前に倒したウルフの牙は持ち越しとなってしまった。
ギルドで報酬を得た俺はすぐ隣の道具屋に足を踏み入れると、替えの下着を数点と鎧の下に着る、麻で出来た上下の服を合計1000Gで購入したのだった。
森での大怪我の際に血を流した所為で最初から赤い服を着ているのではないかと思われてしまうほどに、赤く染まってしまっているのだ。
更に服に付着した血が完全に乾いてしまったことで、可也動きづらい事にもなってしまっている。
俺はまだ日が高いとは思いながらも、色々な事が次々と起こって疲れはてた身体を休めようと、宿屋で前回泊まった部屋と同じ場所である【202】を借りて、先程購入した服に逸早く着替えるとベッドに身体を横たえた。
身体を横たえて少し休もうと思った俺だったが防具に付着した赤い血糊が酷く気になったため、宿屋の裏にある井戸から組んできた水と脱ぎ捨てた服を雑巾代わりに使用して時間をかけて念入りに血糊を落としていくのだった。
その後、完全に鎧が元の色を取り戻した頃には辺りは暗闇に包まれようとしていた。
「どっちみち身体を休める事は出来なかったか」
固まった腰を手で叩きながら背筋を伸ばしていると、入口の戸を叩く音が聞こえてきた。
「お~い、クロウ居るか?」
「あ、グリュードさん。何か御用ですか?」
「おっ帰って来てたか。イディアとエリスが改めて今回の御礼を言いたいそうだから、食堂まで来てくれだとよ」
「分かりました。直ぐに支度を整えて下りますんで、少し待っていて欲しいとの伝言をお願いします」
「ちっ、俺は伝言係じゃねえんだぞ……分かった。伝えといてやるから、さっさと降りて来いよ」
それから数分後、すっかり汗臭くなった体をさっと水で拭くと、身だしなみを整えて階段を下りて行った。
階段を下りている途中でイディアとエリスが俺の姿を見つけると走り寄ってきて御礼を言ってきた。
「本当にありがとう。クロウが居なかったら、エリスは助からなかったわ」
「クロウさん、ありがとうございました。あの後、姉さんに『知らない人に簡単に付いて行くな!』って、こっ酷く怒られちゃいました」
「困ったことがあったら何時でも言ってよ。私で力になれる事なら、何でも協力するから」
困ったことがあったらか、確かに今少し困ったことが起きているんだけどお願いしてみようか。
「本当なら当然の事をしたまでだって言うところなんだけど、実は今少し困っているんですよ。出来れば相談に乗って貰えませんか?」
俺は今回の事を踏まえて信用のできる仲間とパーティーを組みたいと考えていたので、思い切ってイディアに相談することにした。
「どんなことですか?」
「実はエリスを助けた日の1日前にコボルトの討伐依頼を受けて森に入っていたんだけど、其処で不意を突かれてコボルトに背後から襲われて絶体絶命の危機に陥っていたんだ。其処で出来れば誰かとパーティーを組みたいと思っているんだけど」
「でもクロウほどの魔術師なら、ギルドで組んでくれる冒険者を探せば直ぐにでもパーティーを組めるんじゃないの? 初日のあの騒ぎは、クロウが誰と組むかで揉めてたんだし」
「確かにそれはそうなんだけど、俺としても今回のエリスの騒ぎがあった事から信用できる仲間と組みたいと考えてるんだ。このような騒ぎが二度と起こらない試しはないだろ? そこでイディアが信用できると思った冒険者を俺に紹介してくれないかと思って」
「なるほど、考えておくわ。悪いけど、明日の朝まで時間を頂けるかしら?」
「ああ、頼むよ。良い返事を期待してる」
そう言って俺はそのまま食堂で夕食を済ますと、部屋に戻って今度こそ身体を横たえた。